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騎馬隊と暴徒

 事切れた男の正体は、しがない偸盗であると、わたしは想像した。火災の際に、空き巣になった家に入り込むのは、常套の手口である。おそらくそこを兵士に目撃され、追跡されたのだろう。


 もし人びとの心が、言い様のない不安に支配されていなければ、わたしと同じ推測を行ったに間違いない。


 梅玲は、わたしの腕をつかむと、急ぎ足で進んだ。なるべく雑踏のなかを行き、北西を目指した。今頃の呂氏は、この混乱をどのように眺めているのだろうか。付近の建物の中で、選ぶべき行動について計画しているのだろうか。長安の春は、やがて衰微しつつある。なお王朝が持続するのなら、いくつかの出来事をきっかけにして、栄光の影は遠い記録として残されて行くのだろう。わたしは自分の思考が、全く自分にとって役に立たないことばかりを続けていることに気が付いていた。


 血と煙の匂いが溶け込む夜の街角に、わたしは何かを期待した。わたしは一点を見つめたまま、水たまりを泳ぐ魚のように街中を回游していた。呂氏に再会したところで、話すべきことなど何もない。わたしが期待すべきものは、実はどこにもないのだ。この愚かな女の心は、男が自分を捜しに来るだろうと想像したがっていた。女はただ足を動かすと、自身の心をつよく締めつけた。


 前方の混雑した街路を、王宮の騎馬隊が駆けて来た。彼らはいくつかに散会した。間もなく烈しい物音と悲鳴とが連続した。馬は暴徒を蹴散らし、賊徒を制圧した。東の小路から馬のいななく声が聴こえた。馬は緩やかに地に倒れた。投げ出された騎手の上を飛び越して、もう他の騎馬が姿を見せた。暴徒は倒れた馬を踏み越えて前進した。


 「胡人を差し出せ!」 と暴徒は叫んでいた。


 兵士と暴徒が衝突し、こちらの大路にも騒乱が拡がった。暴徒は南の露地からも溢れ出し、喚声を上げた。雨のような礫が、馬群を目がけて降り注いだ。馬は押し出る暴徒を蹴りつけ、踏みつけ、血と煙の上に立っていた。


 応援に来た兵士を合わせても、騎馬隊は数で暴徒に押された。騎馬隊が退却し始めると、暴徒は道上いっぱいに詰まりながら、うろたえた騎馬隊の真似をしてはしゃいだ。その後ろには、馬の死肉を切り分ける貧者の姿があった。


 騒乱の周囲には、物々しい気配が漂い始めた。「打て!」 という声が響くと、暴徒たちは一人ひとりもがくように苦しみ出した。弓から放たれた矢は、早春の冷たい空気を裂いて、高鳴る音の死をもたらした。

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