落ち着きを求めて
「ひどい有り様だ」 と梅玲は言った。
「王宮の兵士が、市井の人びとに弓矢をかけるとは」
兵士たちは、復讐に燃えているようだ。暴徒たちは、行き場を失い、跳ね上がった。声を上げながら、無数の頭が揺れた。次々と倒れて行く身体の中を、弓矢が風を立てた。
わたし達は、血溜まりを去けて、道の反対へ移動した。梅玲は、群衆の中から、誰かを捜そうとした。通りすぎた小路の先では、倒れた馬の大きな首の横で、人の身体が転がりながら悶えていた。
北の河面から吹く風が、わたし達が行くのを拒むように抜けた。わたしは、すでに死と音響に馴れ始めていた。どこか無感動になって行く心を眺めながら、北西の寺社が集まる区劃へと、わたしは進んでいた。
街路の上から人びとが少なくなると、長安の衰退しつつある姿が、目の前に現れ始めた。夜闇の中に、観灯の僅かな光ばかりで、その姿を見せる寺社の様相は、寂れきった印象をわたしに伝えた。あのような惨状を見てきたばかりのわたし達にとって、神仏の救済などが果たしてあり得るのか、理解できなくなる。今日ある者は死に、ある者は生きながらえた。生きながらえた者は、幸運を手にしたのだろうか。死んだ者は、不幸であったから運命に従わなければならなかったのだろうか。わたしは、そのような理不尽を認めたくはなかった。
わたし達は、落ち着きを求めて西へ進んだ。道中、わたしは一度吐いていた。梅玲は、休息のために近くの寺社を選んだ。わたしは、荒れた井戸から水を汲んで、口を濯いだ。梅玲も、同様にした。わたし達には、確かに休息が必要だった。それから、わたし達は何も話さず、数分息をついた。
わたし達が、寺社境内から出ようとしたとき、寺社の壁に目がけて弓矢が撃ち込まれた。欠けた壁の一部が、石に落剥して物音を立てた。壁は白い粉を噴き出し、穴を空けられていた。




