異世界転生をしない引きこもりの話
「え、と、富田様のご子息様をいかように思われるか?
それは、職歴無しの初老、労働市場では無価値ですわ」
「な、なんですって!ネットではこんなに応援してくれているのよ!勇気をもらって来たのに
ほら、私はドコデモのスマホ教室に通っているのよ!」
「でしたら、応援して下さる方に更生をお願いしてみたら如何ですか?」
「まあーーーー!」
な、何ですの?聞かれたから、本心を言ったら激怒しましたわ。
今日、引きこもりのお母様がやってきて、更生の手助けをお願いされたから断りましたの。かなりの高齢の方ですから、息子様も50代かしら。
ここは株式会社西園寺商事、地元同族企業ですわ。不動産。土木、建築業をしておりますの。私は会長の孫娘、お嬢様ですわ。この西園寺商事の主任を任されておりますの。
聖女市に来ることがありましたら宜しくお願いしますわ。
弊社の家を買って下さるお客様の相談に乗っておりましたら、いつの間にかにニート更生請負人という不名誉な噂が流れましたわ。
引っ越しを機会にニートや引きこもりと縁を切りたいお客様の手助けをしましたの。
貧困ビジネスはやっておりませんわ。
提携する派遣会社へ斡旋、弊社グループのたこ部屋に収容、どうしようもなかったら生きていけそうな場所に放流をしますの。
「宅ちゃんは中央地区のあの中央高校出身よ!知っているでしょう。進学校よ!受験戦争時代の子よ。可哀想に大学受験失敗したの、少子化の今とは違うのだからね!」
「はあ」
「パソコンが出来るのよ!」
「へえ・・・・」
「家を買わなければ手助けしないって、結局、金なのね?」
「はい・・株式会社ですから・・〇〇党か△△党の議員に相談してみたらどうですか?」
「ヒドい。富田家は自治会長を歴任した家柄よ!〇〇〇〇党の議員の秘書様の名刺を持っているわ!口コミは☆1にします!」
「どうぞ」
「いいの?!」
まあ、田舎企業の口コミなんて良い方が珍しい。気にしないわ。飲食店だったら別だわ。
看板が怪しいなんて苦情があった。
猫が高い木に登って降りられなくなっていると通報したのに。助けに来なかった。
とか理不尽な書き込みがありますわ。
重機動かすのにいくら掛かると思っているのかしら。貴方が出してくれるのかしら?可哀想だけど行政の仕事じゃないのかしら。
ラチが明かないわね。
どうしたら良いかしら。あら、西田ちゃん来てくれたわ。
私の部下でお嫁さんにしたい子ナンバーワンになりそうな癒やし系ですの。
「お茶のおわかりは如何ですか?外は寒いです。熱くしておきました。帰る前に体を温めて下さい。どうぞ」
「お茶なんて・・まあ、有難う」
西田ちゃんは地元のコネで採用しましたの。人事、経理、総務、いろいろやって頂いておりますの。
「気をつけてお帰り下さい」
「ありがとうね」
やっと帰ったわ。
・・・・・・・
「主任、もう少し柔らかく言ったらどうですか?」
「・・・え、私、丁寧に言いましたわ」
「ダメですよ。あのお婆さん。ネットを始めたようですから・・ネットでは引きこもりは恥ずかしい事ではないという風潮がある地帯があります」
「ええーーー」
「私も最近知ってビックリしました。私、ネット小説を書いています」
「知っているわ」
この会社って、ニートがらみの物件とか扱うじゃないですか?
それを基にした小説が書けないかと、いつもお世話になっている創作関連のSNSで相談をしました。
そしたら・・・・
>ニート絡みの事件を〇チャンネル風のざまぁ物で投稿しようと考えています。ニートが働かざる得ない状況に追い込まれます。需要はありますか?
