第2話:【悲報】会議したけど実質ソロプレイw 指揮官の命令、ガチで誰も聞いてない件
自ら命を絶つ勇気も、敵陣に単身突撃して果てる潔さも、今の私にはありませんでした。 冷たい雨が体温を奪い、指先の感覚はとっくに消えています。
(……ああ、寒い。……重い。何もかもが、もう……)
思考が急激にネガティブな深淵へと引きずり込まれそうになります。魔力を持たず、家柄という盾も失い、残ったのは泥に汚れたこの身一つ。 そんな弱気な自分を殺すように、私は煤で汚れた両頬を、赤くなるほど強く叩きました。
パンッ、と乾いた音が雨音を裂きます。
痛みで無理やり意識を浮上させ、私は重い足取りで一番大きな――といっても、あちこちに継ぎ接ぎがある――天幕の中へと入りました。
「……報告を。それと、軍議を始めます」
中には数人の部隊長たちが、湿った革の臭いを漂わせながら、不機嫌そうに座っていました。 机の上には、雨水で滲んで使い物にならない地図が広げられています。
私は椅子に座ることも許されないような空気の中、立ったまま、王都で叩き込まれた軍学の知識を絞り出しました。
「現状、我が軍は包囲されています。東の街道を塞ぎ、西の森に斥候を出しなさい。それと、食料の配給を半分にし、残りは予備兵力へ……」
私の声は、雨漏りの水滴が地面を叩く音にさえ負けそうなほど、細く、震えていました。 それでも必死に、生き残るための最善策を一つずつ提示していきます。
「……以上です。何か質問は?」
問いかけに対して返ってきたのは、沈黙だけでした。
一人は、耳の穴を小指で掃除しながら、天井の雨漏りを眺めています。 もう一人は、錆びたナイフの刃を黙々と研ぎ続けており、その不快な金属音だけがテントの中に響いていました。 伍長にいたっては、大きなあくびを噛み殺し、私の方を一度も見ようとしません。
反対意見すら出ない。それは、私の言葉に検討する価値すらないと断じられている証拠でした。 彼らの瞳にあるのは、「どうせ何を言っても無駄だ」「早く終わらせてくれ」という、どろりとした無関心。
私の命令は、彼らの耳を素通りし、足元の泥の中にそのまま消えていくようでした。 彼らにとって、私は命を預ける指揮官ではなく、ただの「王都から捨てられるのを待つだけの置物」に過ぎない。その残酷な事実が、言葉よりも深く私を突き刺しました。
「……解散。各自、持ち場へ」
私がそう告げると、彼らは敬礼一つせず、椅子を乱暴に引いて立ち上がりました。 一言の言葉も、視線の交差もなく、彼らは連れ立って天幕を出ていきました。 すれ違いざまに、わざとらしく大きく吐かれた溜息が耳に届きましたが、私はただ、じっと自分の足元を見つめることしかできません。
一人残された天幕で、私は自分の拳を強く握りしめました。
魔力はない。人望もない。そして、命令一つ通らない。 掌に食い込む爪の痛みだけが、私がまだ死んでいないことを教えてくれました。
(……。……いいでしょう。今は、それで構いませんわ)
心の奥底で、何かが静かに、しかし決定的に壊れた音がしました。




