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第十五話:ライバル校からの挑戦状


慧の心の霧が晴れ、ミステリー研究会に再び穏やかな日常が訪れたかに見えた数日後。


部室のドアをノックする音と共に、一通の封筒が届けられた。差出人は「青葉第一高等学校ミステリー愛好会」。


県内屈指の進学校にして、ミステリー関連の大会で常に上位に名を連ねる強豪として知られる存在だった。


「ほう、青葉第一から…」


麗華は封筒を手に取り、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。


中には、格調高い書体で「合同謎解き強化合宿へのご招待」と記された招待状が入っていた。


表向きは、両校の親睦を深め、互いの推理スキルを高め合うことを目的としたものらしい。


「やったー!合宿!謎解き三昧!温泉とか美味しいものとかあるかな!?」


結衣は招待状を覗き込み、早くも期待に胸を膨らませている。


「合宿かあ。夜はやっぱり、バーベキューとかあるのかなあ?」


クマさんも、いつものようにマイペースな反応だ。


「青葉第一高校ミステリー愛好会…」


航は早速ノートパソコンで検索を始めている。


「過去5年間の全国高校生ミステリーコンテストで優勝2回、準優勝3回。


メンバーの個人能力も極めて高いと評判です。


特にリーダーの高遠智也は、”シャーロック・ホームズの再来”とも呼ばれているとか…」


「シャーロック・ホームズ…!」結衣の目がキラキラと輝く。


詩織は、慧が無理をしていないか少し気になったが、彼が静かに招待状を見つめている横顔には、どこか新しい挑戦への好奇心のようなものが感じられた。


「彼らが、私たちに何を求めているのか…あるいは、何を試そうとしているのか。興味深いね」


慧のその一言が、参加への流れを決定づけた。ミステリー研究会は、この「挑戦状」とも取れる誘いを受けることにしたのだ。


合宿の舞台は、県境に近い山間にある、やや古風な研修施設だった。


到着すると、青葉第一高校ミステリー愛好会のメンバーたちが、すでに入口で慧たちを待ち構えていた。


リーダーの高遠智也は、航の情報通り、理知的で爽やかな印象の青年だった。


しかし、その笑顔の裏には、慧たちの実力を見定めるような、鋭く冷徹な光が宿っているのを慧は見逃さなかった。


もう一人の中心メンバーらしき女子生徒、氷川玲奈は、クールな美貌の持ち主だが、どこか人を寄せ付けない雰囲気を漂わせ、時折皮肉めいた笑みを浮かべていた。


簡単な自己紹介と、当たり障りのないアイスブレイクの謎解きが行われたが、その端々で、青葉第一のメンバーたちは、自分たちの知識や推理力を誇示するかのような言動を見せた。


それは、親睦というよりは、むしろ牽制に近いものだった。


そして、合宿のメインイベントが発表された。


それは、この広大な研修施設全体を舞台にした「廃墟ホテルと消えた宿泊客の謎」という大規模な謎解きゲームだった。


ルールはシンプル。


先に全ての謎を解き明かし、「消えた宿泊客」の行方と事件の真相を突き止めた高校の勝利。


今回は、学校対抗戦の形式が取られるという。


「では、皆さん、健闘を祈ります。もっとも、我々が勝利することは揺るぎない事実ですが」


高遠はそう言って、不敵な笑みを浮かべた。


ゲームが開始されると、ミステリー研究会の面々は、早速手分けして施設内の探索を始めた。


しかし、青葉第一のメンバーたちは、まるで答えを知っているかのように、驚くほどスムーズに次々と手がかりを発見していく。


慧たちが重要な場所にたどり着くと、必ずと言っていいほど、彼らが一足先に情報を得ているか、あるいは意味ありげな言葉を残して立ち去った後だった。


「なんかズルくない!? あの人たち、絶対何か隠してるよ! 私たちを出し抜こうとしてるんだわ!」


結衣が憤慨するが、麗華は「感情的になるのは相手の思う壺よ、桜木さん。冷静に、私たち自身の力で謎を解きましょう」と諭す。


しかし、慧は、高遠たちの行動に、単なる実力差以上の、何か別の「意図」を感じ取っていた。彼らは、このゲームのルールを熟知しているか、あるいは、このゲームそのものに、何か別の仕掛けを施しているのかもしれない。


夕食後、謎解きは第二ラウンドへと突入した。ある重要な暗号が隠されているという、研修施設の古い資料室へ向かった慧と詩織。薄暗い書架の間を慎重に進むと、奥の机の上に、それらしき封筒が置かれているのを見つけた。


「あった…!」詩織が安堵の声を上げた、その時だった。


「やあ、君たちもこの手がかりに気づいたのかい? 残念だったね、僕たちが一足早かったようだ」


背後から声をかけてきたのは、高遠だった。


彼の手には、同じような封筒が握られている。


彼は余裕の笑みを浮かべ、慧たちにそれを見せつけると、「さて、次のステップに進ませてもらうよ」と言い残し、悠然と立ち去った。


しかし、慧はその場に残された封筒――自分たちが見つけたはずの封筒――と、高遠が持っていた封筒の紙質が、微妙に異なっていることに気づいた。


そして、高遠が立ち去った方向には、彼が何か小さな紙片を慌ててポケットにねじ込むのが見えた。


(あの封筒は、本物じゃない…? そして、彼が隠したものは…?)


慧の脳裏に、確信に近い疑惑が芽生え始めていた。


この合宿は、単なる謎解きゲームではない。


青葉第一高校には、何か別の、隠された目的がある。


そしてそれは、おそらく自分たちミステリー研究会、あるいは慧自身に深く関わるものなのかもしれない。


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