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怪奇の夜明け  作者: 望月響
旅の始まりはいつも家の前から。
9/50

諸刃の剣は糸を断つ

 箱は転じて刀の形をとる。白鞘だ。決して丈夫なものではないがちょっとだけ使う分には全く問題ない。


「おぉ…刀とか出るんだ…じゃあこれで下に降りれるね。」

 

そうだった。頭がバグって戦うことを想定していたがよく考えればこの蜘蛛の巣をぶった切って脱出したらいい。それなら白鞘でも丈夫さは関係ない。少年はぎこちないながらも刀を振り蜘蛛の巣を斬っていく。刀の長さがあれば自身が蜘蛛の巣に引っ掛かってしまうこともない。

 

最速で脱出する最適解はそれだが、両刃の剣である。少年たちは大事なことが頭から抜け落ちている。張ってある蜘蛛の巣に衝撃など与えれば、それは蜘蛛たちにも伝わってしまう。この建物自体がすでに蜘蛛の大群の胃の中なのだ。

 

カサ。切った糸の奥から音がする。カサカサ。また、蜘蛛がいる。

蜘蛛は斬られた糸を直しにやってきた。だが目が合う。斬った張本人と。獲物はかかってはいなかったが確かにここにいたのだ。

 

「杖よ!」

 

結衣の声が飛ぶ。そして同時に杖も飛んでくる。

 

「悪い奴をぶん殴れ!」

 

杖がフルスイングの攻撃を蜘蛛に叩き込もうとする。しかし蜘蛛もバカではない。袋状の腹部を振り回し杖をはじき返す。その杖は結衣の頭に直撃した。さながらピッチャー返しだ。

 

「はうっ!?」

 

運悪く結衣にクリーンヒットしてしまったようで結衣は軽い脳震盪を起こして倒れてしまう。残るは少年のみだ。目の前にいる蜘蛛は二匹。倒せない数じゃない。

 

少年は覚悟を決めた。蜘蛛の一匹は少年に向かってとびかかってくる。ひらりとかわす…とまではいかなかったがその攻撃は、少年の横をかすめていく。もう一匹は少年を無視して糸を紡いで蜘蛛の巣を直している。


だが一瞬、別の方を向いた隙を逃さず一匹目の蜘蛛はとびかかってくる。かわせないと悟った少年は、賭けとばかりに刀を蜘蛛に突き出す。頭にクリーンヒットは無理だったが顔に傷を負わせ足の付け根を斬った。着地の衝撃で蜘蛛の片足ははずれ転倒してしまう。そこで蜘蛛の血の匂いを感じたのか二匹目の蜘蛛が動き出した。だが、蜘蛛は少年にとびかかるのではなく、一匹目の蜘蛛にとびかかった。

 

少年は思い出す。蜘蛛にとってはほかの蜘蛛はエサにすぎないのだ。と。弱った可食部の多い蜘蛛か元気なやばい奴かで言えば、前者をあの蜘蛛は選んだのだろう。

 

だが、少年にとっては好機以外の何物でもない。素早く本を開き、結衣に触れる。

 

『「人は病で死ぬわけではない。寿命で死ぬんだ。君の死神はまだ足元にいる。だからまだ死ねないよ」そう死神は言った』

 

本は光を放つと途端に結衣は目を覚ます。どうやらけがでなくても何とかなるようだ。助かったとばかりに少年は結衣にありすを引っ張ってもらい、自身は刀を振り回して階段の蜘蛛の巣を切り裂き続ける。二階にたどり着くころには、刀は蜘蛛の巣でおおわれ、柄の木は割れてしまい、もう白鞘は振れない状況になっていた。

 

「助かったよ…マジでありがと…あぁまできれいに行かれるとは思ってなかった」

 

同意でしかない。もはや面白いくらいに頭へのクリーンヒットだったのだ。だが笑い事ではない。蜘蛛は学ぶことがわかってしまったのだ。苦悩していると結衣が肩をたたいてくる。

 

「ねね。あの能力ありすにつかったら一瞬正気を取り戻させれないかな。」

 

やってみる価値はあると思った。ただ無策にこのままここを逃げ出すまで戦い続けるよりずっといい。一瞬でもこの人間バイブレーターから人間に戻れば『登校』を祈れる。ありすに無理やり本を握らせ少年は本を開く。

 

『「君の死神はまだ足元にいる。まだ死ねないよ」と死神は言っている』

 

本が光り…

 

「学校に戻らせて!!!!」

 

ありすが叫んだ。その瞬間ありすの姿は光に包まれる。いつの間にかさっきの蜘蛛を食べ終えたらしい蜘蛛が下りてきていたがもう遅い。自分たちも本を握り『登校』を祈れば…

 

「はぁっ…!はぁっ…!はぁっ…!」

 

真っ青な顔をしてへたり込んでいるありすがいた。


「お、だいじょぶ~?」

「これが大丈夫に見えるなら大丈夫なんでしょうねっ!!」

 

いつもと違ってご機嫌が斜めのようだ。だが悪態をつく余裕くらいは戻っている。ならまぁさっきまでよりは大丈夫の部類だろう。

 

「結構無慈悲ですね…あなた…」


そんなありすを連れて校長室まで歩く。ノックをして…

 

「どうぞ」

「「「失礼します」」」

「おや?お帰りなさい。今回はどうでしたか?」

 

かくかくしかじかと今回は結衣が説明する。


「なるほど…ありすさんは元気がないようですが…?」

 

蜘蛛恐怖症であったことと、それが戦闘をした理由だと説明する。

 

「なるほど、さすがに友人を一人生贄にして撤退はまずいですからね。了解しました。あなたにはもう一度箱を授けましょう。さてと…。あなた方がであったものについて説明しなければいけませんね。」

 

校長の長い話を要約すればあの巨大蜘蛛は「レンの蜘蛛」という種族でもっと大きな蜘蛛を崇拝しているらしいということ。ほんとはもっと違う場所にいるはずのなのだが異界のせいでこんなところにいるということ。あれに捕まったらたいてい死ぬということ。

 

「よく生きて帰ってくれました。結衣さんと君の機転の勝利です」

「ふふん」

 

結衣も得意げだし、少年も褒められて悪い気はしていない。


「それにしてもあなた方はよく怪異に会いますね…もはや吸い寄せられているんじゃないかと思うくらいには。」

「まぁなんというか否定はできないですよね…」

 

地味にげっそりしてるありすも口を開く。

 

「あなた方ならこれからも怪異を見つけてくれそうですね。かといってあんな恐ろしい目にあった後にまだ続けろとまでは言いません。どうされますか?」

「どする?ありす。今回最もダメージを受けたのは君だし。」

「私は…やります。」

「おぉ。それは非常にありがたいです。ですが意欲的な皆様が襲われて死んでしまわれては私の仕事に多大な影響が出ますね…。魔法の杖のある結衣さんとそこそこ戦えてる少年君と違ってありすさんは襲われたときに何もできなさすぎます。」

 

ありすはあからさまにしょんぼりしている。

 

「皆様の今までの献身と報告は非常に有意義なもので信用に値します。ありすさん。こちらをお受け取り下さい。」

 

校長は新たな本をありすに手渡した。

 

「本の能力は一冊ずつしか発揮できないのでどうぞお気を付けて。それでは、行ってらっしゃい。」

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