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GateFragments  作者: 悠蛹
第4巻 World and World Magic―世界と世界の魔法―

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W&WM 第一章【世界渡りの種】

 魔無マナが魔法を得た事実を、社会は隠蔽しようと画策した。ヴェレを特異体と呼称し、捜索と排除を命じた。

 魔女は単独で行動し、一所に留まることはなかった。これが災いし、各地で目撃例や圧倒的な魔法の効力が恐れられ、そして羨望の対象となった。

 魔無を虐げる魔法社会の根底を揺るがす事態に、不安は膨れ上がり、弾圧は過激化した。

 魔無の中に燻っていた反逆の徒も、魔女の存在を象徴に祭り上げ、掲げられた鮮やかな緑色を旗印に抗争へと発展していった。


 渦中のヴェレは戦争に参加せず、目的の存在を探して、ある場所を訪れた。

 そこは魔法の膜が貼られ、外部からの意図しない侵入を拒絶している。

 世界渡りの種、その一人が、この施設で保護されている。少女は生まれつき視力が殆ど無く、成長するにつれ、視界に映る僅かな光も、失われた。瞼の上には布が巻かれ、耳の後ろで結われている。

 用意された部屋の中で、彼女は遊ぶ。

 赤い紐に鈴が付けられ、それを軽く投げたり、ぶらぶらと揺らしている。粘土やブロックなどが置いてあるが、収容されてから数年間、これ以外の娯楽は与えられていない。

 狭い部屋で、睡眠と食事、検査の繰り返し。施設の者たちは、少女に触れることを避け、会話も一方的な質問のみだった。


 ***


『二人組にさせるな!』

 特殊な力を持つという種族が隠れ住む、辺境の地。そこに武装した集団が襲撃を行った。


『お父さん! お母さん!』

 少女は叫ぶが、熱と煙、周囲に響き渡る音と声に掻き消される。

『どこにいるの?!』


『こい!』

 少女の腕が女に掴まれ、強引に引かれる。

『いやだ! 助けて!』


 瞬間、少女の頭部に生えた小さな角が淡く光る。

『なに?!』

 ――途端、周囲の景色が変わる。

 舗装された通り、賑わう街並み、行き交う人々。

『くそっ! どこだここは?!』

 女が興奮して声を荒げる。

『いたっ!』

 少女の腕を掴む手に力が入る。


『君たち』

 数人が、二人に近づき声をかけた。統一された礼装、周囲の様子、治安維持を担う者たちだろうか。


『おい! 早くここから移動しろ!』

 女は少女へ怒鳴ると、腕を強く引く。


『怪しいな……おい、捕えろ』

 兵士らしき者たちに女は組み伏せられ、少女は赤くなった腕を、別の兵士に再び強く掴まれる。


『貴様ら、魔無ではないだろうな?』


 ***


 普段静かな施設内が、先ほどから騒がしい。

「……なに?」

 少女は床に耳を当てる。


 程なく、再び元の静けさを取り戻した施設で、少女が過ごす部屋の扉が開く。


「見つけた」

 危うく、力強い女性の声。

 声の主は、コツコツと靴を鳴らし、少女の前に立つ。元々背の高い彼女の影が、盲目の少女を包み込む。

「お前は、世界渡りの種か?」

 少女は質問に短く答える。

「……はい」

 魔女は即座に次の質問をする。

「その力を使えるか?」

「……たぶん」

「ここに、他にも同じ種族はいるか?」

「……居ない、と思う」

 女性はふむと、一拍置くと、再び質問する。 


「ここが、お前の居場所か?」


「え……」

 聞かれ慣れない問いに、少女は戸惑った。

「なに…その質問……」

 彼女は何も言わない。ただ答えを待っている。


「……分かんない」

「…でも、どこかにあるなら、行きたい。どこにあるのか、知りたい」


「そうか」

 蛍月の知りたいという言葉に、目の前の女性が笑ったような気がした。


「取引しないか」

「取引……?」


「世界を知ること、この世界以外の、より多くの知識を得る。それが私の目的」

「お前の力で、私を別の世界へ移動させてくれ」

「その代わり――」


「私が、お前の目になる」

 傲慢で、一方的な取引だ。


「目が見えないことは不幸なことだとは思わない。だが、元々持っていたものを自分の意思によらず失うことは不幸だと、私は思う」


「私の見た景色を、光を、色を伝えよう」


「私がお前を守る」


 少女は押し黙る。沈黙の後、口を開いた。

「私の"いばしょ"は、見つかる?」


「ああ、見つけよう。お前のいるべきところを」

 魔女は、少女へ手を差し出す。


「わかった」

 少女は意を決したように、ぐっと力を込め、差し出された手を取り立ち上がる。


「取引成立だな」

 女はにやりと笑みを浮かべた。


「私はヴェレ、お前の名前は?」

蛍月けいげつ


「蛍月、行こうか」

 名前を呼ばれた少女――蛍月は、緊張を見せながらヴェレの手を握る。


 ふと、ヴェレが少女に手をかざす、周囲の空気が張り詰め、エメラルドの光が部屋を照らす。

 しかし、魔法は発動しなかった。

「?」

 蛍月がヴェレの方へ顔を向ける。


〈まあいい、一人の方が楽だが、"渡りの力"は私自身が使えても意味が無いからな。この魔法『Prētium Absolūtum』も、道すがら試して理解を深めることにしよう〉


 『世界渡りの種について』

 ――移動先は、渡りの力を発動した際、身体が触れていた同行者に左右される。

 彼らの話では、同行者が同じでも、以前いた世界に戻ることは出来なかったという。

 道は一方通行で、往復は出来ない。


「いくよ?」

 蛍月が、ヴェレの手を強く握る。

「ああ」

 蛍月の小さな角が光る。

 周囲の景色がガラスのように割れ、二人は世界から切り離される。

 重なり合った破片がプリズムの門を形成し、元いた世界の破片が、はるか後方へと流れていく。

 折重ねられた門から溢れ出すスペクトルが、一際強く、色を放つ。


 白、そして青い光が、ヴェレの瞳に反射した。

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