表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/81

十二、『傾城の恋』

 話し合いをすることなど最初からなかったのだ、と張元は思わされた。


 崔月娘は、落涙する張元の手を取り、身を抱き寄せた。


 崔月娘が、張元に口唇を重ねると、張元はこれに応じた。悲哀とは、ときに情愛を止みがたく高めるものだ。二人の交接は、いつしか涙以上に、息を荒くするものを含んでいた。


 力を失くした張元を、崔月娘は押し倒した。


 「わたしの最後の願いなのです。ご無礼をお許しください」


 張元は、肯首した。


 二人は、身体をぴったり押し当てたまま、長い口付けを交わした。崔月娘は、髪をかけて、より深くまで舌を挿し込んだ。張元は、崔月娘が情愛に不慣れであることを、間もなく悟った。口付けの際に、何度も歯がぶつかったし、舌先は行き先をどこへでも求めた。この不器用な情熱が、張元をいっそう寂しくさせた。


 崔月娘は、自ら肩肌を脱いで、張元の胸上に頭を置いた。張元は、髪を撫で、そこにも口付けを与えた。


 室外から兵士の咳ばらいがした。


 崔月娘は、ゆっくりと身を起こした。張元の表情をじっと見つめると、次のような歌を詠んだ。


  瘦せ衰えて見る影もない貴方は、

  これから何度寝返りを打つ夜を過ごす。

  わたしは他人に恥じて答えないのではない。

  貴方ゆえに憔悴し、貴方ゆえに答えられない。


 これ以後、二人が再開することは決してないのだろう。張元は、席を立つ際に、別れの言葉を告げなければならなかった。


  捨てられた身では、今や何も述べない。

  この恋は、弱いわたしの意志だった。

  貴女はその優しい心によって、

  どうか貴女を大切にしなければならない。


 崔月娘は、「ありがとう」 とだけ答えた。


 こうして二人の消息は絶えた。


 張元の友人たちは、彼がよく過ちを償ったと評価した。当時の集いの席で、この話題に及んだのは、張元を知る者が、一時の恋に惑わず、感情に溺れることがなかった、と考えられたからである。


 間もなく反乱は鎮圧され、その後、李公垂という人物が、この話を題材にした『傾城之賦』という詩文を成した。わたしは、この李公垂とは、かねてからの友人であった。彼の詩文に感銘を受けたわたしが、この文章を残した次第である。わたしは、張元と直接面会したことはない。しかし、彼のような人物は、称賛されるべきであると、わたしは思った。


 わたしは、ここで『傾城の恋』という小文の筆を擱いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