蓮娘との再会
わたしの目の前に立っていたのは、美しく、垢抜けた蓮娘だった。衣服や些細な仕草から人は、その生活の変化を感じさせるものだ。初めは声色、次にその様貌の全てから、わたしは蓮娘の身の上の変化を悟った。蓮娘は、遊女であることを辞めていた。
「随分と出世したみたいじゃないか」 とわたしは言った。
「せめて、この一杯をご馳走して欲しいものだな」
変に嫌味な物言いになっていたわたしだった。
蓮娘は答えた。
「わたしとしては、良いのだけれど。旦那さまに怒られやしないか心配だわ。どこをほっつき周っていたのか、って旦那さまったら、すぐに気に病んでしまうの。身請けしてもらったばかりだし、我儘ばかり言えないわ」
蓮娘は、すっかり良妻といった感じだ。
わたしは、蓮娘を向かいに腰かけさせて、話を聴いた。蓮娘は、富商の田氏に身請けされていたのだ。田氏は、かねてから蓮娘に熱を上げていたわけだが、蓮娘としては、呂氏の存在がどこまでも気がかりだった。しかし、呂氏が何も言わずに姿を消した以上は、田氏の求婚を退ける理由はなくなったのである。
蓮娘は、呂氏の不義理を随分と責め立てたが、その表情には、恨みのような感情は一切なく、幸せそうだった。蓮娘らしい表情が戻ったのだ、とわたしは私かに嬉しく思った。
わたしは一つ訊ねた。
「お前のねえさんは元気なのか? 不義理をしてはいけないだろう」
蓮娘は言った。
「とっても元気よ。今でも手紙のやり取りをしてるもの。けれども、お分かれの日はひどく泣いていたわ。ねえさんが、あんなに泣く人だって、わたし初めて知ったのよ」
「お前は、いろいろな人に愛されているのだ。それに値する人間だと、わたしは思うよ」
蓮娘は、恥ずかしそうな笑顔で応えた。
わたし達は、しばらく話しをした。蓮娘は、身の上について語ったが、その言葉のほとんどは何か彼女にとって大切なものの雰囲気に包まれていた。蓮娘が時間を気にするようになってから、何か思い出したように言った。
「わたし、すっかり忘れてた。貴女に渡さなくちゃいけないものがあるんだった」
蓮娘は、席を立った。




