観灯会の日
観灯会は、十五日の昼から賑わいを見せた。異国の姿をした楽団が街頭を行き、彼らの音色に合わせて、胡旋舞や花舞が披露される。酒肆に卸された葡萄酒を口にするのは、何年ぶりのことだったか。わたしは酒杯を片手に城内を歩き、見物した。
年末には、殺気ばしる忙しさがあった大通りも、今日には、正月遊びに人びとが興じていた。綱引きに大笑いをし、青竹に火を着けて鳴らした。馬よりも駱駝に乗る軽商人の数が目についた。安史の乱以前の大唐帝国の繁栄が、ここに出現しているかのように思われた。
わたしは歩き疲れると、馴染みの茶屋で、正月の団子汁を頼んだ。餅の中の餡を、ずいぶん甘くしてもらった。わたしは、それを平らげると、酒と人とに酔いながら、茶屋の席に居座った。卓子に肘をついて、体格の良い女が、大きな態度で座っているのだから、店の売上には迷惑だったかも知れない。それに文句を言わないのが、この店と主人の良いところだ。
わたしは、半ば眠りかけていたのだと思う。主人が、わたしに話しかけていた。
「北里の方は、見に行かれたか?」
わたしは、数日前の呂氏に姿を見られて以来、あの辺りに近づくのを、どことなく避けていた。
「今年もかなり華やかにやっているそうだ」 と主人は続けた。
「どこの見世が、いちばんの灯籠を出せるのか、自然と勝負になっている。大きさだったり、数だったり、いずれも意地を出しているのだ。南面の街並なら見られたか?」
わたしは、自分の見聞きしたことを話した。寺院の周りには、いくつかの灯籠が並べられていたこと、人びとが酒宴に興じていたこと、綱渡りをして見せる軽業師が見物料を集めていたこと、偸盗や私娼の類いが少なくなかったことなどだ。
わたしは言った。
「わたしは、あの場所が愉快で好きだ。人の性質も素直だ。しかし、財産や地位のある人間が近づくべき場所ではないな。特に今日のところは」
主人は、「そうか」 と答えた。何にも是非を決しない態度が、わたしにとって居心地が良かった。
日が落ちてきて、灯火の着きはじめる頃合いになった。わたしは、代金を多めに置いて、席を立った。
「楽しんで」 と主人は言った。
観灯会の日は、これからが本番なのだ。




