▼第一話「まあまあ鳥、最強になって帰省する」
「起きろッッ!!!!」
鼓膜を突き破らんばかりの怒声が聞こえ、まあまあ鳥は飛び起きる。目をこすりながら辺りを見回すと、まず無数のまあまあ鳥のヒナたちがそこ横たわっているのが目に飛び込んできた。まあまあ鳥のケイシン=ヤサトは、驚きのあまり、心臓がくちばしから飛び出る寸前であった。なんという異様な光景か。死んでいるのだろうか、と戦慄したが、何羽かがもぞもぞと動き出したので、ある種安堵した。
それから辺りを見回すと、いくつかのかがり火があって、薄暗いながらも周囲の様子がわかった。そこは、大きな洞窟の中のようだった。天高くから、幾万条もの鍾乳石が垂れさがってきていて、地面からも雨後のたけのこのように、岩の尖塔がいくつもいくつも生えている。
そして声の主は、岩窟の高い場所に、かがり火に照らされて立っていた。年配のまあまあ鳥で、目を失ったのか、眼帯をしている。顎髭を生やしていて、いかにも猛者といった顔つきである。不機嫌というわけではないが威圧感がいつもあり、彼の傍に付き従う兵たちの間に、いまも緊張感が走っている。その恐怖の古鳥が、ヒナどもを睥睨している。
——いったい、何が起きているんだ?
ケイシンは状況を把握できない。
周囲の鳥たちも目を覚まし始め、左右を見回したり、ぴちくりぱちくりとざわめきはじめた。
大方の鳥が起きたとき、じっと黙っていたその古鳥が、くちばしをひらいた。
「静かにッッ!!!!」
その声は、単なる大声ではなく、チャクラが込められていて、内臓の奥底が痺れるような怪声であった。
小うるさい年頃のヒナたちも、これほど異様な声を聞いては押し黙る。
「私はこの魔鳥殿の管理者である、デレジン=ドラダだ。ここは、まあまあ鳥族の真の切り札となる、真の戦士を養成するための秘密機関である。それ以上のことは、生き延びてから教えてやる。貴様らがこの魔鳥殿から生きて外に出るには、いくつかの試験を通過せねばならない。しかし、試験ごとに死者が出る。貴様ら千羽のうち、生き残れるのは一握りだろう。しかし、それでこそまあまあ鳥族の柱石となり得るのだ」
くちばしが震え、かちかちと音を立てているのが自分でもわかった。周りのヒナたちも青ざめ、震えている。一瞬ののち、あちこちから、なんで、どうして、家に返してよ、とヒステリーの波が起きた。
「喝ッッ!!!!」
それは衝撃波のように全羽に行き渡り、心臓を強く掴まれたような感覚で、どの鳥も呼吸が出来なくなり、声が出なくなった。
「これより、私の話を遮るものは、適性なしと見做して処分していく。ゆめ忘れることなかれ」
心臓がぎゅうぎゅうと締め上げられ、ケイシンは目の色が白黒し、脂汗が流れ始めた。
気絶するかと思ったその瞬間、急に解放された。
「さて、諸君らにはそれぞれに応じた武術を身に着け、鍛錬してもらう。その中で選りすぐりの者だけが生き残る。弱いものは死ぬ」
そのとき、きょああああええええああああっっと奇声を発する鳥が現れた。状況に耐えられず、パニックになってしまったのだ。
「精神的に弱き者も、当然こうなる」とデレジンは言うと、老いて艶を失いつつある翼を獰猛に広げ、風を起こすかのように力強く振った。すると、その発狂した鳥がその場に倒れ伏し、大きな音を立てた。絶命している、と周囲の鳥が再び騒ぎかけたが、この愚かな鳥の二の舞になるまい、と各鳥がこらえた。
めいめいが、ルールを飲み込んだ。違反者は死ぬ、という掟である。
