Calamity Gate 第3章後編【門】
◇❖●
「こっちよ!」
マザー・ウスラが、子供たちを避難させるため、孤児院の扉を開き叫ぶ。
子供たちは不安な表情を浮かべながらも、ウスラについて外へ出る。
鳴り響く警報――
アリシアとシル、二人の制御装置に通信が入る。
『全構成員!最大厄災の発生を確認!』
『至急現場へ急行せよ!』
アリシア、シアリス、シルの三人が孤児となった"大厄災"、その規模をはるかに凌駕する巨大な門が、都市を呑み込もうとしている。
既に多くの犠牲者が出ている。
シルはダミーにしていたキューブを呼び戻し、三人は門へと急ぐ。
***
門周辺には、大量の変異体と孤児が発生していた。
構成員の中には、厄災に耐えきれず変異体となる者もいる。
増え続ける変異体に構成員は押され、倒れていく。
三人が門の前へ辿り着く。
シアリスがアリシアを呼ぶ。
「私がみんなを保護するから、機関に加勢して変異体をお願い」
アリシアは心配そうにシアリスを見る。
「大丈夫」
シアリスはアリシアへ向き直り、ニカっと笑う。
「お姉ちゃんに任せて!」
シアリスは力強くアリシアへ答え、厄災孤児の救助へ向かう。
「アリシア!」
「門の拡大は止まったみたいだけど、大量の変異体が発生してる。構成員の処理が追いついてないどころか、構成員すら変異し始めてるよ!」
シルの報告にアリシアは頷き、目を閉じる。
〈お姉ちゃんに任せて!〉
先ほどのシアリスの言葉を反芻する。
そして、かつての思い出を振り返る。
〈大好き!ずっと私のお姉ちゃんでいてね!〉
二人の誕生日、あの時両手で掴んだ姉の手。
再会した孤児院で掴んだ、シアリスの手。
〈機関の嘘、実験、変異。孤独な闘い〉
〈それでも〉
〈それでもお姉ちゃんは、私のお姉ちゃんのままでいてくれた…!〉
「シル」
アリシアが声をかける。
「動けない構成員たちのキューブをハッキングできる?」
アリシアの口にした言葉に、シルは驚く。
「え?!」
アリシアは続ける。
「門の出現で倒壊した建物の粒子も、操作できる?」
シルが戸惑う。
「そんなに大量のキューブをハッキングしてどうするの?操作できるリソースの許容量を超えてるよ!」
アリシアはシルを見つめる。
「私はもう大丈夫だから」
彼女はもう、焦燥に囚われてはいない。
「シル、私を信じて」
「わかった…!」
シルは自らのキューブを分割し、広域に拡散させハッキングを行う。
〈〈操作権限をアリシアへ移行〉〉
●●●
シアリスは触手を伸ばし、孤児たちを門から、そして変異した家族から遠ざけていく。
〈これじゃあ間に合わない!〉
〈けど、諦めはしない!〉
シアリスは思い出す。
実験の最中見た、過去の夢を。
アリシアの言葉、行動を。
〈お姉ちゃんが私のお姉ちゃんで嬉しい〉
シアリスの手をつかんだ、彼女の小さな両手を。
変異した手を変わらず掴んだ、成長した彼女の両手と、そのぬくもりを。
シアリスは閉じていた目を開ける。
〈思い出せ!〉
耐久試験の最中、暴走したあの時の感覚を。
〈制御しろ!〉
シアリスは肉体を増幅させていく。
触手が増え、腕や足、体を自由に変形させる。
蜘蛛の巣のように、桃色の肉体を門の周辺全体に張り巡らせる。
〈いける…!〉
シアリスは同時に複数の子供たちを引き離していく。
「うわぁ!」
構成員、彼らもまた大量の変異体に押され、殺されそうになっている。
シアリスは一瞬の躊躇の後、子供たちと同じように、構成員たちも変異体から引き離し保護していく。
◇◇◇
アリシアの頭部に付けられた一対の制御装置、その中央が強い水色の光を放つ。
「――!」
アリシアの全身を粒子が包み込む。
倒れた構成員のキューブ、倒壊した建物に含まれた粒子が舞い上がり、一帯に黒い霧が立ち込める。
霧の中で、水色の光が星のように煌めく。
