7.剥がれる仮面
前半ガロン視点、後半リリーシス視点です。
ちょっと後半書き直しました。
…泣かせてしまった。
何故こうも上手くいかないのだろう。
阿呆な自分には無理なのだろうか。
ジェイクとあんなに練習したのに不甲斐ない。
そもそも夜会に来てからも散々だった。
普段は着ない華やかなドレスに身を包んだ艶やかなリリーシスに、彼女の本気を見た気がして動揺して、見失って追いかけて何とか口説こうとしたけど相手にされなくて。
ムキになってから回って、口説き落とすなんて到底無理で。
他の男と言葉を交わす彼女に嫉妬して。
髪色や衣装を変えたって別人にはなれなくて。
甘くて熱い口説き文句も何も出てこなかった。
呆れられていたのも分かっていた。
情けなくて、でも何とか2人きりになれて嬉しくて、欲のまま抱きしめた。
でも久しぶりのぬくもりで、初めての時が脳裏に蘇って、懐かしさが胸を温かくした。
あの時はただ優しくしたかった。
だから伝わるように気持ちを込めてキスをした。
でも結果はこれだ。
嘘をついたからか、騙そうとした心を見透かされたのか。
それともやはり甘いマスクの先ほどの男の様な洗練された言葉を言えなかったからか。
…俺は、何かを失敗したのだ。
リリーシスは淑女教育を受けたからだろう。
表情はいつも微笑みを浮かべ、それを俺は単純だから、彼女が幸せだから微笑んでくれていると思った。
我儘もこれと言って聞いたことがない。
ヒステリックに怒鳴る事もないし、泣いた所を見たことがなかった。
なのに今リリーシスは号泣している。
しゃくり上げ大粒の涙を流している。
何かやらかしてしまったのだろう。
しかし理由が分からない。
ガロンは途方に暮れた。
「も…申じ訳ございません…」
ひっくひっくとしゃくり上げながらリリーシスは言葉を紡いだ。
ここに誘ったのはリリーシスだ。
それをキスをされたからといって、いきなり泣きじゃくるなんて。
呆れたような、戸惑いのような雰囲気が仮面越しでも伝わってくる。
でももう嘘はつけなかった。
この目の前の男では自分を満たす事など出来ないことは分かっていた。
「悪かった…泣くほど嫌だなんて思っていなかったんだ。こちらこそ申し訳なかった」
「いいえ、私が悪かったのです。
心を寄せている方が居るのに、他の人で穴を埋めようとするなんて…」
「まさか他に好きな男が?誰だ?いつも庭の薔薇を手入れしている庭師か?君は花を見てよく微笑んでいたものな。
それとも護衛のアプニスか。
俺が側に居られない視察などは思えばあいつが付き添っていたからな。
そう言えば数年前から勤めている家令の息子が家令見習いだが、君とさほど変わらない年齢だったか。
それともまさか…ジェイクと言うこともあるか?人目があるとは言え、話す機会も多かっただろうし、あいつは息を吐く様に女を口説く。あの本の内容も熟知していたし、クソ、あの野郎リリーシスに…!」
「な…?何で貴方がそんな事まで?
そもそも庭の花が綺麗だから嬉しくなるのは当然の事だし、アプニスは仕事で護衛してくれるだけだし、家令の息子はまだ22で私とは歳も近くないし、ジェイク様は夫の良き友人であり右腕の様な存在で社交辞令で耳触りのいい言葉を言ってくれてるだけだわ」
憤ったガロンは正体を隠している事を忘れ、勢いで嫉妬深い所を晒してしまった。
リリーシスは色々な感情が渦巻いて混乱していた。
けれど何故、男がそんな内情を知っているのかと訝しく思いつつも、反射的にガロンの疑惑を打ち消した。
そして呆けた頭がゆっくりと、じわりと動き出す。
『この目の前の男は一体誰なの?』
ひとつ、ぽつりと疑問が浮かんだ。
その時初めてこの男の仮面の奥にある、彼の瞳を真に見つめた気がした。
「…貴方は、誰?」
その都度書いているので辻褄が合わなくならないか心配です。
疑われるジェイク…かわいそう。
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