8.触れる
読んでいただけて感謝!
「…貴方は、誰?」
リリーシスは体を起こすと、男の顔を、仮面の奥を、透かして見ようとするかの様に凝視した。
男が素顔であれば、明らかに顔色を変えたのが分かったであろうが、
全てを仮面に遮られ、その表情は伺い知れなかった。
「す、す、すまなかった…!!!!!」
ベッド間際に立つ男はそのまま、流れるように迷いないジャンピング土下座をした。
リリーシスは今世で初、土下座を見た。
額を床に擦り付け、むしろめり込むかの如くべったりと蛙のように潰れている。
それはそれは立派な土下座であったのだが、それはさておき…。
「とにかく、顔を上げてください。これでは話もできません」
リリーシスの涙は驚きで引っ込んだようで、
名残で潤んだ大きな瞳が男を逃さぬと射止める。
「こちらに来て仮面を外してください」
冷静さを取り戻したリリーシスは、真実が少しづつ形を成し始めるのを感じながらも男を促す。
男は観念したのだろう。
ゆらりと力なく立ち上がり、
リリーシスの手の伸ばしやすいところに仮面のついた顔を差し出す。
微かに震える指先に、キラキラと薄明りを反射する仮面が触れる。
パンドラの箱を開けてしまうかのような心持ちだが、リリーシスももう箱の中を見ないまま、有耶無耶にする事など、出来るはずもなかった。
そっと仮面に触れ、外す…。
仮面の下にはリリーシスがよく見知った顔があった。
リリーシスはその存在のひとつひとつを確かめるように、目や頬や口を撫でるように、触れる。
瞳の色も髪の色も声も違う。
でも姿形はその全てが、夫のガロンだった。
短くてすみません。
このまま続けると長くなりすぎるかと思いまして…次に続きます。