第54話:【悲報】物理と魔導と怨嗟の「三つ巴」,お嬢様の時価総額がボロボロすぎて逆に燃えてきた件
溶ける泥濘
紅蓮の魔女が降臨した瞬間,戦場の空気は一変した。 先ほどまでアリシアを苦しめていた冷たい泥濘は,一瞬にして沸騰し,ガラス状へと変質していく。 枢機卿の「冷たい鉄」と,魔女の「猛烈な炎」。 相反する二つの絶望に挟まれ,アリシアの肌は熱波で焼け,同時に背後からの鉄の圧力で骨が軋む悲鳴を上げた。
「……。…….あら。冷房の次は暖房ですか? サービスが過剰すぎて,わたくしの体がもちませんわ」
アリシアは吐血しながらも,口角を歪めた。 彼女の銀髪は焦げ,かつての公爵令嬢としての面影は泥と血の下に完全に消え去っている。 まさに,あの日見た「絶望的な敗戦」の再来であった。
伏線:紅蓮の魔女の消えない傷
魔女の周囲に浮かぶ魔導陣は,彼女自身の「焼かれた記憶」を燃料に燃え盛っている。
彼女はかつて,魔導帝国の「神童」と持て囃された王女であった。 しかし,帝国の存続を賭けた究極の魔導実験において,彼女は生贄に選ばれた。 祭壇に縛り付けられ,愛する家族や国民が見守る中で,彼女は生きたまま「太陽の欠片」を体内に埋め込まれたのである。
「熱い……お父様,お母様,助けて……」
幼い彼女の願いは届かず,彼女の体は内側から焼き尽くされた。 その時,彼女を救ったのは希望ではなく,「自分を焼いた全てを灰にする」という真っ黒な殺意であった。 彼女が目を覚ました時,背後にあった美しい帝国は,彼女自身の放った業火によって跡形もなく消え去っていたのである。
「愛も秩序も,焼いてしまえばただの灰。……アリシア,貴方のその『傲慢な意志』も,私の孤独な炎で消し炭にしてあげるわ」
魔女の指先から,因果を焼き切る極大の炎弾が放たれた。
大苦戦:限界突破の「負債」
「ガ……ッ!!」
炎弾がアリシアの肩を掠め,肉を焼き焦がす。 逃げ場はない。 正面からは,再構築された枢機卿の鉄拳が地響きと共に迫る。 頭上からは,魔女の降らせる火の雨が逃げ場を奪う。
アリシアの「考えるのをやめる」という天賦の才すら,二人の「重すぎる人生」を前にしては飽和状態に陥っていた。 一撃受けるたびに,彼女の「命の残高」が猛烈な勢いで削られていく。
「お姉ちゃん! だめだよ,これ以上は! 二人の出力が合わさって,空間そのものが『アリシアを拒絶』し始めてる! このままじゃ,お姉ちゃんの存在が市場から消えちゃう(死ぬ)よ!!」
少女の絶叫が響くが,アリシアの耳には届かない。 彼女はボロボロの腕で,必死に枢機卿の盾を殴りつけ,魔女の炎を素手で振り払っていた。 それはもはや華麗な令嬢の戦いではなく,泥の中でのたうち回る獣の足掻きであった。
交錯する怨嗟:地獄の競り市
枢機卿の鉄と,魔女の炎。 二つの理不尽な過去が,アリシアという一点において激突し,火花を散らす。
「汝の空虚な『暴力』に,我らの絶望は屈さぬ!」 「全て灰になれ。貴方のその『理不尽な笑み』ごと!!」
二人の怪物の声が重なり,アリシアの意識が再び闇に沈みかける。 だが,泥と血に塗れた彼女の指が,再び「壊れた時計」に触れた瞬間,彼女の中で何かが弾けた。
「……。…….三行で言いなさいな。……要するに,二人揃って,わたくしに『本気』になってくださっているということですわね?」
アリシアは震える足で,ガラス化した大地に踏み止まった。 彼女は気づいていた。 この激痛も,この熱さも,この重みも。 全ては,彼女が手に入れたかった「本当の価値」そのものであることに。
「……素晴らしいですわ。これほどまでに高い『仕入れ値』……。わたくしの全人生を賭けてでも,買い叩く価値がありますのよ!!」
アリシアの瞳に,枢機卿の鉄と魔女の炎が反射し,黄金色の光を放ち始めた。 大戦争は,今や「三大怪物」がお互いの命を削り合う,地獄の最終競売へと突入した。




