一、『傾城の恋』
『傾城之恋』と題する小説の腹案ができた。伝奇小説の多くは、史書の列伝から形式を借りて書かれるが、恋愛の道というのは男女が伴にあって成立するものである。どちらかに作者が肩入れするのは、相応しくないだろう。
物語の男主人公を張元という。性格は温和で、容姿も優れている。志は堅く、非礼な場に近づかない。
友人と遊宴に参加することがあっても、張元だけは落ち着いて、静かな様子で、最後まで身を崩すような振舞いには及ばない。
二十三歳になるまで、女性の色香を遠ざけ生きてきた。友人にそのことをなじられても、張元は次のように応じた。
「わたしは淫蕩ではない。真の色好みなのだ。いまだ目に適う女性に出会えていないだけで、情を忘れた人物ではないのだ」
なじる者は、張元の威儀と弁舌に納得した。
ほどなくして張元は、蒲州へと旅に出る。蒲州の東方十里余りに、普救寺という僧舎があり、張元は宿を取った。
たまたま崔氏の未亡人が、長安への帰路にあって、蒲州を通ることになり、この寺に宿泊していた。
彼女は、春秋時代の旧い名家の出身で、張元の母親も同じ一族の生まれだった。血筋をたどると、遠縁の従母に当たるようだ。
この年、蒲州の都督が薨じていた。宦官と軍隊が不仲となっており、都督の葬儀をきっかけに軍隊は擾乱を起した。軍隊は蒲州の人から大規模な略奪をはじめた。
崔氏の一家は、大変な財産家で、召使いも大勢いた。旅先のことで慌てるばかりで、頼る所も思い付かない。
張元は、以前から蒲州軍の将校と親しくしていた。役人を派遣して寺を護ってもらったので、ついに危機に及ばなかった。
十日余り後、簾訪使が天子の命を受けて総督節となった。軍隊に令を発したので、軍乱は収まった。
崔氏夫人は、張元のお陰と厚く感謝をして、お礼として豪華な宴席を、寺の中堂に設けてもてなした。崔氏夫人は、張元に言った。
「わたしは未亡の身の上で、二人の娘を携えております。我が身さえも危ないところを、貴方さまが一家の命を救ってくださったのです。並大抵の御恩とは言えません。今、仁兄としてご挨拶させて頂き、せめてもの御恩に報いたいと思います」
崔氏夫人は、二人の娘を呼び出した。次女は名前を嬌児といい、十歳余りで、容姿は穏やかで愛らしい。
崔氏夫人は、長女の月娘を呼び出した。ところが、月娘は気分が悪いからと断ってきた。崔氏夫人は怒って言った。
「張兄は貴女の命を救ってくださったのですよ。張兄がいなければ、わたし達は捕虜となっていました。遠慮などしている場合ではありません」
月娘はややあって姿を見せた。
普段着のままだが、艷やかな容貌である。とくに飾り立てることもなく、前髪を眉まで垂らし、両頬は白いままなのに、顔色はあでやかで、光り輝くばかりの美しさは、青年の心を強く動かした……
物語はこれから先の筆致が大切だ。わたしはまだ定案を得られないでいる。