12.番外編 ホンジツハカイセイナリ (ジェイク視点)
暑い日が続いて、くたびれつつ深夜テンションで書いております。
皆様もご自愛くださいませー。
いつもお読みくださりありがとうございます。
私的にはちょっと描写とか長めで飽きられないか心配しつつ、書き書きいたしました。
番外編お付き合いくださいませ〜。
空高く初夏の清々しく心地よい風が吹く中、ジェイクの心はどんよりとしていた。
できる事なら体調を崩して寝込んだり、何やらの事件が起こって休日が返上になったりしないかと期待していたが、そんなことが起きるはずもなく、今はただ虚無のまま、大きく立派な門の前に立ち尽くしている。
「帰りたい…」
ガロンが爵位を継ぎ、入り婿である為、ガロンの邸宅はリリーシスの生家で、良く言えば
趣きのある、重厚感かつ歴史を感じる邸宅であるが、いくら手入れされているとはいえ、滲み出る古さは陰鬱としたお化け屋敷のような見た目をしていた。
それは、ジェイクの暗澹たる未来の予兆のようにも思えた。
……などと大層なことを考えているわけでは無い。
無いが、リリーシスに会うのは結婚式以来であるのも事実だ。
その当時の彼女は育ちのよさそうな、貴族らしい、ともすれば堅く他者を寄せ付けない雰囲気だったため、庶民気質の抜けないジェイクは近寄りがたく、儀礼として言葉を交わしただけだった。
まさか、ティータイムに呼ばれるなんて…。
私的な招待であるから、今回は見送り、先延ばしにするくらいは許されるかもしれないと思っていたが、
予定を把握され、休日にリリーシスは迎えの馬車を寄越し、ジェイクの逃げ場はなくなった。
門を入る手前で、御者に一旦止まってもらい、外の空気を吸い、落ち着こうと思ったのだが、結局気分が晴れぬまま、馬車に乗り込み、ドナドナと運ばれていく。
気分は子牛だ。
…すべて完璧な準備の整った陽だまりの中のティーテーブル。
目の前には美女とかわいい子ども…。
今日の晴天と相成って、本来なら心躍る場面ではある。
ジェイクのモテ技術を駆使し、王都のオープンしたばかり入手困難『かわいい小さな季節の彩りケーキ』
を手土産に来たものの、既にテーブルには食べ切れないほどの色とりどりの華やかな茶菓子が並んでいた。
「本日はお招きいただきありがとうございます。
王都で次に話題になるであろう、一番旬なデザートをお持ちしましたが、伯爵家の料理人には敵いませんでしょうね」
「いいえ、お気遣いありがとうございます。
細やかなお心遣い、ジェイク様がおモテになるのも分かりますわ」
と、まぁ社交辞令の様な会話が続く。
お茶が程よく用意され、デザートや軽食を楽しむ。
正直緊張から食欲がわかず、ちまちまとしか食べられないが、
それでもどれも凝った作りの美味しいものばかりだった。
ルークは大人しく甘いものを食べる事に夢中だ。
ガロンとリリーシスのいいとこ取りをした様な見た目で、かわいらしい。
満腹になったら眠くなったのだろう、乳母に連れられて昼寝をしにいった。
「ようやく、ふたりきりになれましたね。
ジェイク様には夫が公私ともにお世話になっておりますから、一度ぜひ御礼差し上げたいと思っておりましたの」
淑女としての微笑みを浮かべこちらに向くリリーシスに、
ジェイクは何かを感じ、背中をぞわぞわさせた。
『余計な事を吹き込んだと怒っているのだろう。
上手く行けば誤魔化そうと思っていたが、ガロンとの作戦は失敗に終わったも同然だ』
「本日は無礼講で楽しくお話しましょうね。
言葉遣いも崩してくださいね。
ジェイクさんと呼んでもいい?」
「それはもう。ジェイクと…呼び捨てで構いません!」
「では遠慮なく、ジェイク?
夫に入れ知恵したのは、ジェイクだと聞いたけれど本当?
