Eihort, the Thing in the Labyrinth
読みに来てくださりありがとうございます。短い駄文ですが楽しんでいってくれると嬉しいです!
「ありす…」
結衣が小さな声を漏らす。目は虚ろで焦点が合わず、本はドロドロとした液体に包まれ影も形もない。だが、少年は一つ手があった。もうずいぶんと前のことのように感じるが、あの蜘蛛に襲われたとき、ありすの蜘蛛恐怖症を一瞬だが和らげたのだ。今回も一瞬くらいなら時間を稼げるやもしれない。一縷の望みだろうがかけるのは悪いことじゃない。
『「人は病で死ぬわけではない。寿命で死ぬんだ。君の死神はまだ足元にいる。だからまだ…」っ!?』
詠唱をしつつ少年はありすへ手を伸ばす。触れさえすればきっと『死神の名付け親』は効果を発揮するだろう。だが、少年がありすの肩に触れようとした瞬間。電流が流れたかのように、少年は慌てて手を放す。此れを表すなら、バリアによって弾かれたという表現が適切だ。
「どうしたのかしら?」
はたから不思議そうな顔で凜がのぞき込んでくる。あったことを端的に伝えれば、凜の顔がもっと不思議そうな顔になる。話を聞いていた少女も首をかしげている。どうやら知識の力添えには期待できなさそうだ。
「どうしよっか…厄介なのが出てくる前に連れて帰りたいよね…」
その通りだ。ここまで来てもしあの星の精以上のものと戦う羽目になったら大惨事もいいところだ。勝てる気などしない。かといって洗脳されたままでは連れて帰れないしそもそも出れない。
「こまったねぇ…」
とりあえず物は試しともいう。もう一度手を伸ばしてみる。
瞬間。空気が変わる。きっと、科学的に調べたらまったくもって変わっていないんだろう。だが、雰囲気、圧、殺気といったものは場にいるものすべてを凍り付かせるに足ることがある。
何か見えないものに押さえつけられるかの如く動きの鈍る身体に鞭を打ち、ゆっくりと後ろを振り返る。
そこにいたのは、誰もが見た瞬間に目を覆って脱兎のごとく逃げ出したくなるような異形だった。
全身を滑らかな青白い奇妙な皮膚に覆われ、無数の鮮やかな血で満たされたゼリーのような眼をその楕円形の体表全体につけ、体の下からは蹄を持つ足が無数に生えている。この前の校長と倒したあの蜘蛛よりよほど大きいサイズと比較にならない圧を感じる。
異形であるから表情を読み取ることなど出来ようはずもない。だが、言葉にならない圧から感じるその圧は言葉や表情以上に物を語ってくる。
“明確な敵意”だ。
「まずいです…わよね…」
「うん…これは…勝てないね…」
その大きい図体のおかげで動きは遅いが、一歩一歩が大きすぎる。ここまで来るのにそう時間はかからないだろう。
死。それをこんなに身近に感じたのはいつぶりだろうか。ずいぶん最近のような気もしてきた。もはやどうしようもない状況となれば人間は諦観の極致に来れるらしい。
「あなたたち。あきらめない。まだ私がいる。」
絶望でポカーンとしている三人の後ろから優しい少女の声がかかる。
「少し時間が欲しい。勝利まで“案内”するから。あきらめないで」
「何かあれに勝つ方法があるのかしら?」
「ある。倒すことはできないけど退散なら。私ができる。」
「はぁ…わかった…このままぽけーっとしててもどうせ押しつぶされて死ぬだけだしね。いいよ。やろ。」
先ほどまで膝をついていた結衣が立ち上がる。
この異界の序盤で思った、「強い目的意識は人を前に進ませる力を与える」ということは間違いではない。だが、それよりもよほど強い力を、絶望から立ち直る勇気を、与えてくれるものを忘れていた。
「ええ。そうですわね。結衣がたつのならばわたくしが座っていていい道理などありませんもの」
そうだ。皆を前に進ませるのは、勇気を与えるのは、絶望を乗り越えられるのは。
『希望』があるからだ。それさえあれば人間はいくらでも前に進める。
ひざを折っている時間など残されていない。一気呵成に攻め立てるのみ。
『希望』という大きな点火剤を以って戦いの火蓋は切って落とされた。
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