「まあそう固くなるな。私も仕事なのだ。貴様らを殺したくて殺すわけではない。なにが悲しくて、同族の若きヒナを手にかけねばならんのだ? しかし、これも民族のために必要なことだ。私が汚れ役になり、この苦難の事態を切り拓くしかあるまい、と決断したのだ。貴様らも国家・民族のために、安らかに死ねい。貴様らの死は、大義ある美しき死なのだ。死ね、死ね、国家のために死ね。そして、生き残った強き鳥たちは、まあまあ鳥特戦隊の幹部候補となり、未来を担う鳥となる。喜べ!! 貴様らには機会が与えられたのだ!! さあ、切磋琢磨せよ。明日のために強くなれ。心身ともに弱きヒナは、ここで朽ちるべし」
デレジンは恍惚の表情を浮かべ、陶酔のなかにいた。国家をきわめて利己的に扱い、関わる鳥であるデレジンに揺さぶられるほどの愛国心はないが、これらヒナたちの生き残りゲームが見られることを喜んでいるのだ。
——それから十二年の時が過ぎた。ケイシンは前世の記憶を思い出し、現代の武術と前世の武功を組み合わせ、最強の武術「不死鳥舞踊拳」を創りあげたのち、魔鳥殿の序列一位として卒業した。そして特戦隊の隊長になり、敵対勢力などと死闘を繰り広げ、恩師デレジンの仇である死星将ドラダバを討ち、魔鳥大戦に勝利した挙句、魔鳥会のトップに就任し、政敵なんかも片付けてあれやこれやをしたのち、そう言えば、と彼は気付いた。
生命の危機の連続過ぎて、ずっとそれどころではなかったが、いまここに至ってようやく、何者にも束縛されず、自分の家族に会いに行けるようになった、と。
ケイシンは腹心の部下のうち、最も気の利くタメと、最も男気のあるテツを庭園に呼び出した。三羽はぞろぞろと歩きながら喋った。まあまあ鳥は飛べない鳥なのだ。お尻の尾羽をふりふり、三羽が歩く。
「振り返ってみると壮絶な人生だった」とケイシンが言うと、タメとテツは深々と頷き、同調した。彼らも魔鳥殿を共に生き抜いた仲であり、苦楽を共にしてきた戦友である。そしてケイシンとともに偉業を成し遂げ、歴史を創ったという自負がある。
「ええ。史上でも稀に見る偉業でした」とタメは請け合った。
「しかし、ようやく一息つけるようになった。十二年も経ってしまったが、俺は故郷に戻って、両親を探そうと思う」
「おお! それはよき考えかと」テツはたくましい翼をはためかせて同意した。
それからケイシンは少し黙った。なかなか言い出せなかったが、やがて顔を赤らめながら切り出した。
「一緒についてきてくれないだろうか?」
タメとテツの二羽はその申し出を聞いて、心が躍った。そして、さすがに水臭いでしょ、と昔のようにタメが言って笑うのだった。テツも応じて、「俺らの両親にも会ってくれるんだよな?」と出会った頃のように話した。ケイシンも、ありがとう、と昔のように笑って言った。もちろんのこと、二羽の両親にも会うと約束した。
そして、三羽で旅に出る事が決まった。
ケイシンは胸を高鳴らせ、ワクワクしながら、地元である浜岡県の西部、静州郡の浜羅湖湖畔にぽつねんと存在する漁村・舞浜村に、馬鳥車に乗って出発するのだった。馬鳥とは、馬のように巨大な鳥である。彼らが力強く走り、箱名の坂を超える。流れてゆく峠道の景色、旅路のすべてが輝いて見えた。人生は一幕の物語のようだ、と感傷的になったりもした。
父や母は、生きているだろうか。生きていたら、どんな人たちなのか、会ってしみじみ話してみたい。
彼はごく幼少期に攫われたため、ほとんど父母の記憶がないのだ。
それゆえに、幻想も膨らんでゆく。
(きっと素敵な人たちに違いない。なぜならば、俺の両親だからだ。会ったらどんなに感動的だろうか。想像しただけで泣いてしまう。いかんいかん、こいつらの前で泣くなんて、沽券に関わるわ)
