5.ある男の話2(ガロン視点)
ちょっと脳筋気味だが、普段は頼れる上司なのにな、とジェイクは長いため息をつく。
情けない顔をした親友であり上司であるガロンを見遣り、
本当に女関係、特に奥方に対してポンコツだな、と思う。
元々政略結婚ではあるが、ガロンにとっては高嶺の花だったリリーシス。
ガロンはガロンなりに大切にしていて、関係は良好だと思っていた。
あまり話したがらないガロンに、夫婦の事など聞いても惚気だろうと無理に聞き出す事はなかった。
こうなった事にほんのちょっっぴりだけ責任の一端を感じる。
故にアドバイスはしてやるか、と口を開く。
「おい、事情はどうだか知らないけど浮気されて当然だわお前。
俺のアドバイス聞く気があるか?
その代わり裸で逆立ちしろって言われても言う事聞くんだな?
やっぱりできないは無しだぞ」
「わ、分かった!頼む。リリーシスに愛人なんて…無理だ!!」
「まずお前、今夜の夜会に行け。
髪は染めて、声は薬で変えて、顔はフルマスク、普段着ない明るい色でコーディネートしてお前が奥方を口説くのさ」
「口説く?!俺が?ど…どうやって?生まれてこの方女を口説いた事なんてない!」
「おい、出来ねぇは聞かねえって言ったが?本気なんだろ?夜まで時間がない。準備もある。うだうだ言ってる場合じゃねぇぞ。腹括れ」
ガロンは取り急ぎ執事に連絡を取り、必要な物を用意する様に頼んだ。
「色は情熱的な赤だ。そして奥方をその色の通りに口説くんだ」
ガロンは普段、黒か紺しか着ない。
こだわりはないが、無難な色を選ぶ。
派手な物は無作法者な自分が目立つのは気が引けてしまって、避けてしまうのだ。
「赤…俺が?赤…」
「それは執事に任せるとして、急いで指南書を読むんだ。お貴族用の上品なヤツじゃなく、平民の赤裸々なヤツをな。軽く読んだら実地で教えてやる」
「…2冊あるんだが?」
「そりゃあ奥方を口説くのと、その先もあるかもだろ?ベッドでも満足させなきゃ、別に愛人作るかもしれないからな」
ガロンは活字が苦手だった。
書類仕事も何とかこなしていたが、本に至っては初等学校の基礎的な勉強の時に読んだきりだった。
久しぶりに読む本が
『女心のトリセツ〜これであなたもジゴロ生活〜』と
『ベッドの中で女は女優になる〜本当に喜んでもらえる100の技と心得〜』
になるとは…。
…。
ガロンは遠い目をして、ぽっかりと浮かんだ白い雲を窓越しに見上げた。
『俺もいっそ雲になりたい…』
「時間がないって言ってるだろ?読んだか?頭に入ったか?30分したらおさらいだぞ。俺は休憩して来るから終わったらやるからな」
…昨日は報告出来なかったが、もうさすがに変な空気は霧散したであろうと昨日の報告をしに来たガロンの部下は、
団長のどっしりとした重厚な机に押し倒された団長と
「ぬばたまの夜のような美しい君に一目惚れをしてしまった。その艷やかな瞳の宝玉が私の心を射抜いたんだ」
とのたまう副団長、見つめ合う2人、腰と頬に添えられた手が何とも言えないムードを醸し出していて、最早、何のリアクションもできずそっとドアを閉め、疲れから早退を文官に申し出、自宅へと帰ったのだが、半休を取って家に帰っていた妻に今日見てしまった事を燃え尽きた様にぼそりぼそりと話し、興奮した妻に根掘り葉掘り聞かれ、それが翌日女官ネットワークに乗って、広まるだけ広まってしまったのはもう言わずもがな。
リリーシスとガロンよりジェイクとガロンが楽しくなってしまったのは言わずもがな。




