Angelblood 序章【天使の血】
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悠蛹(@snghrk2414)
数十年前、翼を持つ無垢なる存在が、門と呼ばれる光の穴を通って落ちてくるようになった。
人々は彼らを天使と呼び、人間と天使は一時、共存していた。
天使の外見は人間にとても似ている。
陶器のような肌に、光を通す白い毛髪。そして、その背には白い翼が生えている。
彼らは門より現れた瞬間から、時が経っても老いることなく、その姿を保った。
門の出現に法則性は無く、突如現れては天使を排出し、消滅した。
ある時、天使が怪我を負い血を流した。
そばにいた人間の男が、天使の出血を止めたが、彼は止血に使用した布に抗えぬ渇望を覚え——その布を顔に近づけた。
天使の血――
摂取することで、あらゆる怪我を治癒させることができた。
それだけでは無く、継続した摂取で若さを保ち、寿命を伸ばすことすら可能とした。
それは同時に、人間の内面の欲や醜さを表出させる中毒性を持つ液体だった。
彼らが人によって支配されるまで、時間は掛からなかった。
天使は奴隷となり、富の象徴、血を搾取するための家畜やワイン樽のように扱われる。
――天使は狩られ、消費される存在となった。
***
辺境の村近くにある森――
人の音は聞こえず、植物や動物の息吹だけが森を満たす。
木々の隙間からは光が漏れ、白い花々が咲く地面に反射して森を照らす。
空気は神聖さと不気味さを孕み、村の子供たちも普段は近づかない。
少年――デプラだけは、ここを遊び場にしている。
母子家庭で貧しい家庭のデプラにとって、村で友達を見つけるのは簡単ではない。
自然と、人の寄りつかない森が、彼の遊び場になった。
デプラは石や木の枝など、地面に落ちる手頃なものを見つけては拾い集め、木々の奥、遠くに見える木の洞を狙って投げる。
「……」
集中すると、手に握る礫の感触と、森の静寂だけが感じられる。
その間、デプラは森に溶け込み、孤独を忘れる。
的に礫が当たると、デプラは再び森と引き離されるのだった。
――デプラの背後で、空気が震えた。
「……え」
振り返ると、森の花畑、デプラの目線より少し高い位置で、空間が裂けている。
裂け目は異質な光を帯びており、まるで別世界に繋がっているように見えた。
デプラがおそるおそる近づくと、裂け目から人の姿が現れる。
それは少女の容姿をしていた。
背丈はデプラよりも少し大きい。中性的な短く白い髪が、左右の耳の上あたりで外に跳ねている。
少女は、脱力したまま裂け目から倒れるように落ちる。
「わ!」
デプラは反射的に駆け出し、落ちてきた少女を受け止めた。
周囲に白い花弁が舞い、二人を包む。
少女は何も纏っておらず、その背中には白い翼が生えていた。
少女は閉じていた目をゆっくりと開ける。
少年の視線は、彼女の瞳の中にある青へと吸い込まれた。
「君は?」
デプラの問いに、少女は口を開く。
「……ファルム」
森は静まり返り、彼女の声とその青い瞳の視線だけがデプラに届く。
少女は不思議そうに周囲を見渡している。
〈このまま森に放っておくわけにもいかない〉
デプラは彼女に自身の上着を着せ、家へと連れ帰る。
「ついて来て」
——デプラは天使を知らなかった。