まあまあ鳥たちの基準で言えば、十二年は十分に長い月日である。ケイシンはすでに青年期を終え、壮年の初期に達しようとしていた。涙腺も緩くなるというものである。
「なあ、『父さん・母さん』って呼ぶのってどう思う?」とケイシンはぶっきらぼうな口調で、そっぽを向きながら友らに訊いた。
「なんて呼ばれたって嬉しいはずですよ。息子が生きて帰ってくるのですから」とタメが言った。
「まったくですぜ。それにこんなに立派な息子、世界中のどこを探したっていやしませんよ」とテツも自らの胸を叩いて保証した。彼はかなりの鳩胸であり、胸の毛が赤くなっているのが特徴である。
「よせよ、十二年も失踪していた親不孝な鳥さ俺は」
ケイシンは馬車から景色を眺めていたが、「あっ」と短く声を漏らした。鬱蒼と松が生い茂る街道を曲がると、眼下に、陽光に照らされきらきらと輝く浜羅湖と、静州灘の砂浜と、緑濃ゆく枝ぶりも見事な松林との、美しき風景が広がっていた。それは、記憶の奥底に秘められていた、望郷の景色でもある。思わず、ケイシンの目頭が熱くなるのだった。ここが、俺の原風景なのだ。
おぼろげな記憶が蘇ってくる。殻を突き破り、よちよちと歩き出した頃のことや、曾祖母が小川で笹船をつくって流して遊んでくれたことなどを思い出し、ありがたくて涙が止まらないのだった。
ともがらたちに悟られぬよう景色に見入っているふりをしているが、もちろんタメもテツも鈍い鳥ではない。察して、あえて触れぬように景色を誉めそやした。粋で優しい鳥たちである。
そして、馬鳥車は故郷の舞浜村に到着した。ケイシンは、震える身体を鎮めるために、ふうと深く呼吸し、精神を整えた。そして、慎重に馬鳥車から降り立った。彼は、この一歩は、他人にとっては何でもない一歩だが、俺自身にとっては、とてつもなく重大な一歩である、とある種の生真面目さを持って大地を踏みしめた。
潮の香りのする村である。風が強く吹きすさぶ地方で、静州のからっ風とも呼ばれていた。それらが吹き渡ると、湖畔や水路に繋がれた小舟や、草花を揺らし、水面に波をつくる。
記憶を頼りに、実家を探しながら、往還通りと呼ばれる、金物屋や八百屋、魚屋、米屋、料理屋、模型屋などの並ぶメインストリートを歩いた。漁村だけに野良猫もあちこち闊歩していて、それを見るにつけても、しみじみと懐かしさを覚えるのだった。また、通りには常夜燈や一里塚など、東海路五十三番の宿場町のひとつだった名残が見受けられて、それもまた郷愁を揺さぶるのだった。(我が村、舞浜!)とケイシンは心の中で喝采をあげた。
そしてケイシンは、村の中でも本当に浜に近いあたりに、自分の生家を見出した。その外観を見るだけでめまいがするような懐かしさを覚えた。
なんという平凡な、しかし強烈な魅力に富んだ家なのだ。俺は、この家で生まれ、初めて歩いたのだ。
それほど広い敷地ではないが、馬鳥車を止める砂利の場所や、犬を飼っていた倉庫など、見るだけで胸を締め付ける。敷地の境界の植栽ですら、震えるほど懐かしかった。
ケイシンは戸を叩こうとしたが、緊張で吐きそうになったので、精神が落ち着く薬草を煎じて丸薬にしたものを飲む必要すらあった。武で世界を制した鳥も、ただの鳥である。
タメもテツも長い付き合いで、いまさら幻滅などする訳もなく、安心させようと様々な世間話をした。
「いやしかし天候にも恵まれて」とタメが言ったとき、突然雨が降り出した。
気まずい沈黙が流れたが、それでかえってケイシンの決心もついた。
ケイシンはコンコン、と戸を叩いて、がらっと開けた。田舎で鍵をかける習慣はない。用がある者はだれでも戸を開けて、「○○ちゃんいるけ?」と年寄りにも聞こえるように大声で呼ばうのである。