ネット小説と一般の小説は好みが違うのです。
例えばハーレクインで流行っているプロットがネット小説ではウケない。
とかの例がありましたから。
そしたら、しばらくシーンとなって、書き込みが来ました。
>はあ、そんなの誰も読みたくないよ。少なくても私は読みません。
>〇〇〇〇を知らない?コミカライズ化、アニメ化までされている。それを肌で知れば?まあ、やってみれば?大爆死確定草生える。
>それ、差別だよ。
「え、また、〇〇〇〇?この前のニートも言っていたわね。ニートが異世界でヒーローになる話でしょう。何故、それを持ち出すの?」
「主任、私も意味分かりませんでした。
そう言えば、なろうではニートが異世界でヒーローになる話が多いですね。死んでから行きます。この世がよほど辛いかもしれませんね」
それで調べたのです。主任と同じ方法を採るニート更生塾みたいなものはないかと探したら、ありました。ほぼ同じ手法を使う塾が。
主任は働かざるを得ない、学校に行かざる得ない状況をつくりますね」
「ええ、ただ職を斡旋しているだけですわ」
「まあ、そこを置いておいて、その塾は数十万円で全国対応、基本メールで親の手助けをするみたいですね。そこの書き込み荒れているのです」
>そんな方法を採ったら病気になります!私の毒親と同じね!
>あのね。ニートを扱ったドキュメンタリーを見た・・ニートになるにも辛い理由があるんだよ!
「この二つの意見でしたね。
病気になるとか未来の可能性を言っても・・、また、現在、病気だったら別の問題です」
「ドキュメンタリーって・・・テレビを信じている者がおりますの?」
「いるみたいですね・・・」
「しかし、わずかに感謝する書き込みがありました」
>助かりました。有難うございます。
「親御さんでしょう。その声は小さいのです。会社の宣伝の可能性もありますが、それにしては少ないのです。
その塾は大手動画配信サイトで相談の回答を発信しているから叩かれているのです。結構続いています。
主任の立場はそれに近いと思います。非難しているのはこの問題とは全く関係のない第三者か、ニート当人かもしれませんね」
「有難うね。嫌なことは仕事で忘れるわ。何か良い競売物件ないかしら・・・」
「探してみます」
・・・・・・・
この話はこれで終わりと思いましたの。
でも、しばらくしたら、あのBBAが来ましたわ!
上機嫌ですわ。不気味ですわ。
「ごめんください。口コミ☆5にしましたわ」
「それはどうも。西田ちゃん。お茶をお願い。今日は何のご用ですか?」
「どうぞ。お茶とお茶菓子を持ってきました」
「まあ、有難う。貴方西地区の西田さんよね。家は農業?」
「お爺ちゃんがしています。私は休みの日に手伝う程度です」
「まあーーー、素敵なお嬢さんね。スーツを着て形だけのビジネスウーマンとは違うは、芯がしっかりしているのね」
あら、私への嫌みかしら。
目的はすぐに分かりましたわ。西田ちゃんね。息子の嫁にしようとする腹かしら。
私は西田ちゃんに符号を出しましたの。西田さんは可愛いお嬢さんですの。不埒な客がたまに来ますのよ。
厄介な客が来た時は、西田ちゃんに偽の用事を言いつけますの。意味は奥に隠れていなさいですわ。
「西田ちゃん。奥で登記簿謄本の乙区の権利関係、表にしてくれないかしら。あの厄介な案件よ」
「はい」
「まあ、厄介な案件があるのかしら・・西田さん。大丈夫かしらね」
「ところで富田様、どのようなご用件で?」
「はあ、あの娘に対応してもらいたいわ。代わって」
「主任は私ですの」
多分、買わない客だわ。でも、一応、話は聞きますの。
「建替えを考えています。二世帯住宅が良いかしら・・・」
「はい、対応しております」
「でも、伝統ある富田家の本家を壊すなんてね。西田さんはどう思う?呼んで来てくれないかしら」
「忙しいですわ!」
それから日を空けずに来ますの。
西田ちゃんに話しかけますの。
「見て、見て!スマホで我家の写真を撮りましたわ。大きすぎてお掃除が大変で・・誰か助けてくれる方いないかな」
チラッ!
