この狭い世界の外へ
読みに来てくださりありがとうございます。短い駄文ですが楽しんでいってくれると嬉しいです!
7階は最盛期のこの建物の姿をよく映しているようだった。多く並べられた細かいパーツ。どこを見ても掲げられるマイコンの文字。どの店も競うように自分たちの店の商品を宣伝していたのであろう。多くのチラシには店の商品のラインナップの多さや価格の安さ、性能の良さを謳う言葉がみられる。
きっとここはサブカル文化に染まる前の街を電気一色に染めていた。その一手を担っていた場所なのだろう。電気街口の名に残る電気街はきっとこのようなものから生まれたのだ。
「ここは一段とすごいわね。誰もいないのに熱気を感じる気がしますわ。」
「だねぇ。私もこの時代に生まれてたらこっちに熱狂してた気もするよ」
しかしながらというか案の定というか、この場所はやはり誰一人とて人が見えない。それどころか不気味なほどに静かだ。先ほどまでは聞こえていたはずのゾンビの足音やあの唸るような声もしない。一応、一周見て回るが少年のいる方向には何もなかった。
だが、結衣の声がする。
「ちょっと二人ともきて~!」
「急になんですの?そんなに慌てなさって」
「これこれ。なんか書いてある。」
いわれて目を移した床には非常に細かい文字だが何か書かれている。
“Tibi Magnum Innominandum Signa Stellalum Nigralt et Bufaniformis Sadquae Sigillum”
「こちらにもありますわよ」
「あ、ほんとだ。」
“Tekeli-li Tekeli-li Tekeli-li”
だが、どちらともどう見ても日本語ではない。しかし書かれているインクのようなものには見覚えがある。少し端の方に触れてみれば、「ヌト」という擬音が正しいような気持ちの悪い感触がする。
黒くてヌトっとした気持ちの悪い液体。ちょうどこの前ありすの本からあふれ出たあの液体のようなものだ。
「これで確認するのはやだけど…もしこれがあれと一緒ならここにありすはいるんだろうね。」
「わたくしには何とも言えませんが…きっと無事ですから。急ぎましょう?」
「だね。凜ちゃんいうとおりだ。」
“恐怖は敵を知らないことからくるのだ“とは昔から言われてきたことではあるが、いざそれを目の前にすると本当にここに残って前に進まずにいたくもなる。
行くしかないのは何度も再確認してきた。帰れないのもわかっている。だが未知への恐怖というのは本当に人間を弱くする。それはずっと異界を旅してきた者とて同じこと。
「どうしたの?いこ?」
自分よりも結衣のほうがよっぽど覚悟が決まっている。自分だけが止まっているわけにはいかない。もう敵は目の前なのだ。今更ここで日和っていたってしょうがない。
階段を上がれば8階。あの蜘蛛の時のようにすべてが更地になっているようなことはない。だがそれゆえ不気味だ。何の音もせず三人の呼吸の音が響くばかり。
地図上では、これより上はない。ここに敵の首魁がいるはずなのだ。三人は息を殺し、できるだけ足音を消して歩く。すると、いくらか歩いたところで人影を見かけた。窓の外をぼーっと見つめるその姿は少女だが、夜並木の制服ではないようだ。なれば、少なくとも味方ではなく、ありすでもない。
とりあえず、本と箱を取り出し臨戦態勢に入ろうとした瞬間。声がする。
「ねぇ。あなた達は何をしに来た人?」
長い白髪を手櫛で梳かしながらも視線は窓の外から動かさず少女はこちらに聞いてくる。
警戒する少年と結衣をよそに凜が先陣を切って答える。
「この人たちの友人探しですわ。そういうあなたはここで何をしてらっしゃるの?」
「私は喚ばれた。この階に。」
続くように結衣が疑問を口に出す。
「どゆこと?下から登って来たんじゃないの?」
「うん。そうだよ。最上階に喚ばれて、ずっとここにいる。」
「呼ばれた呼ばれたって…誰がこんなとこに女の子呼ぶのさ」
「変な虫みたいなのと女の子。」
その話を聞いた瞬間に結衣の口調が一気に変わる。
「ねぇ、その女の子どこ。」
「ここではないところ」
「どこだ。言え。私はその子を探しに来た。」
少女のふわふわした答えにいつもの如き緩い口調は今はどこかへ消え去っている。むしろ怖い。だが少女の一方通行会話は変わらない。
「なんだ。そうなら早く言ってくれればよかったのに。」
「どこだって聞いてんだよ!」
「教えてあげる。だから私をここから出して。人に従属されるのは好かないの。」
あまりの結衣の変わりようにちょっとドン引きした凜が助け舟を出す。
「出すって…どうしたらいいのかしら?」
「この部屋の中にこの世界を形作っているのがいる。私はそれを倒そうとする人たちを殺すように言われたけど、自分より弱いのに命令されるのは好かない。だけど私は喚ばれた存在だからそれを殺すことはできない。だから…たすけて。そうしたら手伝ってあげる。」
「わかった。いいよ。やろう二人とも」
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