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GateFragments  作者: 悠蛹
第2巻 Calamity Gate―厄災の門―

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Calamity Gate 第1章中編【演習と試験】

 門の出現により、都市は発展した。

 建築物、道路、エネルギー、兵器…。人々の生活には門の存在が組み込まれ、需要と仕事を生んだ。

 この現象が無くなれば、多くの人間が職を失い、再びエネルギー問題に直面するだろう。


◇◇◇


 アリシア、シルは機関の教育・訓練区画で生活しながら、構成員となるべく候補生としての日々を過ごす。

 共通して、基礎教育やトレーニングを行う。

 加えて、アリシアは実働部隊候補として実戦訓練や建物内での救助・捜索訓練を受ける。

 シルは支援部隊として、兵器や科学技術、厄災について判明している仕組みやエネルギーを学んでいった。


 一緒に行動を共にするようになってからは、二人の距離は近づいた。ほとんどはシルの方からアリシアへ話しかける事が多い。


「ね、アリシアにはお姉さんがいるんだよね?」

「いいなぁ」「私は親戚の家で育ったから、兄弟とは無縁だったよ」

 シルはアリシアの前を歩きながら、たまに後ろを振り返り話す。

「ねぇアリシア、お姉さんってどんな人だったの?」

「バディとして、お互いのことを知るのは大切だよね」


 シルの問いに、アリシアは答える。

「お姉ちゃ…姉さんは、いつも私を守ってくれた」

 アリシアは共に暮らしていた過去を思い出し、目を細める。

「私が親に怒られて泣いた時も、いつも私の味方をしてくれた…そのせいで一緒になって怒られてた…」

 アリシアはシアリスとの思い出を話し出す。

 シルは、アリシアの家族を想う様子を楽しそうに、そしてどこか羨ましそうに見つめていた。


 アリシアはシルへ聞き返す。

「シルは支援部隊でどんなことを勉強してるの?」

「シルのことも…もっと知りたい」



***


「全員、受け取ったようだな」

 候補生へ黒い装置のようなものを配り終わった後、教官が話し出す。

「その装置には識別情報が組み込まれている」

「機関の区画を出入りする際や、装備を制御するのに必要不可欠なものだ。自室以外では必ず身に付けるように」


 アリシアは手元を見る。

 彼女の装置は星十字のような形をしており、頭部に二つ、対になるよう装着するようだ。


「制御装置には発信機としての機能も搭載されている」

「門の発生現場での活動では連携が重要だ」

 教官は装置について説明を続けている。


 アリシアは数日前、候補生となってから数日後の時を思い出していた…


〈君の姉は検査の結果……門への耐性が低かった〉

〈そのため、彼女は民間の孤児院へ預けられ、そこで生活することになる〉

〈離れるのは辛いかもしれないが、成績が良ければ外出の許可も降りる〉

〈それに…〉

 教官はアリシアを見る。

〈正式な構成員になれば、門の厄災から、君の姉を守る力が手に入る〉

〈アリシア、君が姉を守ってあげるんだ〉


 アリシアは装置を見つめる。

〈お姉ちゃんを守れるようになる〉


 シルはアリシアの隣で、静かに装置を観察していた。


***


 実働部隊の装備についての説明――


「我々の装備は対厄災用の制服と…」

 教官はアリシアたち候補生の前に置かれた立方体を指す。

「この"リソースキューブ"が主となる」

 "キューブ"は黒く無機質だが、ときおり表面を流れる様に水色の線が光る。


「制御装置を通して使用者の意思を反映する」

 教官は装置に手をかざす。

 触れられたキューブは光を放ちながら極小の粒子となって変形し、教官の手を覆う。

 手の動きに合わせて、粒子は滑らかに流動する。

「攻撃、防御、あらゆる用途に使用可能だが、適性によって扱える体積は異なる」


 アリシアはキューブに触れる――

 粒子が淡い光を纏いながら、彼女の周囲で踊った。


***


 数ヶ月後――バディ実戦訓練――

「門が発生した想定で、現場での実践的な行動を訓練する」


 教官が巨大な部屋の入り口付近にある機器を操作する。

 壁や床、天井から実際の街区をイメージした障害物が迫り出し、擬似的な街並みを形成していく。


「この訓練では、変異体の討伐と要救助者の迅速な発見を目的とする」

「変異体は機関の研究で作成した生体を使用する。実際のものとは危険性も大きさも違うが、性質は同じで無害ではない。心して臨む様に」


 訓練開始――

 シルは即座にキューブを空間に振り分け、全体の様子を把握する。

