Calamity Gate 第3章前編【孤児院】
◇◇◇
「構成員の外出許可範囲にはいないよね」
アリシアの言葉に、シルが答える。
「範囲外だろうね、機関の監視が厳しいし、外出中の他の構成員に見つかるかもしれないからね。」
「私たちが許可範囲を外れて出歩いたら、"先回りして姉さんを見つける作戦"がばれるかもしれない」
「だいじょーぶ!」
シルが、にやりとアリシアを見る。
休日前夜――
「やっぱり」
アリシアは呆れたようにシルを見つめる。
構成員に割り当てられたアリシアの部屋、無機質な空間には最低限の家具の他にはほとんど物がない。
「私たちを騙していたんだよ?」
「これぐらいしたっていいでしょ。
それに、お姉さんを見つけるためには、私たちが範囲外をうろついてるってバレないようにしなきゃいけないから」
アリシアはシルの表情を見る。
シルは二人の制御装置を楽しそうにハッキングしている。
「けど、機関は孤児院にいるはずとまで推測出来ていて、なんでまだ発見できてないんだろ」
シルが装置を弄りながら、ふと疑問を持つ。
「確かに、ほとんどの孤児院は機関の提携施設として登録してる…」
「そうすれば、機関から補助金が得られるし、門の発生時に救助等の優先権が受けられるから…」
アリシアは一拍置いて続ける。
「でも」
「中には、機関のやり方に疑問を持ったり、児童兵に反対して、提携登録せずに運営している孤児院もある」
シルがアリシアへ向き直る。
「特にそういうところなら、機関の立ち入り調査を拒んでいるだろうしね」
シルは制御装置をアリシアへ渡す。
「追跡装置は無力化したよ。外出中は私のキューブをダミーにする」
「とはいえ、早く見つけないと…アタシたち気付くのが遅すぎた」
アリシアは頷き、制御装置を見つめた。
***
休日――
二人はシアリスの出現した門の情報から、エリアを絞って孤児院を巡る。
「あれ見て…」
シルが指した先――狭い路地の奥が袋小路になっており、空から光が落ちている。
〈特異体…お姉ちゃんと遭遇した時の子だ…〉
子供が地面に落書きしている。
桃色と水色のチョークを使って人を描いているようだ。人の体からは、腕とは別に長い曲線が複数本伸びていた。
少女はアリシアとシルを見ると、慌てて路地に面した扉へ入っていく。
少しして、子供が入っていった扉、孤児院から女性が現れる。
警戒した表情を浮かべながら現れたその女性は、アリシアとシルを見る。
女性はアリシアを見て、ふと動きを止めると、表情を緩める。
「どうぞ、入ってちょうだい」
アリシア、シルは女性に促され、孤児院へ入る。
●●●
「シア姉!」
「シアリスお姉ちゃん!」
子供たちが、孤児院の中庭で座るシアリスの周りに集まる。
孤児院は元々大きめの民家だったものを改装した建物で、子供たちが作った折り紙や工作物で装飾されている。
子供たちはシアリスの触手を持ち上げたり、もたれかかったりしている。
シアリスが触手に子供を乗せて持ち上げる。
子供たちのはしゃいだ声が、孤児院に明るく響く。
〈アリシア…〉
〈この子達のように、あの子も受け入れてくれるなら…〉
孤児院の扉が開く――
◇◇◇
孤児院へ足を踏み入れた二人。
「マザー・ウスラ!」
子供たちが、二人を招き入れた女性へ走り寄る。
機関からの補助が無い分、運営は厳しいはずだが、子供たちに不自由そうな様子は全く無い。
「あ…」
シルが小さく声をあげる。
アリシアはシルの視線の先、孤児院の中庭にいる人物を見る。
アリシアと、シアリスの視線が交わる。
シアリスはアリシアに気付き、触手の先まで固まる。シアリスがウスラの方を見ると、彼女はシアリスを強く見つめ返し、頷いた。
ウスラがアリシアを促す。
アリシアは突き動かされるように、シアリスへ近づいていく。
シアリスは逃げない。
姉妹は互いに悲しさと嬉しさを湛えた表情を浮かべている。
シアリスの変異した手を、アリシアの成長した両手で恐る恐る掴む。
「お姉ちゃん」
シアリスは妹の両手を見つめた後、申し訳なさそうに顔を上げる。
「アリシア…」
シアリスは妹の顔に触れようとした手を止める。
鋭い爪と渦模様の刻まれた腕をアリシアは掴み、自身の頬に運ぶ。
「無事でよかった…」
双子は泣き笑いしながら、互いの存在を確かめるように頬に触れる。
シルは、一歩引いたところで姉妹の再会を見守る。
***
アリシア、シアリス、シルの三人はこれまでの経緯や現況を共有する。
ウスラが三人へ温かい飲み物を運んできた時…
中庭が急に暗くなり、孤児院が揺れた。
都市に響く警報――
この世界では聴き慣れた、門発生の合図。
過去最大の門が発生し、空の光を呑み込む。
"最大厄災"が訪れた。
読んでくださってありがとうございます!
第3章に入りました。
アリシアとシアリスがついに姉妹として再会を果たしました。
残すところ後編のみとなります、どうぞお付き合いください!