ケイシンは、絶句した。もちろん、タメもテツもあまりの異様さに身じろぎも出来ずにいる。
そこは、凄惨なゴミ屋敷であった。
まず、玄関から見えるリビングへと抜ける戸にはうずたかくごみが積まれており、ところによってはケイシンの背を超えるほどであった。完全に戸が封鎖されていて、通行は絶望的であった。
雑誌や、割りばしや、カップ麺の容器や、髭剃りが入っていた空の容器や、蜜柑の皮や、スプーンや、熊の置物や、飴色の渋い古木の置時計や、古新聞や、テーブルライトや、鼻紙の丸めたものや、スマホケースや、プラモデルの箱や、ゴシップ紙や、たばこの空箱や、釣り竿や、とんかちや、モデルガンや、電卓や、スピーカーや、古いCDや、ソフビの人形や、菓子パンの空袋や、かびたタオルや、とにかく雑多で汚いものの集合体が、そこに存在していた。
これは幻か? とあまりに事態に自分の正気を疑うも、タメとテツのこわばった顔を見て、すべてを察した。
「なあ、これやばいよね?」とケイシンは一応親友たちに尋ねてみることにした。
「そうっすね、だいぶやばいっすね」テツはひとおもいに一刀両断にしてやった。「かなりキテますね」
「な、なにか事情があったのかも!!」とタメは無理に声色を明るくしたが、山積するごみの前では虚しく響くのみである。
ケイシンは底知れぬ悪寒を感じた。実家に誰が住んでいるのか知らないが、その精神状態はおそらくまともではあるまい。
リビングへと抜ける道が封鎖されていたため、左手にある浴室を通って抜けようとしたとき、ケイシンはまたもや心臓が止まる思いを味わった。
そこには、鳥のダッチワイフが二羽立っていたのである。
これほどの恐怖は、魔鳥殿でも死星将ドラダバとの死闘でも味わったことがなかった。まさに、戦慄。
そんな馬鹿な、とケイシンは混乱した。
しかし事実、そこには卑猥な鳥のつくりものが立っているのである。
(うちの実家は、いったい、どうなってしまったのだ????)
武術の鍛錬を経て、気功にも精通していたケイシンは、それら鳥形に魂が入っているのを感じて、さらに背筋に気味悪いものが走るのを感じるのであった。
なにせ、ダッチワイフに入った霊たちが、「わー、お客さんが来たよ~」「ほんとだ~。若い鳥たちだね~」「いやもう若くないって」「そっか、家主が爺さんだから」と笑い合っているのである。
遮二無二浄化の気を送り、なんとか除霊をするケイシンであったが、そこは歪な気の空間であり、気休めにもならないことはわかりきっていた。たとえ一時的に祓っても、あとからあとから周囲の霊を招き寄せるような場所だ。
それに、とてつもなく禍々しい気配を奥から感じるのである。
奥へと行く前に、洗面台のあまりの惨状が目に入る。そこには、吐しゃ物にまみれたまま掃除されなかったのか、汚物が固形化し、黄土色や灰色の塊になってそこにこびりついていた。曇りに曇った三面鏡を見ると、ダッチワイフと目が合う。勘弁してくれ、とケイシンは別の意味で泣きそうになった。
そして、はっと後ろを振り返る。
玄関から右手の部屋は、かつて子供部屋だった場所である。ヒナだった時分は、そこで母がゲームする姿を眺めたり、二段ベッドで妹と寝たり、いろいろな思い出のある部屋だ。
しかし、振り返って戸口のあいだから見える子供部屋は、ごみで溢れかえっているのがよく見えた。目を凝らしてみると、女子高生の制服がハンガーラックにびっしりとかけられているのも見える。
もはや、タメやテツの顔を見れないケイシンであった。
あの制服は、いったいなんなのだ????
ダッチワイフらと、なんらかの関連があるのか????
あの素敵な思い出の舞台は、どこに消えたのだ????
