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夜道を歩いて

 観灯会の夜は、花樹と評される。景色を目にした人びとは、その華麗さを称賛するのだ。雲南の山間には、月光を浴びて、自ら光輝く茸子や樹木があると聞く。河辺には、蒼白く明滅する虫がいるという。まこと遊仙の境界というべきだ。観灯会の夜、街中を歩めば、劣らない景色を見ることができる。


 今宵は、一年の中で、坊門の閉められない貴重な一日である。種々の動物を象った灯籠は、和らかな光を放って、人びとの顔を薄く照らしている。天ノ川の中を行くような、不思議な心持ちがする。


 かつて玄宗は、宮女を引き連れて、隠密に観光したと伝えられている。側らには、好物のライチを食む楊貴妃の姿があったという。


 わたしは、一人で南北を通じる大路を進んだ。路傍には、温めた酒や茶を売る店主が並んでいた。積み上げられた木箱の上で、労働者たちが明るい声を上げた。鈍重な人波に流されて、わたしは長安の街をひたすら南へ進んだ。目的はないのだから、かえって愉快だった。


 道中、一人の物乞いに話かけられた。


 「ほんの僅かで良いんです、旦那」


 わたしは士太夫然とした態度で答えた。


 「大した持ち合わせはないのだ。炒豆が五粒ほどある。もう金はないと見えるな」


 「お金もないし、お国もありません」


 「それは困ったな」 とわたしは言った。

 「考えただけで苦しくなる」


 わたしはそれ以上、男に恵むことはなかった。


 大唐帝国は、年を経るごとに領土を減らしているのだ。目の前に広がる幻想的な景色を眺めながら、わたしの心は現実へと引き戻された。このような景色や文化に、一体どれほどの価値があるのだろうか。全ては一炊の夢のうちに、水泡に帰してしまうような気がする。ある隠者は、孔子を"愚かな狂人"だと言った。孔子の努力は、何もかもが無意味なものの上にあるのだ。この社会も、生命も、自然すらも永遠ではない。孔子の行動が、世界に何を成し、残し得るのだろうか。女の身のわたしには、分かるはずもない。


 揺れる柳木の隙間から、斑模を作った灯籠の光が、私娼たちの表情を浮かび上がらせた。その模様の中で、ひと流れの空気が朦朧と動き出したような気がした。


 南門の先から、三騎の兵馬が北へ向かって駆けて行った。その後、しばらくして一人の男が走ってきて、叫んだ。


 「反乱だ、反乱が起こったんだ! 河朔の節度使が兵を挙げたぞ」

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