願いの器 第2章前編【教義と香水】
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悠蛹(@snghrk2414)
町の通り――
通りを歩く人々の足や荷車の音。
世間話や子供たちの遊ぶ声。
彼らがテセラとマレーナの住む家の前を通る時だけ、音が消え、窓や戸の隙間に視線を這わせる。
サウラは襲撃を受けた数日後、マレーナとカヴォルに提案する。
「テセラ様の能力が、カヴォルや私を通じて人々に知られてしまった以上、今後更に狙われることは必然でしょう」
サウラは続ける。
「それに、街の人々だけじゃない。もっと大きな存在や、世界中がテセラ様を狙ってくるはず。
であれば、先日のような人々の信仰を利用して、一時的にでも私たちの、テセラ様を守るための組織が必要になるわ」
「彼らを?危険じゃないかしら」
マレーナが不安そうに問う。
「彼らを放置する方が危険よ」
サウラの言葉に、カヴォルは頷く。
「私たちが先導者となり、信仰を管理するの」
「そうすれば、信者たちの足並みを揃えさせて、個人や数人での暴挙を抑制できるはずよ」
「私が代表の管理者として彼らの前に立つわ」
サウラは片手の親指と人差し指で、軽く自身の両頬に触れる。
「この刻印が、象徴になる」
***
四人は拠点を移し、サウラはその顔に刻まれた紋様を巧みに利用して、短期間で教団を作り上げ、教義を広めた。
彼らには、テセラの能力が無限ではなく、簡単には使用できないという情報を与えた。
マレーナが辿った伝手から、研究者がテセラの元を訪れた。
「初めまして、テセラ様。私はナイカーと申します」
テセラ、カヴォル、マレーナ、サウラの揃う部屋へ招かれた男が名乗る。
「人間の持つ生命力や、未知の力について研究しています……
と言いたいところですが、そんな不確かなものにお金を出してくれる方は少なく、香水や化粧品を開発してなんとか生活しております」
テセラはナイカーに近づき、くんくんと匂いを嗅ぐ。
「良い匂い!」
ナイカーは苦笑しながら、懐に忍ばせていた小瓶を取り出し、テセラへ渡す。
***
「まず、テセラ様の持つ力について、判明している情報を整理しましょう」
ナイカーが提案する。
「テセラ様が力を行使するための条件は、
ひとつ――テセラ様が触れていること。
ふたつ――テセラ様が力を使う意思を示す事」
ナイカーが指を立てながら話す。
「そして、テセラ様の力が行使された対象は――」
「……傷が癒える」
カヴォルが自身の傷を見ながら呟く。
「発動時に負っていた致命的な傷、その後に受けた傷も……」
「そして、傷痕は金色に輝く」
「発動時の状況によって、少し変わるようだけれど」
彼女は自身の頬を触りながら答える。
「私がテセラ様に触れられた時、まさに襲いかかっていた最中の男が、光に弾かれていたわ」
「つまり、テセラ様の力が発動すれば、誰にも邪魔は出来ないということですか」
「おそらくですけどね」
サウラの補足にナイカーは頷き、続ける。
「マレーナ様の推測ですと、病気や空腹、老いすらも超越している可能性があると」
ナイカーの視線に、マレーナは答える。
「ええ、テセラはカヴォルさんに出会う前から、人間以外の生物に力を使っていたわ」
テセラは、カヴォルの傍で絵本を開いたまま、うとうととしている。
「中には、寿命を迎えようとしていた老猫もいた」
マレーナは視線をカヴォルへ移す。
「空腹については、彼が証人になるわ」
カヴォルは肯定するように、ナイカーを見つめる。
「分かりました……」
「次に、テセラ様の力が及ばない範囲についてです」
「死んでいるものや、生きていないものには効果が無いということです」
「つまり、不死には出来るが、死者を甦らせることは出来ない」
ナイカーは手を合わせる。
「以上が現状、判明しているテセラ様の力です」
「言うなれば、彼女が願い、与えるものは
――『永遠』――です」
部屋には沈黙が訪れ、カヴォルは感じないはずの喉の渇きに唾液を飲み込んだ。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます…泣
結構な説明回でしたね!
退屈しませんでしたか?
色々と確定したこともあるので、その辺りを咀嚼して今後の展開を楽しんでいただけたら嬉しいです!
少女の願い―永遠がもたらすもの
次回をお楽しみに!




