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告げる声

 呂氏の贈答品が、相当に高価なものであることは、一目で理解できた。衣の輝きや、染色の工合を見れば、女でなくとも誰にでも分かる。


 蓮娘は、すっかり有頂天になった。


 「わたし、すぐに着替えてくるから! だから、必ずここで待っててね。絶対だから!」


 蓮娘は、そう言い残して、階梯を駆け上がって行った。


 わたしと呂氏は、その場に置かれる形になった。男は炭櫃で手をあぶりながら、格子窓の外を眺めた。表情は、わざとらしいくらいに明るい。わたしは、何となしに気詰まりに感じていた。


 あの夜、呂氏が景色を遠く見つめながらつぶやいた例の言葉に、わたしの裡にある感傷的な心は、いっそう切なくなった。今は愁嘆場を避けるために、重ねてその顔を見ないに越したことはない。余計な言葉を交わさない限り、わたし達はそれほどに深い悲しみと失望とを、まだ胸に響かせずとも済むだろう。


 わたし達は、互いにその本名も、その生立ちも、問われないままに、打ち明ける機会に逢わなかった。あるいは、全てを知ってしまったのなら、わたし達の関係は直ちに破綻してしまうかも知れない。あるいは、何だ、その程度のことか、と言い合って、ごく些細な変化さえも生まれないかも知れない。あの年末の一夜あたりが、それとなくこれまでの間柄に別れを告げる瀬戸際で、これ以上の先を越えてしまったのなら、取り返しのつかない悲しみを見なければならないというような予感が、会わない日数をかけるにつれて、強くなって行くのだった。


 新春の遊楼は、活気と賑わいに満ちている。客人と遊女たちの笑い叫ぶ声や、厨屋からの食器の鳴る音とで、満ちあふれている。人は賑わいの中でこそ、孤独を感じるものだ。周囲に人の気配がするほどに、わたしがいかに一人きりの思いを抱く人間であるかを理解できる。


 呂氏は、格子窓の先に広がる世間というものを、ぼんやりと眺めている様子だ。わたしは、ふとわたしという者について話し始めようかと思った。ごくさり気ない調子で、何の感傷でもなく、蓮娘が帰ってくるまでの間だけ、ただ語って見せるのだ。そのとき、声がわたしに言った。


 「お前、三日後に、少し早くに来てくれないか」


 わたしにそう告げていたのは、例の悲愴な男だった。

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