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怪奇の夜明け  作者: 望月響
旅の始まりはいつも家の前から。
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蜘蛛の信仰を受け取りし者

 地下一階はこの前探索し、迷った上の階は何だったかというほど単純だった。何しろ何もないのだ。壁か何か隔てていたものがあった場所はすべて薙ぎ払われ破壊された跡がある。ライトも例外なく割られている。見える範囲の周囲の壁は、すでに蜘蛛の巣でおおわれていた。そしてその広くなった空間で音が響く。カチ。カチカチ。


「多分あれが倒しに来たものですね。行きましょう。」

「え、ちょ!」

 

少年も結衣も駆け足でついていく。この空間に一人で置いていかれたら悲惨なことになりそうだ。

 

近づくにつれて目は暗闇に慣れてくる。じわじわとはっきり見えるようになったその音の主は、さっき見た、蜘蛛よりよほどでかい。体高は160を優に超えていそうだ。人間とサイズがほとんど一緒の巨大蜘蛛。どう考えようとも気持ち悪すぎる。ありすがいたら発狂して心臓が止まりそうだ。

 

サイズと体重が桁違いなせいで、足が地面にあたった時の音がカチ、となるほどだった。全身はタランチュラを彷彿とさせるほどにもじゃもじゃしている。足は丸太のごとき太さをしており、目は光を反射するわけでもなく爛々と輝き、あたりを見渡している。

 

「なるほど。やはりこいつでしたか」

「知ってるの?先生」

「はい。レンの蜘蛛が奉仕する対象なんてこれくらいしかいませんから。」

「え、今から戦うんですよね??」

 

近づくにつれてどんどんと不安感は増してくる。怖い。

 

「できれば、解説して差し上げたいのですが、何しろこれが蜘蛛の巣を完成させたら世界が滅ぶという伝承がありますから。有限の場所で紡がれたらたまったものじゃありません。」

 

そういいながら、校長はずんずんと目標の蜘蛛に近づく。だが一定のラインを超えたときに、蜘蛛は突然こちらに気づいた。

 

「警報装置の役割を果たす糸でも踏んでしまいましたかね…」

 

蜘蛛の真紅の輝く瞳はじっとこちらを見つめる。だが、ただ見つめられているだけなのに皮膚がピリピリするようないやな感覚を感じる。明確な敵意というものだろうか。

 

「みなさん、気を付けて。こいつの吐く糸に絡まったら助けられませんからね。」

「えっ!?」

「特に結衣さん。蜘蛛になりたくなかったらお気をつけて。」

「ちょ、聞いてないんですけど!?」

「今言いました!」

「そげな殺生な!!」

 

蜘蛛は完全にこちらを敵視している。もはや逃げられるものでもない。というか倒しに来ているのだから校長を置いて逃げ出すわけにもいかない。少年は鞘に納めた大太刀を払う。

結衣も杖を握って、構えている。

 

「私も戦うので少々お待ちください。」

「えっ…」

 

困惑する結衣をよそに少年は校長にうなずき敵の注意を惹きにかかる。要するに詠唱分の時間を稼げということだ。ありすの『不思議の国のアリス』のように時間がかかるものがあるのは学んでいる。

 

蜘蛛の脚に一太刀を入れるために刀を振る。だがスイングスピードが足りない。ただ大きいだけだったレンの蜘蛛と違い、此れの脚の太さと筋肉量は異常だ。刀がはじかれる。攻撃に気づいた蜘蛛は少年方向に攻撃を向けようとする。

だが。

 

「え~いっ!!!」

 

蜘蛛の顔めがけて結衣の杖が飛んで行く。投げたら殴らせるのではなくすぐに手元に戻しているようだ。蜘蛛も学ぶが結衣も同時に学ぶのだ。脚に投げたり腹側に投げたりと自慢の足の速さを生かしてちょろちょろ動いている。自分が敵だったらブちぎれているところだ。

 

少年はそのすきをついて脚の付け根を狙って斬りつけたりしているが何より威力不足。どうやろうともダメージは稼げていない。結衣も結衣であの戦法はうざいだろうが打撃メインの結衣はやはりダメージを稼げてはいなそうだ。お互い決定打に欠ける。


 

少年がうなずいてくれた瞬間から校長は先ほど火炎瓶のために使った本を取り出した。その本は古びていてなおかつ、表紙などというものはなかった。糸止めだ。中身も読めないことはないが、現代人からしたら意味不明の極みだろう。だが秘められた力は…

 

『国(わか)浮脂(うきあぶら)(ごと)くして(しかるに)()羅下(らげ)那州多陀用幣流之(なすただただよえるの)

(あし)(かび)(ごと)()()がる()物に因りて神成りまし

天つ神の(もろもろ)(みこと)(もち)()はく伊邪那(いざな)()(みこと) 伊邪那(いざな)()(みこと)二柱の神是の多陀(ただ)()幣流之(えるの)(ずち)(なほ)し固め成せと(のたま)天沼矛(あめのぬぼこ)(たまわ)(しかるに)(こと)()(たまふ)(なり)

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