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冬の夜

作者: 喜多河 済

全体からみるとあまり良い出来とは言えませんが、誤字などをわかる範囲無くし、組み立てて作りました。たくさんの小説を漁っている息抜きに読んでいただければ此方も嬉しい限りでございます。

 ある少女がいた。数カ月前にかかった不治の病により、生きる希望すら失っていた。子供ながらに、自分の死すら悟っていたほどだ。少女には幼いころに父が死んでしまったため、母親しかいなかった。その母親は働きながら少女の看病をしていた。少女は悪いと感じていたため何回か母親に看病をやめるよう頼んだが、母親は優しい笑顔のままそれを拒んだ。そうして冬が来た。

 クリスマスの日。少女はいつもより容体が悪いことを感じ、早くから眠りについていた。そのため、必然的に夜は一度目覚めてしまうと、しばらくの間眠ることができなかった。そうして少女はわけもなく窓の外を眺めたりかなうことのない外で遊ぶ想像に思想をめぐらせたりしていた。少女はそうしているうちに、ベッドの隣にある窓を見て、ふと気付いた。

「サンタさんだわ。あたしのところに来てくれたんだわ…」

 少女は窓の鍵を開け、サンタクロースを中へ入れた。少女がサンタクロースを見ていると、サンタクロースはしゃべりはじめた。

「今日がクリスマス・イブの日だということは分かっているね。君は思いやりのある良い子だから、なんでも願いをかなえてあげよう」

 少女はやっと病気を治してもらえると考えとても喜んだが、急に考えを改めた。

「あたし、お母さんを休ませてほしいわ。あたしの病気が治ってもお母さんはつかれているわけだし…。だから、お母さんの所に行ってあげて……」

 サンタクロースはおどろくこともなく、少女を見つめたまま言った。

「本当にそれでいいんだね。私は戻ってこないよ」

「おねがい」

 サンタクロースは少女の目の前から消えた。

 母親の寝室。母親はつかれきった顔をして寝ていた。そこへサンタクロースが現れ、母親は起き上がった。

「だれなの」

「私はサンタクロースです。あなたを休ませてあげようと思いまして…。あなたのお子さんに頼まれたことです……」

 母親はその言葉を聞いてからしばらく涙を流していたが、やがて顔を上げて言った。

「あの子は何て優しい子なの…。でも、私が休むことはできないわ。やっぱり、あの子に治ってもらえば気が楽だわ。そうしてちょうだい」

「本当に、それでいいんですね」

「ええ」

 サンタクロースは母親の前から姿を消した。母親はふたたびふとんの中へ入る。

 サンタクロースは少女の寝室に行く。しかし、少女はついさっき死んでしまっていた。ベッドの上には冷たくなった少女のからだが置いてあるだけだった。

「私は何でもかなえられるといっても、死んだ人を生き返らせることはできない…」

 サンタクロースは悲しそうな顔をして、家の前に置くてあるそりに乗りこんだ。すると、そりはトナカイに引きずられて走り出す。サンタクロースは自分の家がある場所へ向かいながらつぶやく。

「今年はなにもできなかった。あの母子の所にしか行かなかったからな…」

 サンタクロースは上空から少女たちの家を見下ろす。

「少女は泣きながら死んでいた。からだと涙がつめたくなったとしても、母子の愛はあたたかく、かたいということか。哀しい話だ……」

 サンタクロースがつぶやく横を、一粒の白いものが降りていった。

「雪か…」

 次第に強まってゆく雪に向かってサンタクロースは進んでゆき、少女の家の窓に一粒の雪が映った頃、やさしさに満ちたそりと、老人のシルエットは冬の夜空の中へと消えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 素敵な内容ですね。感動しました。 親子の愛、それはこの世で何よりも温かくて幸せなものだと思います。 少女が亡くなったと母親が知ったとき、どんなに悲しむんでしょう・・・ それを思うとかわ…
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