先日、面白い体験をしたのよ。
愛人を探しに夜会に行ったのだけど、
夫にそっくりな男に口説かれて…。
ひどい出来で、結局次第点はあげれなかったので、今追試中なの…」
「へっ…へぇ、そんな変な男がいたんですね…
世の中には3人、そっくりさんがいると聞きますからね…」
「あら?言葉遣い崩れてないわね?何故かしら?ふふふっ」
リリーシスの張り付いた笑みを見つめ、ジェイクはもうガクガクブルブルとしながら
『やっぱり機嫌を損ねたら、貴族のお嬢さんに平民なんぞ、ちょん切られてしまうんだろう…
俺、早まったかも』
と気を遣りそうになった所を寸での所で思いとどまる。
「そんなにガチガチにならないで。
ジェイクには感謝しているの。
これまで、その愛人候補が馬鹿だと悟られないように、色々と尻拭いをしてきたんでしょう?
じゃなければ、要職に就くなんてあの人には無理ですもの。
だって脳筋でしょう?」
「い、いえ。団長は素晴らしいお人柄と実力を兼ね備えたお方ですよ!
私が何かをするなど…!」
「まぁ、謙遜などいりませんよ?
それに私は愛人候補の話をしているのであって、
団長だなんて一言も…」
リリーシスの口元はそれはもう美しい半月を描き、目元は動いていない。
つまり目が笑っていないのだ。
「そ、そうですよね!
あいつはずっとあなたの事が好きでしたから。
あなたの家が華やいでいた頃から、
それが幻となった時も。
最初はあなたに釣り合うように、そしてあなたを救えるように、
死に物狂いで鍛えて、若くして団長の座を得た…。
ただ、ただ、あなたを助け、手に入れる為に努力し続けた。
王都が火の海になっても、城が暴徒に包囲されても、正規のお貴族騎士団ではできない事を体張って、命懸けてずっとやって来たんです。
まぁ俺もそのついでに、あいつから命賭けて救われた一人ですけどね…」
「……」
「…余計な事を話し過ぎました。
あいつは本当に良いやつです。
だから、幸せになって欲しかった…
ふざけたわけでもなく、本当のあいつを見たらきっと、あなたもあいつを好きになってくれると思ったんです。
あいつ、素直でかわいいとこあるでしょう?」
「そうね。確かにかわいいとこある。
それにいい話も聞けたわ。
詳細はあの人に聞くとして、
許してあげるから一発殴らせて?」
リリーシスはそれはにっこりと音が聞こえて来そうなほど、嬉しそうに鮮やかに笑った。
「えっ?!この流れで何で?
無罪放免じゃないの?」
「でもあなたの提案が私を混乱させたのも事実よ。
か弱い淑女の一発くらい、屈強な騎士様ならば猫の尻尾が少し当たった程度の事でしょ?
そのくらいは許されると思うの」
「一発だけ?」
「一発だけよ」
「ちょっと待ったー!!」
「一発、イッパツって…リリー!!
ジェイク〜!!!!!浮気か〜っ」
すごい勢いで乱入する男が一人。
全速力の熊。
…熊って足速いんだっけ?
そんなどうでもいい事が頭をよぎるほどジェイクの思考は投槍だった。
家令が汗だくで走って来るがまだ追いついていない。
「あら?あなた早かったのね。お仕事お疲れ様」
リリーシスは別段動じていない。
「ってか早すぎるでしょ?ちゃんと仕事した?終わらせた?」
王都は基本平和であるが、団長が勝手に早退していい程、暇ではない。
「仕事なんかできる訳ないだろ!
ジェイクの休みにふたりきりで逢引なんてゆるさん!!!」
もう髪の毛が逆立ちそうな勢いである。
「はぁ…また盛大な勘違いを…」
2人が声を揃えて同じ言葉を呟くと
「やっぱり気が合いすぎだろー!!!」
ガロンの声が中庭に響き渡り、ジェイクは雲一つない空を見上げて、その太陽の眩しさに目を押さえつつ、波風の立つ心をただ、ただ、無にしたのだった。
本当に最初ちょっとした出来心で書いたお話がこんなにたくさんの方に読んでいただけるなんて!
感謝感謝でございます。
ほんと嬉しい限りで「初投稿なのにこんなに反響あってすごくない?」とちょっとうきうき飛んでいるワタクシではございますが、あと何話になるか私にも分かりませんが最後までブックマークなどしてお待ちいただけたら幸いです。
しかしこんなにお話を書くがお話を読むより大変とは知りませんでした…。
今日も寝不足にて就寝。
本日は快晴なり。