アリシアは大量の粒子と共に浮遊し、光を纏いながら高速で移動し、変異体をなぎ倒す。
アリシアの桃色の髪が舞う。
シルはアリシアの掌握するキューブへ接続し、変異体の位置をアリシアへ共有する。
アリシアは戦闘を行いながら、同時に把握した変異体の核へ、星が降り注ぐようにエネルギーの銃弾を撃ち込む。
***
三人の奮闘により、ほとんどの変異体の討伐と、構成員、子供たちの救助が終わる。
門が収縮を始める――
アリシア、シアリス、シル共に疲弊している。
アリシアの制御下にあった粒子がキューブへ戻り、地面へ落下していく。
シアリスの肉体もまた、収縮し元の人型へ戻っていく。
全構成員に通達がある――
『門の収縮を確認!』
『次の命令を伝える』
『特殊危険変異個体を討伐せよ!』
アリシア、シルはびくりと震える。
助けられた構成員は戸惑っている。
『特異体を討伐せよ!!』
『これは"命令"だ』
銃声――
構成員の一人がシアリスを撃ち、一人、また一人と同調するように撃ち始める。
限界を超えた肉体の酷使で、シアリスは逃げる間もない。
「やめろーーー!!!」
シルは叫ぶ。
その叫び声は、彼らの銃声によってかき消される。
限界を超える粒子操作によって、アリシアはその光景をただ立ち尽くし、見ていることしかできない。
シルが構成員を殴り倒すが、シアリスへ向けられた銃口はあまりにも多く、その音は止まない。
シアリスの再生が遅くなっていく。
機関上層部からの『撃ち続けろ』という命令が、通信装置から響き続ける。
最大厄災の門は縮小し続け、人一人分ほどの大きさになっていた。
銃撃が止み、シルはシアリスの方を向く。
そこには、歪な菱形の核とわずかな肉片だけが浮いていた。
アリシアは核に向かって走り出す。
「お姉ちゃん!」「お姉ちゃん!!」
シルは怒りに震える。唇を噛み、その場から動けないでいた。
シアリスの核が、閉じゆく門へと落ちていく。
アリシアは核へ向かって走る。
シアリスが、門の中へと消えた。
「お姉ちゃん!!!」
シルはアリシアを追って走り出す。
閉じていく門へ、アリシアは迷うことなく飛び込んだ。
「アリシア!」
門は閉じた――
消えた門の前で、シルは膝から崩れ落ちる。
背後からは、構成員たちのうめき声と、歓声。
シルは慟哭する。
「アリシア…」
門の先には、何があるのかわからない。
"先"があるのかもわからない。
「アリシアぁ…!」
シアリスを助けられなかった後悔。
構成員への、機関への怒り。
アリシアを失ってしまった悲しみ。
シアリスを追い、シルを置いて行ってしまったアリシアへの怒り。
その怒りを持つ自分を嫌悪する。
❖ ❖ ❖
しばらくして――
シルは立ち上がった。
彼女は泣き腫らした顔で前を向き、涙を拭う。
シルは選択する。
「二人を見つけて、必ず助ける…!」
シルはアリシア、シアリスを追う決意を固める。
その瞳に赤く、強い光を湛えて。
――門に導かれ、三人の物語は続く。
『GateFragments』第2巻『Calamity Gate』
――完――
本当に、ありがとうございました…!
Calamity Gate 完!
どうだったでしょうか…
この終章、本当に好きです。
共闘シーンは、これまでの集大成。
三人の精神が完全に成熟し、圧倒的な全能感を与えます。
そして、単体でも成立するように書いたつもりのAngelbloodとは違う終わり。
もちろんCalamity Gateだけでも楽しめるようには書きましたが、シリーズものかどうか事前に知っているのとでは、ラストの気持ちが違います。
また次回…!!
もしよろしければ、ここまで読んでくださっただけでも感謝大爆発なのですけれど!感想や反応などいただけたら嬉しいです!
それでは、『願いの器』でお会いしましょう。
ありがとうございました。
Alicia
Cialice




