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GateFragments  作者: 悠蛹
第1巻 Angelblood―血の支配―

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3/26

Angelblood 第2章前編【血の街】

Angelblood完結記念コンテスト開催!

2025.12.15〜2026.01.31


Xのポストにて詳細をご確認ください。

悠蛹(@snghrk2414)

 ファルムが奪われてから数年、デプラは路地を歩む。

 彼女よりも小さかった彼の身体は、今ではファルムよりも少し大きい。以前よりも声は一段低くなり、指も節が立つようになっていた。

 彼にとって、家族はもうファルムしか残されていない。

 デプラは胸元の青いペンダントを強く握る。

 応えるように瓶の中の液体が淡く光る。

〈ファルムはこの街にいる……!〉

 あの日から、ペンダントに導かれるように村を離れ、天使の取引が盛んなこの街へ辿り着いていた。

 薄暗い路地で、男に声を掛けられる。

「お兄さん、飲んでいかないか?」

 デプラが男の方を振り向くと、男は顔を見て舌打ちする。

「なんだガキか……お前みたいな子供に教えることはねえ」

「これなら?」

 デプラは、男へ袋から取り出した硬貨を数枚渡す。母親がファルムを使って稼いだものだ。

「……なるほど。付いてきな」

 硬貨を一枚一枚、舐め回すように確認した男は、視線をデプラへ向けて短く指示した。

 

 案内された場所には酒場のような建物があり、男はデプラを残して、無言で来た道を戻って行った。

 デプラが古い木造の建物に近づくと、中が異様に騒がしい。

「——!」

 勢いよく出入り口の扉が開き、気を失った男が扉ごと店外に投げ出された。

 まもなく店内が静まり、デプラは警戒しつつ酒場に入る。

 床には、先ほどの騒ぎによるものか、客が何人も倒れている。

 ——グラスを置く音。


 デプラが音の方へ視線を向けると、髪を無造作に後ろで束ねた白髪の男だけが、カウンターに座っていた。

 厚手の外套を身に付け、革の手袋をしているため、首から下は全く肌が見えない。


 酒場の中央に置かれた台座——その上には天使が憔悴した様子でへたり込んでいる。

 首や腕には傷がいくつもある。それだけではなく、管が伸びた先は容器に繋がれ、青い液体で満たされていた。

 デプラは台座の上の天使を見る。中性的な顔立ちに、長い髪が台座へ垂れる。焼き切られたような跡が背中に残り、青い瞳は深海のように暗く、光を拒絶していた。


 ——ファルムではなかった。


 デプラは、安堵と失望が混じった感情で視線をカウンターへ戻すと、座っていた男が消えている。

 白髪の男はデプラの懐に入り込み、拳を打ち込む。

「っが?!」

 反射的に一撃を防いだが、追撃をまともに受け、壁に叩きつけられる。

 デプラは気力を振り絞り、騒ぎで床に散らばったと推測される木片を、正確にかつ複数を同時に、男へ投げつける。

 男は問題なく破片を手で弾く。その隙に、デプラは店内中央の天使と男の間に立った。


「…やるな、坊主。……それに、どうやら客じゃなさそうだ」

 男はデプラを見ながら言う。

「そっちこそ、いったいなんなんだ!」

 デプラは息を整える時間を稼ぐため、会話を続ける。

「俺はコルヴ、このバーからその天使を奪いにきた」

 男は顎を触りながら、にやりと笑う。

「奪うだと!」

 デプラは構えるが、コルヴと名乗った男は続ける。

「ここは天使のバー……あぁ、つまり……そこにいる天使を楽しむ店だ。この街にはこういう店がよく出来る」

 コルヴの「楽しむ」という言葉に、天使はビクリと震える。

「上流から払い下げられた天使は中流の金持ちが所有するか、こうしたバーで使用される」

「俺はそういう天使を奪って、匿っている」

「匿う?」

 デプラは警戒しつつも、問い掛ける。

「あぁ、天使に詳しい知り合いがいるんだ」

 コルヴはその一言で説明したつもりらしく、カウンターに座り直し、姿勢を崩して話題を変える。

「そういう坊主は、なんでここに来た?」

 コルヴは懐から、葉の入った袋と穴の空いた箱を取り出す。

「客じゃあ無いなら、この店に来る理由もない。それに、天使を庇うように俺の前に立ったのも不自然だ」

 箱の中へ葉を入れ、火をつけて蓋を閉じる。箱の側面から煙が立つ。

「ファルムという名前の天使を探してる、家族なんだ。何か知らないか」

 煙を楽しむ様子のコルヴを見ながら、デプラは答える。

「天使が家族だと? 相当イカれてるのか?」

 まだ煙の立つ箱をカウンターに置き、コルヴはデプラを覗き込む。

 少年の瞳に、コルヴは表情を引き締める。


「……そいつはドラヴィエル公爵のお気に入りだ」

 コルヴからの思いがけない情報に、デプラは心臓が跳ね上がる。

「教えてくれ! ファルムはどこにいるんだ?! そのドラヴィエル公爵はどこにいるんだ?!」

 デプラの問いを制し、コルヴは順を追って答える。

「やつはこの街で、最も多くの天使を所有している」

「何年か前に新しい天使を見つけたらしい。奴主催の試飲会に参加した連中の話題は、その天使の味で持ちきりだ」

 デプラは拳を強く握る。

「その天使の名が、ファルムというらしい」

 

「そこはどこなんだ……? 頼む、教えてくれ」

 

 コルヴは答える。

「ドラヴィエル公爵の品評会場、この街で二番目に大きな建築物だ」


「分かった、教えてくれてありがとう」

「待て」

 短く礼を言い、去ろうとするデプラを、コルヴは呼び止める。


「天使を取り戻すのを手伝ってやる」

 デプラは振り返り、コルヴは続ける。

「さっきの動きは良かった。奴の屋敷に忍び込んでお前の家族を取り返すために、少し鍛えてやる」


「そんな時間はない」

 デプラは焦る気持ちを抑えられない。

 ファルムのいる場所が分かったうえに、試飲会………恐ろしい想像が浮かぶ。

「俺一人に苦戦するようじゃあ、ドラヴィエルの私兵からは逃げられない」

「実戦経験が無さすぎる、俺の活動を手伝え」

 デプラは逡巡する。

〈今すぐにでも助けに行きたい。けれど、この男の言う通りだ〉

 デプラはバーでのコルヴとの戦闘を思い出す。

〈今乗り込んでも、きっと助けられない〉


 デプラは問う。

「けれど、あんたに……コルヴには何の得がある」


「……俺は昔、奴の天使狩りに加担していたんだ」

 コルヴの告白に、デプラは目を剥く。

「すべてはその贖罪だ…ただの自己満足だがな」

 コルヴは苦々しげに答える。

「…分かった、手伝うよ。けど、ドラヴィエルやその屋敷について教えてくれ」

 デプラの言葉にコルヴは頷く。

「よし、必要以上に付き合わせはしない。最低限の実力が付いたら屋敷に向かうんだ」

「だが彼女を取り戻したら、そこから逃げるのに集中しろ。決して、復讐など考えるな」

「お前の目的は——家族を取り戻すことだ」

 デプラはコルヴの目をまっすぐに見据える。

 「俺の目的は最初からずっと変わらない」


「ファルムを取り戻すことだから」


 デプラはペンダントを強く握りしめ、台座の上で震える天使の元へ、ゆっくりと歩み寄った。

お読みいただきありがとうございます!


第1章から数年…

デプラの決意。彼の信念は揺るぎません…。

復讐ではない。ただファルムを取り戻すこと。

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