と西田ちゃんを見やがりましたわ。
「大変ですね。祖父から聞いたのですが、そういった家は老人会で助け合っているみたいですね。他人に掃除を頼むと金品盗難のリスクがあります」
「そ、そうね。老人会ね」
・・・・
「西田ちゃん。しばらく、西園寺建築の事務所に行きなさい。出向よ」
「はい、分かりました」
西田ちゃんをお茶くみから外して、私が直々にお茶をいれるようになりましたの。
「あら、あの娘はいないの?」
「いませんの」
「だから、お茶ぬるくなったのね」
冷たく対応してもやって来ますの。
明らかに西田ちゃんを探しているようだわ。
でも、無視よ。
「西田さんは?」
「無関係の方に言えませの」
西田ちゃんには彼氏がいて、休みを取って旅行しているとか嘘を言ったら、田舎だからどんな噂が広がるかわかりませんの。
戦略的無視が上策よ。
ついに、
BBAが息子を連れてきましたわ。
何?ジャージ。太っているわね。顔の肉が垂れている。多分、50は超えているかしら。
「今日は何のご相談ですか?」
「ほら、宅君!」
ボソッと母親に急かされて口を開きましたわ。
「俺・・・働いてもいい。事務なら出来る」
「そうね。西田さんに教えてもらいなさい」
ブチンとキレましたわ。
『働いてもいい』って・・・
「ここでは募集はしておりませんの!」
「でも、看板では常時募集と書かれているわ」
「それは職人さんとかの募集ですわ。別のグループ会社ですわ。今、お茶をお持ちしますね」
京都人っぽい手法を使いましたわ。湯飲みにお茶の葉を入れているだけですの。
「何これ!お茶の葉だけじゃない」
「・・・・」
「いつも、お茶の温度にご不満のようですからご自分で入れて下さいませ。お湯は給湯室にございますの」
BBAは激怒しましたわ。
「こんな会社信じられないわ!富田家の長男が来ているのよ!」
「不採用ですわ!」
「みてらっしゃい。〇〇〇〇党の先生に注意してもらいますわ」
田舎業界、『この人を知っている』と言う者に、本当に懇意な者はいない。
でも、一応、私のお祖父様に連絡して、圧力をかけましたの。
どんな圧力ですかって?
正統な商取引よ。
田舎者は権威に弱い。議員が乗りそうな黒塗りの高級車で富田さんの家に迎えに行ったそうよ。
西園寺グループの本社に富田様を呼び出していろいろ提案をしてあげたみたいですの。
本社の事務所は祭りで使う提灯をいっぱい飾ってありますわ。お祖父様の趣味ですの。ミロのビーナスのレプリカの彫刻も飾ってありますわ。
以下は聞いた内容よ。
「富田さん。畑、遊休地だべ?息子も百姓をやらないんだったら、売れ。農業をしたがる都会者とかにやらせた方が土地も幸せだべ。お国のためにもなるっつうもんだ」
「ヒィ・・」
「知っているべ。旦那さんが亡くなった時から耕してないべ。しかも相続登記もしてねえ。登録免許税もはらえないんだっぺ?それ、うちが出してやるからよ」
「か、考えておきます」
「セガレなら、土木の手元作業でとってやるべ。話通してやる」
「いえ、大丈夫です・・」
「まともに職に応募してもどこもとらんぞ。アンタ死んだらどうなるね。年金はとまるぞ」
それから、富田様は来なくなりましたわ。
西田ちゃんを呼び戻しましたの。
「ふう、やっぱり、西田ちゃんがいると和むわ」
「主任、有難うございます」
私、西田京子は迷っている。
この話の結末は・・・外回りの営業の岩城さんが教えてくれた。
「おい、お嬢、西田ちゃん。繁華街で、富田さんとこの息子見たぞ。外国人パブの前だ」
「まあ、岩城さん。奥さんがいるのに、お姉ちゃんのいる店に行ったのかしら」
「違う。店の前だぜ。外国人の姉ちゃんに・・」
『NO MONE!GO HOME!』
と言われて。
『結局、金かよーーー』
と叫んでいたぜ。
出禁になったみたいだ。
「まあ、親子、似ているわね。私も『結局、金なのね』と言われたわ」
「まあ、そうだろな。世の中9割は金だ。自分の家族でやっと損得勘定無しでって感じかな。西田ちゃんはどう思う?」
「私は・・・」
・・・・現実は非常なのかもしれない。ニート、引きこもりが異世界ではなくて、現世でヒーローになるのは大海で落としたコインを探すくらい難しいのかもしれない。
だからこそ、希望の小説が必要なのかもと思う
しかし、それを書くのは私の役割ではないなと思う今日この頃だ。
最後までお読み頂き有難うございました。