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GateFragments  作者: 悠蛹
第4巻 World and World Magic―世界と世界の魔法―

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W&WM 第二章中編【黄金の記憶】

「……いや、いい。それより、どうしてこの屋敷にいる」

 コルヴは最初の質問へ戻る。


 ヴェレは不遜な姿勢を崩す事なく、男を見つめる。

〈一対多、こちらには蛍月もいる。ここは会話して、様子を見るしかない〉


「天使、それと『門』について知るため」


〈天使や門のことをよく知らない、そのうえ、"魔女"という言葉、この世界の人間が知っているはずもない……〉

 コルヴは確信を得る。

「天使と門について知らない人間がいるとはな。この世界では常識だぞ」


 その言葉に、ヴェレは鼻で笑う。

「一般的な知識では足りない、私はもっと知りたいんだ。そのためには、以前それらについて研究していた者を見つける必要がある」


「なぜそれを……」

 短く呟いた男の言葉に、ヴェレは答える。

「この屋敷の主人に聞いた」

 取り囲む者たちに一瞬、動揺が見えた。

「……奴の部屋には、近衛も含め姿がなかった。お前の仕業か」


〈我々が屋敷に侵入した時、数名の兵士が倒れ、錯乱していた。奴の魔法と見て良いだろう〉

〈彼らは肉体に怪我を負っていなかった。こいつの魔法、物理的な破壊ではないと推測できるが……〉


 彼は奥歯を噛み締める。

〈その方が良かった……。女性ひとり、戦い慣れしている様子もない。そのうえ子供を連れている。一度発動すれば、戦闘にすらならない能力という可能性が高い〉

〈既に発動されている場合を想定しても仕方がない。発動していないなら、何か条件があるという事か。例えば――連続での発動ができない、準備が必要、複数人同時には使えない…〉


