Angelblood 第3章前編【薬】
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悠蛹(@snghrk2414)
デプラは、包帯を巻かれた体で目を覚ます。
〈ここは? 家?〉
——部屋には薬草の匂い。
傍らには、寝台にもたれファルムが眠っている。デプラの腕の上には、彼女の小さな手が重なっていた。
デプラが身じろぎすると、ファルムは目を覚ます。
「…よかった! 気がついた」
彼女は安心したように目を細め、デプラを見つめる。
「ここは…?」
「ここはね——」
ファルムの言葉の途中で、部屋の入り口から老婆が現れる。
「まだ横になっていなさい。血が戻りきっていない。」
老婆は二人の様子を見ると、すぐ部屋の外へ戻り、戸から見える炉の前に立つ。
煎じ薬の湯気が立ち上り、空気に青い香草の匂いが混じる。
老婆は背が低く、色の異なる布を複数重ねた服を着ている。
作業を続けながら、彼女は口を開く。
「街に移る人間は多いが、出てくる者は少ない」
「皆、あの街で血に溺れる」
ファルムは老婆のそばへ行き、何かを手伝っている。すっかり懐いた様子だ。
「助けてくれて、ありがとう」
デプラは感謝と、二人の名前を伝える。
彼女は煎じ薬をデプラへ差し出し、レムナラと名乗った。
***
夜――
ファルムは布に体を包まれ、静かに寝息を立てている。
デプラは、火のそばで薬草を編むレムナラに近づく。
「明日にでも発った方がいい。今は眠りなさい」
レムナラの言葉に頷きつつも、デプラは彼女の近くに座る。
——少しして、デプラは口を開く。
「ファルムは、この世界にいる限り……これからも逃げ続けなきゃいけないのかな」
彼は火を見つめる。
「彼女と初めて会った時、自分の意思でこの世界に来たようには、見えなかった」
老婆は無言で先を促す。
「もし元の世界に返す方法があるなら、この世界から逃したほうがいいのかもしれない」
レムナラは手を止めず、答える。
「門は謎が多い。発生する場所も、時間も法則がなく、あの先に彼ら——天使の世界があるのかも分からない」
「けれど、一度だけ。こちらの世界から、門へ天使が落ちるのを見たことがある」
デプラは驚き、レムナラを見つめる。
彼女は一度、自嘲気味に鼻を鳴らすと、話を続ける。
「昔、研究者だった頃さ」
「天使——彼らのことを知りたかった。理解して、共に生きたかった」
レムナラは目を伏せる。
「けれど、私の研究は結果的に彼らへの悪意——欲望に加担してしまった」
「協力してくれた天使たちは、皆自由を奪われてしまった」
老婆は手を止める。
「私が逃せたのは一人だけ……彼女は私にとって友人であり、他の天使や人間よりも特別な存在だった」
レムナラは遠い過去を見つめる。
「逃げる最中、偶然目の前に、門が現れた」
「……結局、救えたのかどうかは分からないままだけれど」
レムナラは息をつく。
デプラは何も言えず、ただ彼女を見つめた。
レムナラは静かに立ち上がると、編み終えた薬草を壁へ吊るし、ファルムのそばへ座る。
「ファルム、この子は普通の天使とは違う」
「いいえ……この子が正常なのかもしれない」
「私があなた達を見つけた時、この子は私に頼み込んできたの。……あんなふうに、天使から助けを求められたのは初めてだった」
レムナラはファルムを見つめながら話す。
「天使はこの世界に落ちてすぐ、人間の欲望に晒され、捕まってしまう」
「何かを望むことを……最初に奪われてしまう」
デプラはレムナラの言葉に、屋敷で囚われていた他の天使達を思い出し、拳を握る。
「この子が光を失わなかったのは、最初に出会ったのが、あなただったからかもしれない」
老婆は静かにファルムの髪を撫でる。
――まるで過去の友人を見ているように。
***
翌朝――
レムナラはファルムに服を着せる。
「ほおら、これで少しは走りやすいだろう」
ドラヴィエルのもとから逃げてきた服は、とても動きやすいとは言えなかった。
レムナラはデプラに向き直る。
「この森の先に、昨日話した天使が門に落ちた場所がある。目的地が無いよりはマシだろうさ」
新しい服に喜ぶファルムを、二人は見つめる。
「追われているんだろう? はやく行きな」
「「ありがとう」」
二人は礼を言い、森の奥を目指して小屋を後にする。
***
風がざわめき、湿った空気が肌にまとわりつく。
木々の間から、いくつも蠢く影が現れた。
デプラがファルムと影の間に立つ。
「人……なのか?」
人影——拘束衣のような布は全身に巻かれ、顔を覆い、彼らの細い肉を締め付けている。
口からは涎を垂らし、隙間から覗く黒い目は、血に濡れたような光を宿していた。
読んでくださってありがとうございます!
今回はだいぶ説明回になってしまいました…
テンポは本当に大事にしてる部分なので、説明もし過ぎない、けれど必要な情報はしっかりと。
うまくやって行きたいです。




