『強欲な城』春嵐愁いと希望と因縁と
ゴールデンウィーク真っ盛り。今年も数万人の観光客が訪れ、満開の桜に囲まれながら『上杉祭り』は行われた。豪華絢爛たる上杉軍が、群衆から惜しみない賛美を浴びながら市内を闊歩していた。行軍ルートのゴール地点で一塊の軍団が待ち構えており、上杉軍が軍団の手前で行軍を止めるとアナウンスが始まった。
『川中島の合戦は、五度にわたり雌雄が決せられるも勝敗はつかず。戦国屈指の名勝負として後の世に語り継がれることになります。今宵は、後の戦国時代の風雲児、独眼竜の殿様が時代を超えて、上杉軍の出立を見送りに来られました』
徐に伊達武将隊隊長である成田実の小太鼓が二拍子でリズムを取り始めた。正宗の鎧兜に扮装した一人は、リズムに合わせ中腰の態勢から足でリズムを取り出した。そこに時野の笛の音が加わり、一人は両手の扇を八の字にひらめかせ、すずめ踊りの最も基本的な舞いを披露した。観衆の心を鷲づかみしたところで曲の二周目に突入した。大太鼓・鉦の音が加わり、「ソーレ。ソーレ。ソレソレソレソレ」と合いの手が加わった。曲が三周目に突入すると一人は、徐に鎧を脱ぎ扇と一緒に地へ置くと武将隊の長田常夫が即座に片付けた。一人は黒一色のジャージ姿になり、舞うと同時に横笛を奏で始めた。三人の青年が扇を広げて一人の代わりにすずめ踊りを舞い、太鼓のリズムに合わせて時野と一人の笛の音が響き渡った。合いの手を入れられながら湧き上がる歓声。撮られまくる動画や写真。演者も聴衆も鼓動を高鳴らせ、感動の熱で会場は一気に沸騰した。一人は数万人の前で高揚し、自らの体力の限界を突破していた。しなる身体、荒れる呼吸、残り少ない体力をふり絞り精いっぱいの舞いを続けた。華奢な体つきで表現される軽やかな舞いは、まるで重力を感じさせず見る者達を魅了した。薄っすらと施された化粧からは色気すら感じられ、間近で見る者達は一人が女子であると見間違う者さえいた。音楽と舞いが終わると一人は息を整え声を張り上げた。
「我は仙台藩初代藩主・伊達政宗である。此度の戦において、未だ生まれてもおらぬが、時を超えて応援させて頂く! 川中島で存分に奮闘されたし!」
「有難き心遣い。殊勝なり! 五度目の決戦じゃ! 我らが生き様をしかと見届け参考とされよ!」上杉謙信公に扮した、実行委員長が応えた。上杉景勝公に扮した米沢市長と直江兼続に扮した雄三は傍らで二人のやり取りを見ていた。
「米沢はかような心暖かき土地なり! 誇るべき我が故郷じゃ!」叫ぶと同時に広場は大歓声に包まれ、疲労困憊した一人は何かを叫びながら気を失った。
「おのれ秀吉め、黄金の十字架の恨みを晴らしてくれるわ!」という叫びは、歓声にかき消された。傍らで聞いていた雄三は顔を引きつらせたが、時野は口元に笑みを浮かべていた。
翌日の「交流戦」と称する「うーめんわんこそば大会」は白石勢が勝ったが、「コスプレのど自慢大会」は上杉勢が勝利を収めた。真の目的でもある「ご当地、二割引き物産市」も盛況で、記録的な売り上げを叩き出した。陣頭指揮を執っていた雄三の笑みが終始崩れることはなく、模範的な「物販のやり方」を青年会の四人の若手に教授していた。その光景こそが、時野と一人にとって「上杉祭り」での最も印象的な場面だった。