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怪奇の夜明け  作者: 望月響
旅の始まりはいつも家の前から。
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鏡合わせの現実と非現実

深夜。日が落ち。電灯の明かりとさして明るくもない月の光のみが視界を明るくしてくれる。歩くものは多くない。幾分に一度誰かとすれ違うかどうか。というばかりである。そのような深夜。一人歩く少年がいた。両親が寝静まるのを見届け一人外を出歩く。少年の目的はただ一つ。この街で最近有名な都市伝説の解明。もしくは自分でそれを体験するということだ。


その怪奇現象は『都立夜並木高校』と呼ばれている。夜。一人で。誰にも出会わず。人工の光の届かない場所に足を踏み入れるとたどり着けるといわれる場所だ。どんな場所か、誰がいるのかなどは伝えられていない。行った人の証言と思わしきものは少なく、この怪奇現象は都市伝説と呼ばれるくらいには信憑性のないものでもあった。


しかし、それであろうと少年の声を引き付けるのには充分であるのは疑いようもない。条件を満たす場所の調べはついている。公園と住宅地を区切るブロック塀を超えた先。そこと隣の建物の間に人一人が歩けるかどうかという隙間があるのだ。


深夜2時過ぎ。何度もイメージトレーニングを繰り返したブロック塀を超え、少年は着地する。街灯の光は遮られ届かず上から差し込む月明りのみが少年の影を作り出す。


そして少年は待つ。1分。2分。3分。何分待とうと何も起こらない。異世界に吸い込まれるわけでも突然景色が変わるわけでもない。不思議な音も聞こえない。都市伝説は都市伝説だった。そう結論付けブロック塀の隙間を道の方へ向かう。道に出たら何かあるかと期待したが、何もない。静かな道が続いているだけ。


結局は噂の域を出なかったのだ。深いため息をつきゆっくりと家路を行く。家にばれずに入る方法を思案しながらとぼとぼと。


角を曲がり、目の前は明るくなる。大きな建物が唐突に目の前を照らしたのだ。家路にあるはずがないもの。道を間違えたのかと周りを見渡すがいつもの家路が広がるばかり。目の前以外は変化がない。しかしそこに確かに口を開けているのだ。不明な学校の校門が。高校名は『都立夜並木高校』校門はあいている。少年は見たものを信じられずにいた。都市伝説が実在していたのだ。無理もなかろう。慎重に一歩一歩を踏み出す。そして校門を超えたとき。全身にぞっとする風を感じる。思わず一瞬目を閉じてしまう。そして恐る恐る目を開けば。


そこは夕方とも明け方ともつかない世界だった。後ろを見れば校門の外は夜のままだ。ふと違和感を感じ自分の服を見ると見知らぬ服を着ている。自分の高校の学ランではない。ブレザーだ。そして胸ポケットには『Yonamiki High School』の文字の入ったパッチが付いている。周りを見れば皆が同じ服。そうなれば答えは一つ。この高校の制服だ。


そんな時、後ろから声をかけられた。


「もしかしてはじめてですか?」


同い年くらいの少女だ。そうだ。と答えると少女は納得の言った表情でここのことを説明してくれる。


都立夜並木高校は怪奇現象で生まれた空間にあった高校をとある目的のために使っているのだという。この空間への入り方さえ知っていれば年齢制限はあるが高校に入ることができるらしい。年齢制限を過ぎてしまっても、特別許可証のようなものを身に着ければ入ることができるようだ。都立とついているのは単に校長の趣味だと言う。


「年に数回こうやって都市伝説に興味をもって迷い込んでくれる人がいるんです!」


彼女はそう語る。実際周囲を見渡せば学校の範囲のわりに人は少なく、特に授業らしい授業が行われている雰囲気もない。それでも高校を名乗る理由があるのかと聞くと彼女は難しい表情をし、答えを濁した。


どうやら、高校に正式に入学していないものに伝えるのがはばかられるものらしい。少年は好奇心に押され、入学したい。と一言。すると彼女は入学の手続きをするためにはまず校長に会わねばならないという。


