願いの器 第3章前編【星】
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悠蛹(@snghrk2414)
ラヴィラドとの取引は成立し、彼は約束通り、ナイカーの研究に対して惜しみなく私財を投じた。
同時に、ラヴィラドの私兵――リラエムは、周辺諸国の動向を調査し、各国がテセラの存在をどう認知しているのかを共有した。
そんな折、ラヴィラドが召致した機械工――ガルトと、彼と共に仕事をする職人たちが教団へ合流した。
彼が到着して最初に見せた仕事は、すぐさまその卓越した技術力を証明することとなる。
ガルトは、教団の武力の象徴である騎士カヴォルへ、一振りの大剣を贈る。
それはガルト自身の背丈すら超える大きさで、鞘や柄には、教団の権威を示す豪奢な金の装飾が施されている。しかし、それはただの飾りではない。実戦においての武器としても扱いやすいよう、一切妥協のない完成度を誇っている。
カヴォルがその剣を静かに見つめていると、ガルトは自慢の蓄えられたあごひげを撫でながら、無愛想に言い放った。
「カヴォル様。あなたが持つ武器は、ただ使いやすいだけじゃダメなんだ。あなたはこの教団の中で『力の象徴』であり続けなきゃいけない。その存在そのものが教団の抑止力にならなければ」
カヴォルが、ゆっくりと鞘から剣を引き抜く。研ぎ澄まされた刃、そのあまりの美しさと迫力は、金色の装飾すら凌駕する。
***
教団が組織として拡大するにつれ、守護者たちのテセラと過ごす時間は削られていった。
サウラは、日々増え続ける信者たちの管理や活動を執り行いながら、テセラを脅威から守るための有志を募った。
カヴォルとマレーナが有志の管理と育成を担った。
カヴォルは武術を、マレーナは医術を彼らに共有した。
警備だけでテセラを孤立させないため、昼間は多忙な彼女たちの代わりにガルトやナイカー、そしてリラエムが交代で付き添うことになった。
これまで暗い作業場にこもり切りで、鉄や油といった無機物としか対話してこなかったガルトにとって、幼い少女と向き合う時間は戸惑いの連続であった。
初めてガルトが自己紹介をした時、テセラは彼の言葉よりも、その外見に興味を示した。
「すごいわ!……ずっと機械を触っていると、手も機械みたいに硬くなっちゃうんだ」
テセラは興味深そうに、ガルトの蓄えられたひげや、硬い手のひらを小さな両手で包み込みながら、彼を覗き込んだ。
ガルトが照れ隠しに小難しい機械の理論を語っても、テセラはすぐにつまらなそうな顔をするだけだった。彼は苦笑し、次第に自分から語るのをやめ、彼女の聞き手に徹することにした。
ある日――ガルトは作業中に出た端材を使い、手慰みに作った小さな贈り物をテセラに贈った。
「わあ……! すごく綺麗な星ね。ありがとう、ガルト!」
ガルトとしては人形のつもりで作ったものであったが、彼女の声と喜ぶ様子に、訂正する気は失せてしまった。
***
リラエムがテセラの護衛として付き添うことになった初日、テセラは彼女へ積極的に語りかけた。
「リラエム、聞いて!」
リラエムは周囲の気配を殺し、警戒の目を外に向けたままだったが、テセラはその隣を楽しそうに歩きながら、大切な人たちのことを一つひとつ語った。
カヴォルが命を救ってくれたこと。その時に「騎士の誓い」を立てて、それからずっと一番近くで守ってくれていること。
マレーナとの関係についても、彼女は隠すことなく口にした。
「マレーナはね、本当のお母さんじゃないの。……でも、わたしにとっては、マレーナが世界でたった一人のお母さん。恥ずかしいから、お母さん、て呼べないの」
サウラが語ってくれる様々な伝承、物語。
「サウラのお話はどれも素敵だけど、わたしは『雨』のお話が一番お気に入りなの。……雨はいつか止んで、みんなが笑ってるこうけいだけが残ってる。すっごくすてきなお話!」
テセラはリラエムへ、記憶を辿るようにその物語をそらんじて見せた。
話題は尽きない。ナイカーのつけている香水がとてもいい匂いであること。いつか自分も大きくなったら、あんな風にお化粧をしてみたいということ。
そして、少しだけ声を潜めてこう続けた。
「カヴォルやサウラからはね、ラヴィラドさんには気を許してはいけませんって言われているの。……でも、わたしはラヴィラドさんとも仲良くなりたいな」
そう言って、ガルトから贈られたばかりの、金属の端材で作られたお星様をリラエムに見せて、テセラは誇らしげに笑った。
リラエムは、ただ静かにテセラの言葉に耳を傾けていた。
「わたしはね、リラエムとも仲良くなりたいの」
立ち止まったテセラが、真っ直ぐにリラエムを見上げる。
その金色の瞳は、濁りのない純粋な光を宿して、リラエムの黒く美しい瞳に映っていた。
***
その日の夜、テセラとリラエムはマレーナと合流した。
マレーナの姿を見つけるなり、駆け寄り、彼女へ飛び込む。
「マレーナ!」
親子の様子を、リラエムは扉のそばで静かに見守っていた。
マレーナは愛おしそうにテセラを抱きしめた後、リラエムの方を向き、礼を言った。
「リラエムさん、今日はこの子を守ってくれて、本当にありがとうございました」
リラエムは何も答えず、ただ静かに礼を返すと、部屋を出ようとする。その時、テセラが背中に向かって声をかけた。
「リラエム、おやすみ!」
リラエムの足がわずかに止まり、彼女は一瞬だけ、肩越しにテセラを振り返る。
そして彼女は何も言わず、静かに部屋を後にした。
テセラは部屋の窓から、輝く星々を見つめながら、眠りについた。
読んでくれてありがとうございます!
あけましておめでとうございます。
願いの器も、とうとう第三章です。




