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少しの後日

 長安の春は、何事もなかったかのように落ち着きを取り戻した。翌日には、わたし達は熱狂から目を覚まし、割れた観灯の破片を黙々と片付ける人の姿が、あちらこちらで見られた。


 わたしは、このような人間の心理に興味を抱いた。また、皇帝には、十分すぎるほどの威厳が、まだ天下には瀰漫しているのだと知った。


 新年の騒動から一ヶ月ほどが過ぎたころだった。河朔での叛乱は、皇帝が自らの悪政を詫びる、との形で収まった。長安の人びとは、その事実に努めて触れまいとしつつ、賊軍の帰順を歓迎した。


 数日間、長安には言い様のない安堵感と高揚感がもたらされた。わたしは、それが熱狂とは言えない、どこか冷めた感じがするのを理解した。


 ところで、わたしの散歩はというと、本当に行き先をなくしていた。『傾城之恋』と題する小説を脱稿したばかりだというのに、このことを伝える友人もいなければ、相談する師もいない。気が付けば、多くの友人が墓の下に行っていた。わたしは、身も心も老いの端緒を知り始めた。女の身体は、この端緒にあって、性への不思議な高まりを覚えるのだから、いよいよ理解ができない。


 わたしは、かつてある青年と淫猥な舞台劇を見に行った日のことを思い出した。彼はわたしの駄文を愛した不良青年の一人、と言って差し支えないのだと思う。もし彼が戦乱の後の今も生きていて、『傾城之恋』を読んだのなら、何と感想を述べたのだろうか。あの日のように顔を赤らめながらも、きっと真面目な意見をしてくれるはずだ。


 わたしは、青年とよく酒を飲んだ店に行き、席に着いた。わたしは特別に酒を好む人間ではないし、一人で飲むことは多くない。思い出の中の青年と相席するつもりで行ったのである。


 店で飲んでいると、何人もの通客に声をかけられたものだ。

 ――お兄さん、詩をやるのか?

 ――名前なら知っているよ、讃を書いてはくれないか?

 このようなやり取りを何度もした。


 わたしは、酒を飲みながら、過去を相手にし、過去を肴にしていた。李白の「月下独酌」の気分とは、このようなものだろうか。


 その日のわたしにかけられた声は、「あら、お姉さん、お久しぶり」 という、すでに懐かしく可愛いらしいものだった。

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