十二、『傾城の恋』
話し合いをすることなど最初からなかったのだ、と張元は思わされた。
崔月娘は、落涙する張元の手を取り、身を抱き寄せた。
崔月娘が、張元に口唇を重ねると、張元はこれに応じた。悲哀とは、ときに情愛を止みがたく高めるものだ。二人の交接は、いつしか涙以上に、息を荒くするものを含んでいた。
力を失くした張元を、崔月娘は押し倒した。
「わたしの最後の願いなのです。ご無礼をお許しください」
張元は、肯首した。
二人は、身体をぴったり押し当てたまま、長い口付けを交わした。崔月娘は、髪をかけて、より深くまで舌を挿し込んだ。張元は、崔月娘が情愛に不慣れであることを、間もなく悟った。口付けの際に、何度も歯がぶつかったし、舌先は行き先をどこへでも求めた。この不器用な情熱が、張元をいっそう寂しくさせた。
崔月娘は、自ら肩肌を脱いで、張元の胸上に頭を置いた。張元は、髪を撫で、そこにも口付けを与えた。
室外から兵士の咳ばらいがした。
崔月娘は、ゆっくりと身を起こした。張元の表情をじっと見つめると、次のような歌を詠んだ。
瘦せ衰えて見る影もない貴方は、
これから何度寝返りを打つ夜を過ごす。
わたしは他人に恥じて答えないのではない。
貴方ゆえに憔悴し、貴方ゆえに答えられない。
これ以後、二人が再開することは決してないのだろう。張元は、席を立つ際に、別れの言葉を告げなければならなかった。
捨てられた身では、今や何も述べない。
この恋は、弱いわたしの意志だった。
貴女はその優しい心によって、
どうか貴女を大切にしなければならない。
崔月娘は、「ありがとう」 とだけ答えた。
こうして二人の消息は絶えた。
張元の友人たちは、彼がよく過ちを償ったと評価した。当時の集いの席で、この話題に及んだのは、張元を知る者が、一時の恋に惑わず、感情に溺れることがなかった、と考えられたからである。
間もなく反乱は鎮圧され、その後、李公垂という人物が、この話を題材にした『傾城之賦』という詩文を成した。わたしは、この李公垂とは、かねてからの友人であった。彼の詩文に感銘を受けたわたしが、この文章を残した次第である。わたしは、張元と直接面会したことはない。しかし、彼のような人物は、称賛されるべきであると、わたしは思った。
わたしは、ここで『傾城の恋』という小文の筆を擱いた。