 アリシアの足を粒子が覆い、足裏に光が収束していく。光が弾け、瞬間アリシアは加速。障害物の中を駆け抜ける。

 二人の目の前には薄くエネルギーの膜が張り、視界を共有する。

 シルは的確な指示で、目標へとアリシアを誘導していく。

〈アリシア!そこから進んだ先の障害物の向こう、生体反応有り、接敵する!〉

「わかった」

 アリシアは短く返事をする。


 アリシアは障害物を飛び越えながら、足に集中していたキューブを操作する。

 着地の衝撃用に少量維持しつつ、残りを周囲に漂わせる。

 視界の先には要救助者のダミー人形と、蠢く肉の塊、擬似変異体がいた。

 変異体からはゆっくりとだが、要救助者へ触手のようなものが伸びていた。


「戦闘開始…!」〈戦闘開始!〉


 シルは周囲の警戒が可能な量の粒子を残し、集めたキューブで要救助者の周りに膜を張る。

 アリシアは漂わせていた粒子を弾丸のように変異体へ撃ち込み距離を詰める。


 変異体は触手を槍のようにアリシアへ突き出す。

〈右!〉

 シルの声にアリシアは右腕へ粒子を集め、手の甲と手首で突き出された触手をいなす。

「っ!」

 アリシアは動きを止めず、手首の粒子をそのまま掌へと移動する。同時に、撃ち込まれていた粒子も手元へ戻っていき、黒く鋭い槍を成形していく。

〈変異体の核はど真ん中!やっちゃって!〉


 槍は変異体を貫き、槍の先には核が露出している。

 ブザーが鳴り響き、演習は終了。


「よっしゃあ!」

 後方から支援していたシルが興奮した様子でアリシアへ駆け寄る。


「やったね!アリシア!」


「うん、シルのおかげ」

 シルは腕を後ろで組んでアリシアを覗き込む。

〈そんなことない…〉

〈アリシアは誰よりも努力してる、家族のために〉

〈私も一緒に、そうなれたら…〉


「シル?」

 アリシアがシルを覗き込む。

「シル、アリシア。よくやった」

 教官が二人を評価する。

「シル、即座に現場の状況を把握し、パートナーへ共有。目標への誘導。要救助者の迅速な保護」

「その調子だ。支援部隊として、アリシアの装備の調整や点検も欠かさぬように」


「はい!」

 シルの返事を受け取り、教官はアリシアへ向き直る。

「アリシア、君のキューブを操作する技術は秀でている。柔軟に対応できる判断力と、リソースの許容量の多さは随一だ」

「ただ、君の適性と門への耐性なら、もっと大きいキューブを扱えるはずだ」

「粒子の操作は精神状態が大きく影響する」

「心当たりがあるなら、今は正式な構成員になるため集中するんだ」


 アリシアはシアリスを想う焦りを自覚していたが、考えないようにするとは、無理な話だ。

 アリシアの表情が陰る、浮いていたキューブは光を失い、地面へ落下する。


「アリシア!構成員になったら外出の許可も出るし、一緒にスイーツ巡りしようよ!」

 アリシアはきょとんとした顔でシルを見つめる。

「ここじゃ甘い物あんまり食べられないからさ、お姉さんを探すついでに流行のお店を巡る!どう?」


 アリシアは笑みをこぼす。

「それ、シルが行きたいだけでしょ」



●●●



 シアリスは薄暗い耐久試験室に拘束されていた。


 部屋にはスピーカーから、ドクター・クエインの声が響く。

「君たちに与えていたものは、変異した人間の組織や体液。厄災で変異した門周辺の物質」


 地下、研究区画へ案内されてから多くの投与や実験を経て、人間のカタチを保っているのはシアリスのみだ。


「理性を保った変異体は君が初めてだ」

「いったいなぜ、君だけが」

 クエインは興奮した声で話し続けている。


「その肉体、その色はなんだ?」

 シアリスの身体には桃色の渦模様が現れていた。

 頭部と腰からは触手のようなものが生え、シアリスの意思を反映して動く。

 指先や歯、耳は尖り、人から離れていっていると感じる。

 拘束と薬の投与により、シアリスは朦朧とし、身体の自由が効かない。

〈アリシアは…無事なのかな〉


「君の"適応能力"は人類への贈り物なのだよ」

「サンプルを取ろうとしたら…これはなんて素晴らしい発見だ!」

「瞬時に再生したんだよ!」

「爪や歯だけじゃない!指や耳も!」

「腕や脚は?胴体は?切断以外…熱にも耐えられるのか?」「ああ、全部試そう」

「その再生能力の限界を知りたい!」


 クエインは機器を操作し、研究員達へ指示を出す。

「さあ、進化だ」


 研究員がシアリスの四肢に刃を当てる。

 シアリスの意識は肉体へ引き戻される。


「っがあああアアアア!!」

「ああっすばらっしい!!」


 クエインの歓喜とシアリスの絶叫が部屋に反響する。

 耐久試験が開始された。

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