ホラーナイト
「こちらが見積もりになります」
「ん? ああ、ご苦労さん……また値上がりしているのかよ……」
「申し訳ありません、こちらも値段を上げるしか……」
「お互いさまと言いたいが……はぁ……これで頼むよ」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げサインを貰った男は部屋を出ると手すりに手を掛けながら階段を下りる。顔は青白く目の下には酷い隈があり健康そうには見えない顔立ちの男は受付に会釈をすると急いで業務用の車に乗り込み二軒目の営業先へと向かおうエンジンを掛ける。
ボンッ!?
擬音にすればこの程度の爆発であったが車体はVの字に曲がり、中に乗っていた男は何が起きたのか理解が出来なかったが薄れゆく意識の中で猫耳を付けた肩から下がるバッグが目に入り、秋葉原らしいなと声にならない息を吐きながら絶命したのであった……
「ふわぁぁぁぁぁ、嫌な夢を見たな……」
夢から覚めたマコトは真っ暗な視界のなかで背中に感じる硬さに違和感を覚え力ある言葉を口にする。
「光よ」
小さな光の玉が浮かび自身が玄関で寝ている事に気が付き記憶を辿り、夕方になり作業を終え土の精霊であるキノコたちに報酬である魔力の塊りを受け渡し、家に入り靴を脱ごうとしたところで眠気に負けてそのまま横になった事を思い出す。
「ふわぁぁぁ、体はまだ十歳なんだよな。疲れ過ぎて寝ちゃうとか……天界でも剣や魔法の修行中に寝て、気が付いたら次の日とかもあったな……」
家の中にはマコトしか居らず、寝てもベッドまで運んでくれる様な人はいないのだという事に寂しさを覚えながらも靴を脱いで光球を操作しながら足を進める。
「お腹は空いてないからお風呂……も面倒臭いから浄化の光よ……これだけでもサッパリするな。寝室に行って寝直すか」
気怠さと眠気に足を進めるマコト。家の中は暗いが浮かべた光球の光を頼りに足を進め、二階の寝室に到着すると窓から差し込む月明かりに自然とそちらに誘われ足を進め満天の星空を見つめる。
「都会の空じゃ見られない光景だ……」
数えることが難しいほどの星々に圧倒されそのまま時間が過ぎ、視線を月明かりが照らし出す草原へと視線を落とす。
「げっ!? おばけとかリアルに見たの初めてだよ……」
視線のずっと先には空を飛びローブを纏った骸骨が赤いオーラを発生させ、地面には大量のスケルトンだろう魔物の姿も見て取れる。
「あれはリッチかな? 下のスケルトンたちはリッチに操られて……ん? 結界の外をまわっているのか?」
今宵は半分の月が浮かびそれほど視界が良くはないが薄っすらと発光する結界の外側を確かめるように浮遊しているリッチたちの行動に嫌な予感を覚えたマコトは部屋を移動してリッチたちの行動を確かめようと別の窓に向かう。
「やっぱりリッチだよな。それにスケルトンたちも確りとした鎧に剣や槍を装備している。このままやり過ごした方が安全だろうけど……げっ!? ロイヤ!」
マコトの視線の先ではブラッドソードを振り上げスケルトンたちに向かい走るロイヤの姿が見え慌てて玄関へと向かう。
ロイヤの奴は好戦的過ぎないかな? それにスマートゴーレムは物理攻撃だけしかできないだろうし、持っているブラッドソードは魔剣の部類だろうけど血を吸う以外は物理攻撃だ。スケルトンは倒せてもリッチ相手に勝てる見込みはないだろ!
慌てて階段を下り急いで靴を履き外へ駆け出しステータス画面を起動してフォルダをタップし、マコトは自身が使う剣を収納から取り出し目の前に出現した片刃のダガーを手にして一気に速度を上げる。
十歳児とは思えないスピードで一気に駆け抜け視界に入ったスケルトンと立ち回るスマートゴーレムのロイヤに大声を上げながら剣に魔力を通すと白い光が溢れる。
「ロイヤ! 結界まで下がれ!」
「はっ! すぐに下がりますん!」
ブラッドソードを持った腕で大きく横に薙ぎ、後方へと下がるロイヤ。その足は軽くダメージは見て取れない。
「ホーリーアロー×10」
マコトがスケルトンの集団へ向かい白く輝く剣を振るうと小さな魔方陣から白銀に輝く十本の魔法の矢が射出され、吸い込まれるようにスケルトンたちを射抜くが盾でガードされたり鎧部分を射抜いたりするがダメージが通っていないのか倒れることはなく、リッチが杖を構え赤い光が強くなり「シールド×5」と慌ててシールドを出現させる。
≪相手は子供だ! 剣を治めろ!≫
脳内に響く大声に驚くマコト。その声が声帯のないスケルトンから発せられたのだと気が付いたときにはまわりのスケルトンたちが納刀しており、リッチも掲げていた杖を下ろし赤い光も小さなものに変わっていた。
≪小さき戦士よ。驚かせたようですまない≫
頭の中に響く声と共に頭を下げるスケルトン。他よりも一回り大きく白銀の鎧を纏い、その姿は聖騎士を思わせる清廉で高潔な雰囲気があり、他のスケルトンたちも同様に頭を下げる。
「えっと、こちらこそ申し訳ありません。ロイヤが襲い掛かったようで……」
マコトも謝罪を口にして頭を下げ手にしていたダガーを収納し、ブラッドソードを持ち身構えるロイヤへと視線を向け口を開く。
「ほら、ロイヤも謝罪。このスケルトンさんたちに敵意はないよ」
「で、ですが、アンデットですん」
「アンデットでもだよ。それに僕のホーリーアローを受けてダメージがなかったのは盾で受けたからだけじゃないよ。たぶんだけど、このスケルトンさんたちは聖属性ですよね?」
ロイヤからスケルトンたちへ視線を向けると一回り大きな聖騎士風スケルトンは笑っているのかカタカタと音を立てる。
≪小さな戦士ではなく小さな賢者であったか! 如何にも! 我らは死してなお聖属性を持つアンデットである! 聖王国、第三聖騎士独立開放部隊である!≫
胸を張り名乗りを上げる聖騎士風スケルトン。他のスケルトンたちも姿勢を正して胸を張り、リッチも地上に降り立ち同じような姿勢を取る。
「聖王国……確か西にある宗教国家ですよね。その聖騎士さんたちがアンデットになるほどの事があったのですか?」
≪うむ、我々の目的は禁呪を使い呪われた地の開放にある! まあ、かれこれ三百年は目的地に辿り着けず迷子だがな! がははははは≫
胸を反らし大声で笑う聖騎士風スケルトン。まわりのスケルトンやレイスも笑っているのか体を揺らしている。
「それは大変でしたね。お茶でも出せれ……スケルトンだと飲めないのかな?」
≪気遣い無用である! この体になってからは飲食の必要がないからな! それよりも小さき賢者よ。君はこの呪われた草原に家を建てゴーレムと暮らしているのか? 親御さんは居らぬのか?≫
「はい、僕はゴーレムのロイヤと昨日から暮らし始めました」
≪ふむ、そうなると光の柱と共に現れたのであるな……小さき賢者さまは神さまであるな!≫
頭に響く念話と共に一斉に膝を付いて頭を下げるアンデットたち。マコトは神ではないのだが、と思いながらどう話したものかと思案するのであった。
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