物語でよくある展開だ。と少年は少しだけ頬を緩めた。物語であればここで自分に膨大な魔力か不思議な能力があることが判明して主人公になれるのだろうが自身にないことは自分が一番よくわかっている。


しかし、興味本位でこの先を見てみたいと思った少年は彼女の案内に付き校長室へと向かった。そして彼女は用事があるからと校長室前まで来た後引き返していこうとする。すんでのところで止め名前を聞けば一言。


「ありすって言います!入学したら会いましょう!」


そう言い残すとありすと名乗った彼女は小走りで去って行く。

一人見知らぬ学校の校長室前に取り残された少年は迷いつつも校長室の扉を三度ノックした。


どうぞ。の一言を受け最低限の礼儀を守りつつ入室する。そこは別に何か特別なものがあるわけでもなく、典型的校長室が広がる。


「入学希望ですね?そちらにお座りください。」


案内を受け机を挟んだ対面ソファの片方に腰掛けると、少ししてから校長らしき人が、いくつかの書類を抱えて歩いてきた。そして対面に座る。


「初めまして。校長の佐々木恭介といいます。今日はよろしくお願いします。入学希望とのことですが、どうやってここをお知りになりましたか?」


素直に流れてきた噂を頼りにやってきたと答えると、何かメモを取りつつ名前や住所なども聞かれる。こちらも嘘をつく理由などないので素直に答えた。


「なるほど。では本校のことは何も知らないということでよろしいですか?」


はい。そう答えるしかない。知らなかったら入学を認められなかったりするのだろうか。そう緊張しながら佐々木校長の次の一言を待った。が、


「わかりました。本校への入学を認めましょう。」


あっさりと認められ少し拍子抜けする。顔に出ていたのだろうか。説明が始まる。


「本校は基本的にオープンですしさして厳しい基準もありません。さらに言えば、入学金や授業料等も不要です。ここには従業員などがいませんから給料などもいりませんし固定費も異界なのでかかりませんからね。高校と銘打ってはいますが正直高校らしいところなど外観と制服くらいしかありませんから。ただし。入学する前にこの書類にサインをしていただきます。」


そう手渡された書類には要約すると三つほどのことが書いてあった。一つ。口外厳禁。二つ。日常生活をおろそかにせず暇な時間のみに来ること。三つ。誰にもバレてはならない。

読み終わったのを確認した校長は再度口を開く。


「噂が立っている以上、完全に隠し通す気はありませんがあまりたくさん来られても面倒ですからね。そして、日常生活を捨ててまでこんなところに時間をかけないでください。あくまでここはお遊びの空間と理解しておいてください。貴方は未成年ですから契約としてこれを結ぶことは法律上はできません。しかしここは怪奇空間。日本国の法律は通用しません。これを守らなければあなたの身に安全はないと思ってくださいね。裏を返せば守っている間は安全ということでもありますが。では、よろしければサインを。」


少年は迷うことなく手を動かす。興味だけでなく秘密にしなければいけない怪奇現象の一員になれることに何とも言えない高揚感を感じていたためでもあった。


「ありがとうございます。これで入学です。それではこちらをお受け取り下さい。」


そう言って校長に手渡されたのは一冊の本だった。


「そちらはこの高校の生徒証のようなものです。一人一人違いますからね。無くさないでください。そちらがあれば願う場所でここの校門前に来ることができます。もちろん人にばれてはいけませんけどね。それ以外に、困ったことがあれば、そう。ここにあなたを案内した人にでも聞いてくださいね。それではよい学園ライフをお送りください。」


そういわれ校長室を後にする。ともあれ、ここを知るにはありすを探さねばどうにもならない。探しに走る前に少し気になり渡された本をチラ見する。題名は


『Der Gevatter Tod(死神の名付け親)』


なぜこんな本かと疑問で首を傾げつつもありすを探すために再度少年は校内を走り出す。其の一歩は怪奇へ踏み込む第一歩でもあったのだが。

ふんわりしか考えず始めちゃいました…遅筆ですが頑張ります

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