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GateFragments  作者: 悠蛹
第1巻 Angelblood―血の支配―

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5/27

Angelblood 第2章後編【煙草】

Angelblood完結記念コンテスト開催!

2025.12.15〜2026.01.31


Xのポストにて詳細をご確認ください。

悠蛹(@snghrk2414)

「コルヴはなぜ来ないんだ?」

 屋敷への潜入決行前、デプラはコルヴへの疑問を口にする。

「俺は、ちまちま動くのが苦手だ」

 デプラは初めてコルヴに会った時——バーの惨状を思い出し頷く。

「潜入は人数が少ないほどリスクが低い、家族を取り返すだけなら尚更だ」

 コルヴはデプラを一瞥すると、深く息をつく。

「それに、あの屋敷には二度と立ち入らない、戻らないと誓っている……この誓いは破れない」

 デプラはコルヴを見つめる。

「あなたには十分助けてもらった。今度は俺が、ファルムを助けるだけだ」

 コルヴはにやりと笑い、頷く。

「ああ、今のお前ならやれる。頑張れよ」


 ***


 コルヴから教えられたルートで、デプラは屋敷へ潜入する。

〈おそらく、警備員の数は少ないだろうな〉

 デプラは、コルヴから与えられた事前の情報を思い出す。

〈奴は——ドラヴィエルは、狩りを楽しむ〉

 自らは門の捜索を行わず、発見者と交渉し、破談すれば奪い取るのだという。

〈その実行部隊が——ミレルだ〉

 

「ミレル……」

 コルヴの言葉通り、屋敷の警備は異様なほど薄い。

 デプラは、試飲会場と思われる広い部屋を見つける。壁に飾られた翼が、不気味なほど白く、室内を取り囲んでいた。

 更に屋敷内を捜索し、警備された地下への扉を見つける。

 貯蔵室——と扉の前には文字が刻まれている。

〈警備が二人……こちらには気付いていない〉

 デプラは懐から、球状の道具を取り出し、それを見つめる。

〈これ……〉

〈デプラ、お前はこれを使うのは嫌だろうが、手段は選べない……誰も殺さないなら、尚更だ〉

 デプラは煙玉を警備の足元へ投げる。

「ん?」「なんだ?」

 警備が煙を吸い込む。途端に二人の眼球が焦点を失い、恍惚とした表情を浮かべながら気絶する。

 警備から鍵を奪い、デプラは扉を開く。

 地下は清潔だが暗く、空気が重い。

 首に下がるペンダントの淡い光だけが、壁を薄く照らす。

 先へ進むと、複数の扉が並ぶ空間へ辿り着く。

 扉の先にはそれぞれ、天使がしまわれていた。


〈いいか、全員助けようとは思うなよ〉

〈そんなことをすれば捕まって終わりだ〉

〈お前の目的は——〉

 脳裏にコルヴの声が響く。

「……わかってる」

 デプラは扉のひとつに近づく。中には片翼の天使が膝を抱えている。飼われて長いのか傷が多く、その目は青黒く染まっていた。

 扉の取手を掴む。

〈ここまで来て、失敗はできない……〉

 デプラは唇を噛み、奥へ進む。


 最奥。痩せて小柄な男と大男の二人が、扉の前に立っている。

〈きっとあそこだ〉

 隠れる場所は無く、ここから煙玉を投げても、まず先に見つかるだろう。

 デプラは静かに、ナイフを構える。


 ***


「止まれ!」

 窓の無い部屋、唯一の出入り口の先から、男たちの声が響く。

 硬く冷たい壁。使用される時にしか、音も聞こえず、開くこともない扉。

「っぐ!」

 呻き声が聞こえる。

 ファルムは立ち上がり、ゆっくりと歩きだす。

「なに?」

 彼女は扉に近づくが、中から外を覗く事はできない。

「デプラ……?」

 翼を奪われた天使は、記憶の中——扉の先へ感じる彼を想った。


 ***


 デプラは先手でナイフを大男の腿へ、二本目を小柄な男の腕へ目掛けて投げる。

「っぐ!」

 一本は太ももに命中し、大男は体勢を崩して倒れ込む。腕を狙ったナイフは狙いをずらされ、皮膚を撫でる。

「っつあ!」

 距離を詰める相手。デプラはすかさず追撃を小柄な男へ投げつけ、武器を持つ手に当てる。

「っくそ!」

 ナイフを当てられ、男は武器を弾き飛ばされる。小柄な男は床に落ちたナイフを拾い上げ、デプラへ飛びかかる。

 デプラは左手に持ったナイフで、相手の刃物に応戦しつつ、もう片方の腕で追加のナイフを取り出し、男の腕へ突き刺す。

「うぐぁ!」

 倒れた男の奥から、先ほど腿にナイフを当てたもう一人の男が、デプラとの距離を詰めていた。

 大男は、デプラの脇腹にメイスを叩き込む。

「——っ!」

 瞬間、デプラは体を捻り衝撃を柔らげるが、腹部にじわりと熱が広がる。

 隙をついた男は、デプラの横をすり抜け、通路に設置された警報装置を鳴らす。

「しまった!」

 デプラはナイフを投げつけ、男は倒れるが、既に警鐘が鳴り響いている。


「ファルム!」

 デプラは急いで扉をこじ開ける。

 

