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拝火教の寺院跡で

 かつて都の北西は、拝火教の寺院が五つあった。同区劃での仏教寺院の数と等しいことを考えると、流行ぶりが知れる。


 今となっては、胡人の往来は途絶え、拝火教を信じる者はいなくなった。わたしの母は、熱心な信者とは言えなかった。少ない記憶をたどっても、母が神の名を口にしたのは、わたしを叱るときや、自身が病いを得たときなどでしなかった。わたしには、拝火教への思い出が、ほとんどないのだ。


 あの辺りを散歩するのは、気が進まない。


 戦乱後、身寄りのない胡人の女たちが、金品をねだったり、行く宛のない男を道脇に誘い込んだりして、治安の退廃ぶりが目に余った。


 わたしは以前、厄介な女に絡まれた。見るからに、まともな生計を立てているとは思えない姿だった。そういった女たちは、容色はひどく乱れているのに、目つきばかりが嫌に輝いているのが、気味が悪い。


 はじめは、「檀那、遊ぼうよ」 と声をかけてきた。わたしは努めて無視をした。


 しばらくして、わたしの正体に気が付いたらしい。同じ出自と性別であることを理由に、何か恵んでくれるよう頼み込んだ。


 わたしを褒めたり、嫌味を言ったり、他人の口を開かせるための手段の全てを行使した。


 余りにも長くつきまとうので、わたしは嘘をついた。四辻には、いつも立番の兵士がいることを、わたしは記憶していた。


 わたしは彼の前に、例の女を差し出したのだが、兵士は気が進まない様子だ。二人の態度から察するに、とうに顔馴染みになっていたのだろう。


 別の日に、兵士が例の女とにやつきながら、道脇で話しをしているところを見た。兵士の心には、わたしなどよりも、あの女の方が深いところで素性が知れているのかも知れない。


 国を愛さない兵士は、社稷を滅ぼす。紛れもない事実だろうが、わたしは彼を非難しようとは思わない。大義を護る資格を得られない者に、義務だけを負わせるのは、過酷だ。


 気が付くと、わたしの散策の方面は、呂氏の居座る妓楼へと向いていた。退屈しのぎには、彼ほど相応しい人物はいない。

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