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第八話:「あるがまま」を受け入れて


部室を飛び出した麗華は、一人、人気のない図書室の隅で膝を抱えていた。


頭の中では、「完璧でなければ」「期待に応えなければ」という言葉と、「どうして私はこんなこともできないの」という自己嫌悪が渦巻いている。


部員たちへの申し訳なさと、素直に助けを求められない頑ななプライドが、彼女をさらに苦しめていた。


一方、残されたミステリー研究会の部室では、重苦しい沈黙が続いていた。


「麗華先輩…きっと、一人ですごく苦しんでる…」詩織が心配そうに呟く。


「よし!こうなったら私、部長の家にカチコミよ!愛の鉄拳で目を覚まさせてやるんだから!」結衣が勢いよく立ち上がろうとするが、クマさんに大きな手でそっと肩を押さえられ、羽交い絞めに近い形で制止された。


「結衣ちゃん、気持ちは分かるけど、今はそっとしておこうぜ…」


「でも!」


「竜崎先輩は今、自分自身を強く責めているはずだ」


静かに口を開いたのは慧だった。


「僕たちが直接何かを言っても、かえって彼女を追い詰めてしまうかもしれない。大切なのは、先輩自身が気づくことなんだと思う」


慧の言葉に、詩織は頷いた。


どうすれば、麗華先輩が自分を縛る見えない鎖から解放されるのだろうか。


翌日、慧は朝一番に部室を訪れ、麗華の机の上に、一冊の古い雑誌の切り抜きをそっと置いた。


それは、麗華が最も尊敬するミステリー作家Xの、デビュー当時のインタビュー記事だった。


そこには、Xが編集者から厳しいダメ出しを受け、何度も挫折しかけたこと、そして「完璧な作品なんてものはこの世に存在しない。


不完全だからこそ、そこに人間味が宿り、次へのエネルギーが生まれるのだと思う」という言葉が赤裸々に綴られていた。


そして慧は、登校してきた他の部員たちに言った。


「僕たちだけでも、できるところまで準備を進めてみよう。竜崎先輩が戻ってきた時に、少しでも形になっていれば、彼女も安心するかもしれないから」


その言葉に、結衣も航も、そして詩織もクマさんも、力強く頷いた。


麗華がいなくても、自分たちで何とかしよう――その思いが、彼らを一つにした。


ギミックの修正案を出し合い、装飾のアイデアを練り、不器用ながらも一生懸命に作業を進めていく。


その日の午後、意を決して学校には来たものの、部室へ向かう勇気が出ずにいた麗華は、廊下の窓から、偶然その光景を目にした。


部員たちが、自分がいなくても、必死に文化祭の準備を進めている。


そして、ふと自分の机に目をやった時、そこに置かれたインタビュー記事を見つけた。


記事の一言一句が、まるで今の自分に語りかけているように感じられた。


Xの言葉、そして、仲間たちのひたむきな姿…。


麗華の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。


「そうか…完璧じゃなくても…よかったんだ…みんなが、いてくれるんだから…」


どれだけ強がっていても、自分は一人では何もできない。


そして、完璧ではない自分を、仲間たちは受け入れてくれるかもしれない。


その気づきが、頑なだった彼女の心をゆっくりと溶かしていった。


麗華は、震える足で部室のドアを開けた。


作業をしていた部員たちが一斉に顔を上げ、驚いたように彼女を見る。


「皆さん…」麗華の声は掠れていた。


「昨日は…本当に、申し訳ありませんでした…」


深々と頭を下げる麗華に、詩織が駆け寄った。


「麗華先輩…!」


「そして…どうか、こんな私ですが…もう一度、皆さんの力を貸してくださいませんか」


その言葉に、結衣が一番に「もちろんです!部長!」と笑顔で応え、他の部員たちも温かく頷いた。


そこからのミステリー研究会は、まるで生まれ変わったかのようだった。


以前の完璧主義をかなぐり捨てた麗華は、部員たちの意見に積極的に耳を傾け、それぞれのアイデアを柔軟に取り入れていった。


結衣の「いっそ、犯人役の人形を天井から逆さ吊りにするのはどう!?」という突飛なアイデアは、さすがに却下されたものの、その発想の一部が別の形で活かされたり、航のプログラミング技術が複雑な電子ロックのギミックをスムーズに動かしたり、クマさんの意外な手先の器用さが、古びた宝箱や謎の巻物といった小道具のクオリティを格段に上げたりした。詩織の細やかな気配りは、全体のスケジュール管理や連絡調整で潤滑油となり、慧は持ち前の洞察力で、謎解きの論理的な矛盾点を鋭く指摘し、より洗練されたものへと導いた。


部室には笑顔と活気が戻り、以前よりもずっと建設的で創造的な雰囲気に満ちていた。


そして迎えた文化祭当日。


ミステリー研究会の「ミステリー脱出ゲーム~名探偵からの挑戦状~」は、開場と同時に長蛇の列ができるほどの大盛況となった。


参加者たちは、知恵を絞り、仲間と協力しながら次々と謎を解き明かし、ゴールにたどり着くたびに大きな歓声と笑顔を弾けさせた。


麗華は、汗を拭いながら部員たちとハイタッチを交わし、心からの充実感を味わっていた。


(完璧じゃなくても…ううん、完璧じゃなかったからこそ、みんなの力が合わさって、こんなに温かいものが作れたんだ…)


その生き生きとした表情の麗華と、それを見守るように静かに微笑む慧の姿を、詩織は胸がいっぱいになるのを感じながら見つめていた。


「不完全なもの同士が支え合って、何かを作り上げるって、結構楽しいもんだね」


慧が、いつものように少しぼんやりと、でも確かな優しさを含んだ声で言った。


その言葉は、麗華だけでなく、ミステリー研究会全員の心に、確かな手応えとして響いていた。



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