 彼女は、そこに立っていた。

 無数の採血痕、背中の大きな傷。

 ——だが、瞳には出会った時と同じ、美しい青い光が宿ったままだ。


 彼女を抱きしめる。

 そんな時間は残されていない、すぐにでも逃げなければ。

 しかし、この瞬間溢れた自身の想いを無視できるほど、デプラは冷静ではなかった。

 ファルムは応えるようにそっとデプラの胸に身を寄せ、互いの存在を確かめ合う。

 体格差は入れ替わり、ファルムの背中には翼がないぶん、腕をまわしやすい。


 ファルムの方から身体を離す。

「走ろう!」


 鳴り響く警鐘——

 後ろから警備兵が追いかける。

 デプラは逃げながら、ファルムが兵士に追いつかれないように、ナイフ投げと煙玉で応戦する。


 ***

 

 追手を振り切った二人は、街から少し離れた廃屋に身を隠す。

「見失ったみたいだ」

 デプラは息を整えながら、外の様子を窺う。

 ファルムは息を切らし、へたりこんでいる。


 呼吸も安定した頃、デプラは懐から箱を取り出す。

 屋敷に入る前、コルヴから勝手に拝借した煙草だ。

「珍しい嗜好品らしい、師匠がこれ好きなんだ」

 コルヴの使い方を思い出しながら、ぎこちなく箱に葉と火を入れる。その様子を、ファルムは優しく見守る。

「……」

 久しぶりの状況に、デプラは少しくすぐったさを感じる。

 箱の側面に空いた穴から煙がのぼる。

 デプラはゆっくりと顔を近づけ——盛大に咽せた。

「それ、美味しいの?」

「ん……いや、苦い」

 ファルムがデプラの方へ寄る。

「……私も」

 ファルムは箱の煙に顔を近づけ、同じように咽せる。

 二人は互いを見つめ、笑い合う。


 ——雨の音。

 二人を隠すように、外は音で満たされている。


 不意にファルムが、デプラの頬に触れ、顔を近づける。

 デプラは戸惑うが、ファルムの青い瞳から目が離せず、固まる。

 箱からのぼった煙が、薄く天井へと消えていく。

 

 少年と少女は、少しの間——静かに見つめ合っていた。

 

 ***


 屋敷――

「申し訳ありません!」

 警備兵が、屋敷の主——ドラヴィエル公爵へ報告を行う。

 ドラヴィエルは冷たい笑みを浮かべている。

「おい」

 彼の声に、そばで控えていた執事が、液体の入った瓶を運んでくる。瓶の口を開け、主人へ手渡す。頭を下げていた警備兵を含む室内の使用人全員が、瓶から香る匂いと、美しい青色の液体に五感を奪われていた。

 ドラヴィエルは瓶の注ぎ口に顔を近づけ、香りを愉しむ。

「私は狩りが好きだ」

 警備兵が再び頭を下げる。

「だが、そのために警備を薄くしていたのは——私の失敗だった」

 彼が瓶を持つ手を軽く掲げる。

 ドラヴィエルの背後の影が揺らめき、複数の人型が瓶に群がる。

「行け」

 ドラヴィエルの命令と同時に、影は姿を消した。

 屋敷の主は、お気に入りを逃した警備兵へ、徐に視線を戻した。


 ***


 廃屋を後にし、二人は森の中を進んでいた。


 デプラの足取りが徐々に重くなり、視界が揺らぎ、彼は倒れ込んだ。

「どうしたの……?!」

 脇腹に受けた傷の悪化が原因で、ここまで逃げて来れたのが不思議なほどだ。

 ファルムが駆け寄り、デプラの名を呼ぶが、意識が遠のいていく。


 森の木々の間から現れた影が、二人に近付いていた。


読んでいただいて、本当に嬉しいです!

ありがとうございます!


煙草のシーン、どうでしたか?

ここ、結構好きなシーンなので共感してもらえたら嬉しいです。天使の血がある世界で、煙草。


二人は再開し、逃亡を始める。

逃避の末にあるもの。

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