願いの器 第2章中編【黄金の証明】
Angelblood完結記念コンテスト開催!
2025.12.15〜2026.01.31
Xのポストにて詳細をご確認ください。
悠蛹(@snghrk2414)
「テセラ様、私にもカヴォル様やサウラ様と同じように、その『永遠』を授けていただけないでしょうか」
ナイカーの申し出に、その場の全員が息を呑む。
テセラとマレーナ、カヴォルとサウラ四人の視線がナイカーに向けられる。
「……分かっています」
ナイカーは彼らの視線を受け止めると、静かに続けた。
「マレーナ様から初めてお話を聞いた時から、私なりに考え、覚悟を決めてここへ来ました。
それに……研究のためには、私自身がサンプルになるのが最も確実ですから」
彼は自虐的な笑みを浮かべる。
「これによって、怪我や病を持たない健常な生物に対しても、『永遠』の力が行使できるのかを確かめることができます」
「本当に……いいの?」
テセラは自身の両手を見つめ、怯えるようにナイカーに問いかけた。
マレーナと過ごしてきた家が襲われた一件から、テセラは自らの力がもたらす周囲への影響に対し、恐れを抱いているようだった。
「いいのです。あなたの力は、誰かを傷つけるためのものではない」
ナイカーはテセラの目線に合わせて屈み、優しく語りかける。
「テセラ様、もしあなたがその力を『もう不要だ』と判断された時、いつでもそれを手放せるように、私が全力を尽くして道を探します」
ナイカーの視線は、マレーナへ移る。
「テセラ様の力を、もし無力化したり、引き離す事ができれば……テセラ様を普通の少女に戻すことができれば――
もうその力に魅入られた人々に狙われる理由も無くなり、マレーナ様と元の生活に戻れるかもしれません」
マレーナはテセラを見つめる。
テセラは胸元で両手を握り、ナイカーを見つめている。
ナイカーはカヴォルと、サウラへ向き直る。
「研究が進展する過程で、カヴォル様やサウラ様をも、元の身体に戻せるかもしれません」
「勿論、お二人が望むのなら」
部屋の空気が、かすかに揺れた。
ナイカーは表情を引き締める。
「ですが、それには皆様の協力と時間はもとより、莫大な資金が必要になります」
「私はもともと、研究にあたって、ある方から出資を受けておりました。その方なら、この話に必ず協力してくれるはずです」
「待ってください!
その方は……信用できるのですか?」
マレーナが不安げに問う。
ナイカーは首を振る。
「正直に申し上げて、テセラ様の力を知れば、誰もがその恩恵に預かりたいと願うでしょう。
私を支えてくれていたのは、ラヴィラドという男です」
「ラヴィラド……」
カヴォルがその名に反応し、呟く。
「この国でも指折りの大商人です」
「ええ、ですがこの国だけではありません。彼の商才は周辺諸国まで届いています」
ナイカーが深く頷く。
「誰も信用できないというのなら、今この時、すぐにでも手を貸してくれる者の中から選ぶしかありません。……そうでしょう、サウラ様」
ナイカーに問われ、サウラは頬の紋様に触れながら、マレーナ、カヴォルと順に視線を交わした。三人は無言のまま、重く頷く。
「分かったわ。
では、そのラヴィラドという方に連絡を取ってくださるかしら」
***
ナイカーからの報せを受け、ラヴィラドという名の商人は即座に協力を申し出た。
数日後――
テセラたちの拠点である教団本部へ、一台の豪奢な馬車が到着した。
その中から降り立ち、上等な外套を見に纏った男が、出迎えたサウラの顔を見るなり、大仰に頭を下げた。
「おお……!あなたがサウラ殿。
噂に違わぬ美しさだ!
聖女様から授かったというその祝福の証も相まって、まさに天の御使いとお見受けする」
サウラは、ラヴィラドの慇懃無礼な態度と、値踏みするような視線に微かな嫌悪を覚えながら応じる。
「失礼。私の名はラヴィラド。
お招きいただき、恐悦至極にございます」
ラヴィラドは、教会内を見渡しながら話を続ける。
「私は商人をしておりまして、私が出資している科学者――ナイカーから連絡を受けて参じました。
何でも……こちらには特別な力を持つ聖女様がおり、彼はその力について研究したいのだとか。
その研究費用を、私に出資してほしいという話でして……」
彼は一度言葉を切る。
「具体的な内容や、それによって得られる『見返り』については、まだ詳しくは伺っておりません。
まずはその力とやらをこの目で確認しないことには、と思い馳せ参じた次第でございます。
……して、その聖女様とやらはどちらにいらっしゃるのですかな? ぜひお会いしたい」
サウラは、ラヴィラドの不躾な様子に戸惑いながらも、ふと彼の後ろに控える女性の存在に目を留めた。
感情を排した無機質な瞳。その女性は、主人の背後で影のように静止している。
「……そちらの方は?」
サウラが問うと、ラヴィラドは首だけを後ろに動かして背後の女性を一瞥し、薄く笑った。
「ああ、これですか。私の忠実な『私兵』ですよ。
我々の協力関係が成立した暁には、改めて紹介しましょう」
「……はあ」
サウラは釈然としない返事をしながらも、促されるままにラヴィラドと私兵の女性を教会の奥へと案内した。
***
「お待ちしておりました、ラヴィラド様」
ナイカーの挨拶に、ラヴィラドは快活に笑いながら応えた。
「全く、君からの頼みだと思って来てみたが、本当にそんな特別な力を持つ少女などいるのかね?
私はあまり奇跡というやつは信じない質でね」
「今から、彼女の力をお見せします」
ナイカーとサウラは、テセラたちが待つ部屋へとラヴィラド、そして彼へつき従う女性を案内した。
ナイカーはテセラの前に膝をつき、恭しく頭を垂れる。
テセラは緊張した様子で、ナイカーが差し出した左の手のひらに、そっと自分の小さな手を重ねた。
瞬間――
テセラとナイカーの周りに、光の輪が現れた。
金色の煌めきが収束し、この世の全ての光がその場に集まったかのような錯覚を覚えさせる。
重なり合った手のひらを中心に、光の輪は幾重もに分かれ、それぞれが規則的に回転する。
「おお!」
ラヴィラドの口から、感嘆の声が漏れた。
後ろに控える女性は微動だにしていなかったが、その瞳には目の前の美しい光を写していた。
カヴォル、サウラ、マレーナはその様子を、喜ぶとも悲しむともつかない、複雑な表情で見守っていた。
やがて光が収束し、金色の輝きが解ける。二人の手が離れると、マレーナがすぐにテセラのそばに寄り、そっとその肩を抱き寄せた。
ナイカーの左手には、複雑な円の紋様が浮かび上がり、指には蔓が巻き付くような刻印が刻まれていた。
「大丈夫ですか、ナイカー様」
カヴォルが歩み寄り声をかけると、ナイカーは右の手で自身の左手に触れながら、ゆっくりと立ち上がった。
「え、ええ……問題ありません」
ラヴィラドは、ナイカーの手に刻まれた黄金の証明から目を離せずにいた。
そして、その視線だけを、ナイカーから――その力の根源である少女、テセラへと動かした。
お読みいただき、ありがとうございます!
願いの器、登場人物多いですね…
願いの器は、事前に作成しているプロットの中でも2番目くらいに薄い(詳細なシーン割を考えていなかった)ので、執筆開始まで心配していました。
が、キャラクターたちがどんどんと動いてくれて、自然と厚みが増しています。
物語に感謝、キャラクターに感謝
読んでくれるみなさんに感謝ですね、ええ。
それでは次回、第2章後編も読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします!