「なあ」

 ヴェレが痺れを切らしたように口を開く。

「もう良いか? 用事があるんだ」 

 この先に、天使が収容された地下への階段がある。コルヴは彼女の視線に気付く。

「待て、用事ってのはなんだ?」


「天使だよ。この屋敷の地下に囚われている天使を拝みに行くんだ」


〈やはりか……だが、焦らず様子を見るべきだったかもな〉

 コルヴを含む彼らは、ヴェレの迷いのない足取りが、地下への扉へ向いているのを発見し、急いで取り囲んだのだ。

「奇遇だな、その天使たちの解放が我々の目的だ。となれば、アンタらをこのまま行かせる訳にはいかないし、同行してもらう」


「なぜ一緒に行動しなきゃならない? 私は、知識として天使に興味があるだけだ」

 ヴェレは横目で、取り囲む者たちを観察する。



〈まずは魔法の発動を防ぐこと――ならば、奴の欲しい情報を持っていることを匂わせる。そうすれば、無闇に魔法で攻撃して、こちらを行動不能にはしないはずだ〉

「研究者の居場所を知ってるといったら?」

 コルヴの言葉に、微かにヴェレの眉が動く。

「……」

〈この男、知っているのか、研究者の居場所を。今すぐにでも魔法を使いたいが、多勢に無勢の現状ではリスクが高い。機会を得るためにも、従っておくしかないか〉

「良いだろう、仲良く天使の解放といこうか。私はヴェレ、こいつは蛍月」

「コルヴだ、よろしくな」

 二人は形ばかりの笑みを湛え、共に歩き出した。


 ***


 魔女と少女を含む集団が、互いに警戒を隠さず、地下への階段を降りる。

 解放軍の一人がコルヴに近寄り、低く声を掛ける。

「良いんですか? 数ではこちらが有利です、今のうちに拘束した方が――」

 コルヴは兵士を手で制する。

「あの態度、虚勢かもしれんが油断はできない。本当に魔法が使えるなら、勝ち目はないかもしれん。

 使ってこないのは条件があると見える、そのきっかけが、こちらの攻撃という可能性もあるからな」


 コルヴは少女を見る。魔女の手首をしっかりと握り、階段を慎重に降りる蛍月を見ると、頭を振った。無造作に頭の後ろで束ねた髪が揺れる。

〈くそ、あの子供を見ていると、昔を思い出す……〉


 階段を降りた先は、薄暗い地下空間。天使が囚われているはずだが、空気は澱み、物音ひとつしない。

「手分けして、天使を解放しよう」

「ヴェレは俺とだ」

 コルヴが仲間へ指示を出し、ヴェレへ向き直る。

「その子は地下の入り口で仲間の一人と待機させる。おかしな真似をするなよ」

 ヴェレがコルヴを睨む。

「素早く済ませるぞ」

「「はい」」

 コルヴと蛍月、そして不機嫌そうなヴェレを置いて、仲間が散る。

「こい」

 解放軍の女性が蛍月の腕を掴む。蛍月がびくりと震え、身体を強張らせる。

 ヴェレが近づき、蛍月の鈴を指で弾く。

 その乾いた音色に、蛍月の意識が過去から引き戻される。

「待っていろ、必ず戻る」

「うん…!」


「いくぞ」

 コルヴの言葉に、ヴェレは不服そうな様子を見せながら、内心ほくそ笑んでいた。


 ***


 地下の一室。その扉を開けると、そこには天使がいた。

 光を通す白い髪、陶器のような肌。だが、翼は無く、背中には焼き切られたような跡だけが残っている。

「さあもう大丈夫、ここから出よう」

 コルヴが駆け寄り、膝をつくと、天使が顔を上げる。その青い瞳は暗く、光を反射しない。

「……っ」

 コルヴが顔を歪めた時、彼の背後から忍び笑いが聞こえる。

「くく、これが天使か」

「社会に搾取され、人として扱われず使い捨てられる、無垢なる価値の化身」

「ああ……そうだな」

 コルヴが天使を見つめながら、鈍く相槌を打つ。


「で、研究者はどこにいる?」


「まずは天使たちをここから脱出させる、外にも仲間が待機している。彼らに天使を預けたら、直接あいつの所へ連れていってやる」

 コルヴが振り返ると、彼の目にエメラルドの光が映る。

「そこまで付き合うつもりはない」

 そう言いながら、魔女が右手を宙へかざす。

 房内が一段暗くなり、彼女の瞳の中に魔法が宿る。

「お前の『天使を屋敷から救出する』欲望を叶えよう」

〈情報さえ得てしまえば、もう従う必要はない〉

「対価として、『研究者"レムナラ"の居場所』の情報を徴収する」

 魔女の中へ、知識が、記憶が流れ込む。


 その瞬間、ヴェレの瞳がみるみる開かれ、口角が吊り上がる。

「ハッ! お前こそ――"何者"で"どこから来た"んだ?!」

 ヴェレは、彼の名を呼ぶ。

カヴォル(Cavor)


「……」

 カヴォルと呼ばれた男――コルヴは何も言わない。


「お前は、元々は別の世界にいた。一人の少女の、神の如き力、それを与えられた黄金の騎士」

「その布や革の下に、御伽話のような永遠に朽ちることない肉体がある」

 ヴェレの語る内容が真実であると、彼の引き結んだ口元が肯定していた。


「お前のいた世界でも、門が現れたんだな。その門に呑まれ、今もここにいる」

「『門』、ますます興味が湧いた」


「待て!」

〈天使を解放したら、まず仲間に引き渡す必要がある。魔女を一人でレムナラの場所へ行かせるのは危険だ〉


「もう研究者レムナラのいる場所は分かったし、お前から得られる知識もない」

 そう言い残し、ヴェレが部屋を去ろうとすると、魔法の光が再び現れる。

「っ!」

 緑の鋭い光が、彼女の首や手首を縛り上げる。


「まさか……!」

 ヴェレがコルヴとの会話を思い返す。

〈「良いだろう、仲良く天使の解放といこうか」〉


Prētium(プレーティウム) Absolūtum(アブソルートゥム)』の原則――

 魔法の使用者、または対象者が欲望の叶え方を提案し、双方の合意があった場合。同意した方法により、欲望は叶えられる。

 この原則を、魔法の使用者は知らない。

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