日ノ本創りし神の鉾
本は光る。静かな、しかし荘厳な光があたりを包む。
確かに辺りを包み天地開闢の光は日本という国の開闢を知らせる。日の出の如き人々を照らす光が静かに収まっていけば、校長の手には長く大きな鉾が握られている。
『天沼鉾』そう呼ばれるその鉾は日本という国を沼のように揺蕩う海から作り上げた神の鉾だ。決して、この世のものではないそれは鉾先に静かに暖かな光を湛えている。
スーツを着た校長が神々しいその鉾を握る姿は、ギャップを含め美しくあった。
「お二人とも耐えてくださりありがとうございます。あとは私の仕事です」
校長は鉾を構え、蜘蛛に対峙する。もはや、視界の外で何の痛痒もない攻撃を繰り返す二人を敵とみなさなくなったのか校長しか見ていない。
そこからの戦闘は壮絶だった。蜘蛛は糸を吐きかけ、校長は躱しつつ攻撃を仕掛けるが蜘蛛は既の所で後ろに跳躍する。校長が鉾で薙ごうとするが、それを蜘蛛は躱し校長にとびかかる。それを鉾の勢いを利用して躱し…
一般人が入る余地などなかった。それはたとえある程度の戦闘経験を積んだ二人ですら例外ではない。
「あれは…すごいね…」
少年もうなずくことしかできなかった。どちらも戦闘慣れしているとしか言いようがない。爆炎が出るわけでも火花が散るわけでもない戦闘なのに、その戦闘の外にいるはずの二人にすら死を覚悟させるほどの攻撃を攻撃毎に繰り返しているのだ。
しかし、ある程度戦闘が続くとどちらも動きが鈍くなってきていた。かといって、戦闘に参戦したらものすごい速度で殺されて終わるだろう。トラ同士の戦いがワニ同士の戦いに変わったようなものだ。一般人が入れないのは間違いない。
だが、校長はここで動きを変えた。カウンター主体の戦闘法から積極的攻勢に出始めたのだ。相変わらずお互いの攻撃が外れていることは変わりないが、校長がやや有利になったように見える。蜘蛛が防戦寄りになってきているのだ。
膠着した戦闘はその後も幾らか続いたが、突然終わりを迎える。校長の繰り出した一薙ぎは蜘蛛の脚の一本を斬り飛ばした。一瞬蜘蛛の動きが鈍る。その隙を逃さず校長は蜘蛛を正面から突き通す。
頭を突きさされた蜘蛛は一瞬力が入ったかと思うと、力が抜ける。校長が鉾を引き抜けば蜘蛛はその場に崩れ落ちた。だが、蜘蛛の頭から流れるものは血液ではない。
蜘蛛の傷口から大量の霧が吹きだす。本による転移阻害をしたものと同じものだ。
「ちょっ!?まずい!」
「あ、大丈夫です。これは予定通りですから。」
「そなんですか!?」
「はい。それよりお二人さん。瓦礫の少ない場所にいた方がいいですよ。」
「ほえ…?」
二人は慌てて移動する。霧はどんどんと濃くなり、自分の手すらも満足に見えないほどになっていた。
「これやばくない?え、やばいよね?」
「大丈夫ですから落ち着いてください。焦ると危ないですよ。」
ゆっくり、ゆっくり。霧は薄くなり徐々に周囲が見え始める。蜘蛛の死骸はどこに…
「ほえええええ???」
少年も大慌てな結衣と同じ感情になってしまう。
周囲の景色が全く変わり、きれいな商店街となっている。蜘蛛の巣などはなく、壁は元通りだ。ここでもともと売られていたであろう服やバッグなどが壁にかかっており、最早蜘蛛の面影などどこにもなかった。
一回に上がってみればそこにも少年が倒したはずの蜘蛛の死骸はない。
「これが異界の消滅です。これをすべての異界でやることができればおそらくこの世界は元に戻るでしょう。」
「はぇ~なるほど…今までで見た中で断トツで不思議ですねぇ…」
「ですが言い換えてみれば無数の世界でこれをやらなければならないのは本当に時間がかかるということです。急がなければいけませんね。」
「たしかに。次からはありすもいますし、がんばりましょ!」
皆は自身の本を握りしめ登校を願う。あたりはゆっくりと光に包まれ校長の鉾も消える。
次に目を開ければまた見慣れた高校だった。
「これで一つ事件は解決です。お疲れさまでした。また次もありますが、いったんお休みになっていただいて結構です。ありすさん含めて準備ができたらまた校長室までお越しください。」
「はぁい!」
少年もうなずいて結衣とともに教室へ戻る。今日あった話をありすとするために。