急に、吐き気が込み上げてきた。
ケイシンはおえっとえづきながら、キッチンを抜けてリビングへと抜けようとした。もちろんキッチンにも所狭しとごみがあるが、獣道のように、行き来するところだけがごみも比較的少なく、床が多少見えなくもない。
キッチンにしつらえられている食器棚の中には、なぜか馬の置物や船の模型、ネクタイやベルト、アダルトではない邦画や洋画のDVD、かけた茶碗や湯呑、電池、はさみ、毛抜き、女物のパンツなどが雑多に入れられていた。食器棚ぞ、とケイシンは内心呟いた。
そして、流し場を見てさらに絶望を深めた。
そこは、カビの楽園であった。白い綿毛のような胞子が所狭しと芽吹いていて、菌糸類が我が世の春を謳歌していた。
おえっおえっとえづいていたケイシンは、膝をつきたい心持ちであったが、このような不衛生極まりない場所でつく膝は持ち合わせていないのだった。
タメが背中をさすってくれるのが、ありがたいやら情けないやら。ケイシンはまたもや泣きたくなった。
そのとき、キッチンにいるケイシンのもとに、ぼそぼそと誰かがしゃべっている声が聞こえてきた。訝しんだケイシンは、顔を上げて、声のする方を見た。それはリビングの方であった。
そして、カウンターバーの向こうに見えるリビングの景色は、三羽の度肝を抜いた。
彼らが目にした光景は、リビング全体がごみの蟻地獄のようにすり鉢状に中央に向かってへこんでいて、その中央、一番低い部分に座布団が置かれているのだが、そのぐるりを、ごみすり鉢ゾーンの土手のようになっている部分に、ダッチワイフの頭部だけがずらっと八個並んでいる、というものであった。しかも、ダッチワイフの頭部のひとつひとつにはそれぞれ霊魂が入り込んでおり、それぞれが好き勝手なことをぺちゃくちゃと喋っているのである。「もうさあ、ほんと男ってさあ」「わかるううう」など女子の会話をしているが、その実、そのダッチワイフの頭に入っている霊魂のほとんどはおじさんのそれである。彼らは心が女とかではなくて、ただ単に頭部があったから入り込んで、それが女の形状だったからごっこ遊びをして楽しんでいるだけだった。それがまた恐ろしくて。
その他、ポーズを取って立っているダッチワイフが四体、セーラー服のハンガーラックもいくつもあり、壁にはゴキブリが這い回っていた。そしてゴキブリが急に飛び立ち、ケイシンの方へと向かって来た。
「ぎゃあああああああああッッ!!!!!!!!」
ついにケイシンは、あられもなく叫んでしまった。
テツはそっとケイシンの肩に手を置いたが、錯乱したケイシンはむしろ己を恥じた。
ケイシンが叫ぶのも無理はなかった。それは、ここに住んでいる者、恐らく高齢男性の単身住居であろうが、その者の精神状態を如実に表している部屋だからだ。純然たる孤独。誰かに見られたい。自分の存在を認めてほしい。そんな叫びが聞こえてくるかのような空間である。お化け屋敷をつくろうったって、こうはうまく作れまい。作為のない天然の狂気、誰にも見せることのない、プライベート十割の狂気。それが充満しているのだ。
「な、なあ。きっとこれはなにかの間違いだよな。あ、あれか。ドッキリか。そ、そうだよな! おい、お前らほんと趣味悪いぞ!! 泣いちゃうところだったじゃんかよ!!」
タメとテツは返答に困った。否定してしまったら、ケイシンの精神の平衡が崩れてしまう可能性があった。ここは慎重に扱う必要がある。
「やあ、驚いた。こんなに作り込んで、いったいどうやったんだ? あ! それか、もうこの家には俺の家族は引っ越して出て行ってしまっていて、別の人が住んでいたとか!」
「……ま、まあ表札は『ヤサト』でしたけど、ここまでズボラな人だったら表札を替えるのも面倒でしてなかったのかもですね~!」とタメがフォローを入れる。
そのとき、テツの叫び声が聞こえた。
「うわあああああああッッ!!!! トリが倒れてるッッ!!!!」
(つづく)