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十一、『傾城の恋』

 蒲州での軍乱を知った張元は、すぐに旅支度をした。


 長安から蒲州までは、この広い天下では、決して遠いとは言えなかった。張元の心が急くばかりなのだ。


 蒲州軍の将校とは、以前から親しくしていた張元だった。蒲州に到着してすぐに張元は、将校との面会を求めた。回答は、謝絶だった。すでに事態は退くことのできないものになっている。そのような回答であった。


 張元は、普救寺へと向かった。以前、一宿を求めた張元が、崔氏一家を出会った寺である。


 張元が普救寺に到着したとき、辺りはすでに暗くなっていた。


 張元は、門前の兵士に、寺内に入れてもらえないかを頼んだ。許されないと分かっていたが、何度も食い下がった。


 騒動を聞きつけて、境内の奥から紅児が姿を見せた。張元は、紅児のとりなしで、崔月娘との短い時間の会見が認められた。


 張元が落ち着かずに室内で待っていると、やがて戦装束に身を包んだ崔月娘が現れた。


 張元は、驚きのあまり言葉が出なかった。


 崔月娘は、張元の先に座して言った。


 「これはわたしの覚悟なのです。ご無礼をお許しください」


 張元は言った。


 「一家のためなのですか? 女性である貴女が武器を手にするほど、状況は逼迫しているのですか?」


 「見ての通りです」 と崔月娘は答えた。


 「この反乱に大義はあるのですか?」 と張元は続けた。

 「崔家は、武家ではありません。なぜそこまで反乱に協力するのですか?」


 崔月娘は、ややあって答えた。


 「大義では、生きていくことはできません。わたしには、母と弟を守り、一家を救う義務があるのです。もし我が家が、反乱軍への協力を拒否したのなら、何が起こるか、貴方はお考えになったのですか?」


 張元は、返答の仕様がなかった。


 崔月娘は言った。


 「およそ天が女に与える運命とは、自身に災いを及ぼさなければ、必ず他人を災難に陥し入れるものだ、と申します。他人を恨んで蛇身と化したり、狐のような妖術を身に着けたりする女がおります。女は、蛇や狐にはなれても、龍や天女となることはできません。わたしは、このことをよく理解しております。かつて殷の紂王や周の幽王は、百万の国を地盤として、勢力は盛んでした。それを破壊し、民を苦しめたのは、女でした。貴方はこれ以上、わたしと親しくするべきではありません。今すぐ蒲州から立ち去るべきなのです」


 張元は、泣いてばかりだった。

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