歴戦風味の学校長
結衣と少年はついていくことに抵抗はない。だがありすは違った。
「それはつまり…あの蜘蛛も…倒しに行くんですよね。」
「そうなりますね。それがどうか…。あぁなるほど。貴方はアラクノフォビアでしたね。ではおふたりだけを連れて最初にあの蜘蛛を退散させることにしましょう。よければそのあとはついてきていただきたいのですがよろしいですか?」
「それなら…大丈夫です」
「協力痛み入ります。」
「では…そうですね。今は時間的にも朝ですしちょうどいいでしょう。まずはありすさんの家の近くに出たものからの退散を目指して出発しますがよろしいですか?」
「ん。りょかいで~す。私たちはいったん準備しに戻りますけど、どこに集合すればいいです?」
「そうですね…では校門前としましょうか。」
「じゃあいったんしつれいしま~す」
「「失礼しました」」
「えと…なんかごめんね?ありす」
「いえ、どちらかというとありがとうございます…私このままだと家に帰れないところでしたから…」
「たしかにぃ~。私たちが倒さないと帰ったらあいつよりでかいのが町にいることになるもんね…w」
「その通りです…帰れなくなっちゃいます…」
「よし!私たちがばっちし倒してありすが安心できるようにしてあげよう!」
「ありがとうございます…お願いします…」
そんなこんなと雑談していれば教室についている。帰ってこれるまで何日かかるか分かったものではないので、ありすのために何日か分の保存食とお菓子をテーブルかけで出しておく。
あとは自分の箱をポケットに入れ、本を持ち小物をしまったリュックを背負えば準備は完璧だ。
「じゃあ行ってくるね!」
「はい。いってらっしゃい…」
「さみしくて泣いちゃだめだよぉ?」
「泣きません!!」
「はいはい。じゃ、あとよろしく~」
少年も手を振り、教室を後にする。階段を降り校門に向かう。なんというか、これから未知の敵と戦うというのに少年はいやにわくわくしていた。
「お、はやかったですね。もう少しかかるかと。」
校門についてみればいつも見るスーツを着用した校長が腕時計を確認しながら待っていた。両肩にはきっちりとしたデザインのリュックを背負っている。校長というよりは通勤中のサラリーマンのような風貌だがあえて突っ込むものでもなかろう。
「それでは行きましょうか。住所を教えてくださいますか?」
結衣がこの前ありすといった場所の住所を伝え一歩を踏み出せば、この前のショッピングモールのような場所の前に出る。
「なるほど。ここですか。」
「そです~ただどこにいるか全然わかんないんでそこは探索次第ですね…」
「大丈夫です。大体経験でわかります。」
少年たちに依頼をしに来た時からうすうす察していたがこの人は生粋のプロだ。きっとここまで、大規模ではないものの時は一人で異界を蹴散らしてきたのであろう。
「あれは大体は地下にいることが多いんですが…あぁありますね。行きましょう。」
近くの地図をさっと一瞥したのち颯爽と歩き始める。安心感が段違いだ。高い身長と大きなぴしっと伸びた背中を見ていれば不思議と安心するというもの。
「おや?」
校長が足を止める。目の前の階段はやはりというべきか蜘蛛の巣で埋められていた。蜘蛛はいなくなっていないらしい。少年が箱を本にかざそうとしていると手で制される。
「このくらいならこっちの方が速いです。」
校長は銀の箱をポケットから取り出し、自分の本にさっとかざしたかと思うと投げる。銀の箱は空中でだんだんと形を変え…ガシャン!蜘蛛の巣を破りつつ地面にあたった瞬間に大きな音がする。空中で瓶に変わった其れはすぐに青白い炎をもって燃え始める。
「火炎瓶!?え、いいんですかこれ…?」
「もちろん。蜘蛛の巣を手っ取り早くどかすためにはこれが最適ですから。」
「いやいやいやそういうことじゃなくて。建物とか?」
「あぁそれなら大丈夫です。そろそろ消えますから」
「ほえ?」
校長の言う通りしばらくすれば何事もなかったように炎は消え、建物には焼け焦げた跡もなく逆に蜘蛛の巣はきれいさっぱり焼き払われていた。
「えぇぇぇ~?」
「まぁ不思議なものだとでも思っておいてください。」
カサ。蜘蛛の巣に触れたことに反応したのか、二階から蜘蛛が下りてくる。とっさに少年は自身の新たな箱を本にかざす。さすれば、箱は姿を変え大太刀の形をとった。かなり重くなるかと思って少年は身構えるが、前回の太刀を握った時よりもいささか軽い。白鞘を握った時のようだ。
大太刀を払い鞘を丁寧に床に置き、蜘蛛に対峙する。結衣はちょっと残念そうだが杖を握ったまま動かない。前回、顔面に返されたことを反省してのことだろう。校長は見極めてやろうというノリなのだろうか。観戦中だ。仕方なく少年は一人で対峙する。
蜘蛛との対峙は2回目。だが武器も敵も違う。この前のやつが弱い個体だった可能性もある。油断はできない。
大太刀のリーチを生かしお互いじりじりと睨みあう形に持ち込んだ。
先手を取り蜘蛛が動く。跳躍力と瞬発力をフルに生かし、とびかかってきた。少年は刀を支点に攻撃をかわし勢いそのままにカウンターで斬りつける。クリーンヒットはしなかったが蜘蛛の足の一本を斬り飛ばすことができた。
足を斬り飛ばされたことにより怯み、体制が崩れた一瞬を突き、二の太刀を相手に振り下ろす。この一撃は蜘蛛の真ん中をとらえ…縦に真っ二つ。
ただの蜘蛛なのだが、サイズがサイズなせいでいささかグロテスクだ。勘弁してほしい。後ろでは校長がゆっくりとした拍手をしている。
「すばらしい。剣道のような型を組んだ美しい動きではありませんでしたがまさに実戦で鍛えた動きでしょう。素晴らしい。いいものを見せていただきました。やはりその箱を渡したのは正解でしたね。」
「いつもは戦ってて君の戦いを見てられないけどすごぉい…」
ふたりに褒めちぎられ少年はいささか頬が熱くなる。
「それでは進みましょう。」
校長の一言でさっと冷静さを取り戻し、皆で階段を下る。次の階は地獄であろうとわかっていようとも、だ。




