悪役令嬢令嬢を断罪出来なかった件について
「カミーユ・レストン!貴様の悪行もここまでだ!貴様との婚約を破棄し、国外追放を命じる!」
記念式典のパーティーが開かれているロッケン学院の大広間に、第3王子ユリスの声が響き渡る。
「カミーユ様に虐められて、私っ!本当に怖かったんですっ!」
そして、そのユリスに隠れて、涙ながらに訴えるのはジュディ・ミロス男爵令嬢であった。
二人の声に、その場にいた貴族たちは何事か、と壁際に身を引く。
そして、ぽっかりと空いたその場所に、この騒動の主人公、カミーユ伯爵令嬢が――
――――居なかった。
居たのは令嬢の義弟、アラン伯爵令息だけだった。
会場の皆の目が驚きで飛び出る中、彼は冷静に一言。
「義姉は、ここにいませんよ。今の時間ならおそらく――」
☆
時と場所は変わって、ここは愉快なテーマパーク。
そこは青い空と緑が広がり、美味しい飲食店が立ち並び、立派な観覧施設があり、老若男女様々な人で賑わっていた。
「狙い目どうする?」
「9だろ、この父を持つのは適性が高い」
「ヤネはアキムだぞ?あいつ最近下手じゃねぇか」
「1-5!1-5!1-5!」
「エリック―♡頑張ってー!」
「お金無いなった」
芝生沿いに設けられたレーンには人が集っており、様々な話し声が聞こえる。
その中の一人に、カミーユ・レストンがいた。
「は?ビルヴェイグしか勝たんか?母ハーパーソン譲りのあの栗毛の美しい馬体が目に入らないとか節穴でして?」
そう一言呟いた彼女は、新聞を片手に観衆へ愛の大演説をかまそうとしたする。
が、それよりもよりも先に、ユリスが彼女を見つけた。彼はカミーユを親の仇か、とでも言うように問い詰めようとする。そのあまりの勢いに、周囲にいた観衆がそっと身を引いた。
「カミーユ!お前、なんで競馬場にいるんだよ!」
「競馬をしに来たからですが?」
「そうか……。って、そうじゃない!なんで式典来ないで競馬なんだ!」
「そんなの……、愛馬が走るからに決まってるではないですか」
祝いの場をすっぽかした者に対する当たり前の問いに、何を言っているんだコイツは、とでも言うような目線でカミーユは返事を返す。
その視線に抗議しようとユリスが口を開いた瞬間、ファンファーレが鳴り響いた。
その音にびっくりするユリスを尻目に、カミーユはレースに目を輝かせる。
これから、ロッケン競馬場で一番賑わうレース、スターステークスが始まるからだ。
ゲートが開き、一斉に馬が走り出すと、歓声がわく。
青々とした芝生の生えたターフに、蹄を叩きつける音が響き渡る。グッと馬体を低くし、風を切り開いていく人馬に、観客のボルテージがドンドン上がっていく。1コーナー、2コーナーを過ぎ、ポジション争いが終わり、縦に長く隊列を作った各馬は、向こう正面から駆け引きを始めた。これまでのペースを遅いと見たのか、最初は後方にいた黒毛の馬がスピードを上げて、次々と中団の馬をまくって抜かしていく。その動きを察知したのか、レースが一気に動き出す。まくしきらせるものかと、前方にいた各馬が続々と速度を上げ、後方から追い込みをかけた馬はそれに追いつけとロングスパートをかける。馬群が一塊になったまま、3コーナー、4コーナーを過ぎ、最終直線。
集団を引き連れて一番に抜け出したのは、栗毛の馬体、ビルヴェイグだった。
「いけ!いけ!いけ!」
カミーユは頭一個分抜け出したビルヴェイグを、枯れそうなほど声を張りあげ応援する。それに応えるかのように、ビルヴェイグはもう一段階ギアを上げた。
ターフの幅いっぱいに広がった各馬が、ビルヴェイグに迫るが、その差は少しずつ開いていく。ゴールまで後50mを切ったところで、その差は2馬身と数えられるほどにまで広がっていた。
「そのままっ!そのままっ!そのままーっ!」
「9!9!9!こい!こい!こい!」
「差せっ!差せっ!」
「エリックー!いけぇ!」
「1-5!1-5!1-5!」
「アキムーっ!何してんだぁっ!」
絶叫とも呼べるほどの声援が競馬場を揺らす。各々の想いが交わるその場所で、カミーユも手を握りしめて叫んだ。
「ビルヴェイグーっ!いけぇーっ!」
そして、開いた差はそのままに、ビルヴェイグは一番にゴールを駆け抜けた。
勝った人馬のみが入れる場所、ウィナーズサークル。栄光のその場所では、ビルヴェイグがカミーユに抱きしめられていた。
「素晴らしいですわ~、本当、ほんっとうに貴方は最高ですわぁ」
そう言ってカミーユは愛馬の首元を称えるように撫でる。それは愛が詰まった光景であった。
しかしここに至るまで、カミーユの身には様々な出来事が降りかかっていた。
☆
カミーユは何も最初から競馬に興味があったわけでは無い。カミーユの前世の人間が競馬にお熱だったのだ。
そして、その記憶を取り戻すだけの鮮烈な出会いが10年前に起こった。
当時10歳だったカミーユは、伯爵家が所有していた牧場への視察についていった。
伯爵夫妻が牧場主と話す中、木陰で暇を持て余していた彼女は、一頭の牝馬と出会ったのだ。
爽やかな5月の風を遊ばせるように放牧地を走るその姿に、カミーユは稲妻にでも打たれたかのような心地になる。
「お、おじさま。あのこ、なんていうの?」
「あの牝馬ですかお嬢様。あの馬の名は、ハーパーソンです。今は、お母さんになる準備中でしてね、こうして放牧地で楽にさせているんですよ」
一目惚れの出会いに震えるカミーユには気づかず、そう返した牧夫は、その後何事もなかったかのように伯爵夫妻との会話に戻る。彼にとっては今後の牧場経営に関する話し合いの方が大事だったのだ。
「ハーパーソン……、貴女に相応しい素敵な名前ね……」
ほぅ、と息をつきながらカミーユは目の前の牝馬を見つめ続けた。ハーパーソンはそんな彼女を揶揄うように、軽やかに緑と戯れる。彼女の艶やかな尻尾がサラサラと揺れ、額に描かれたダイヤの形の流星が、その端正な顔立ちをより一層美しく見せる。スラッと伸びた後ろ脚に、堂々とした背中は、今まで見てきたどんな生き物よりも瑞々しい生命力に溢れていた。
そうして彼女を見つめるうちに、カミーユは前世で競馬好きだったことを思い出すが、ハーパーソンとの出会いの前には些細なことすぎて、頭の中から吹き飛んでいた。そして、惚れた勢いそのままにカミーユは宣言する。
「お父様!お母様!馬主になるね、私!」
ただ、その宣言を聞いた伯爵夫妻は、思わず気を失いそうになるが、無理もない。
ロッケン王国では動力魔法が高度に発達しており、馬は輸送手段としての仕事を失くし、馬の仕事で辛うじて生き残っているのは競馬だけであった。その競馬も細々と続いている、先細りの産業に過ぎなかった。このままの状態が続けば、30年後にはロッケン王国から馬はいなくなる。そんな噂も囁かれるほどなのだ。
そんな状況の中で、馬主になるというカミーユの宣言は、あまりに荒唐無稽でしかなかった。牧夫も思わず、考え直したほうが良いと言い、両親にも勿論止められた。
だが、カミーユは諦めなかった。
頷かないなら頷かせれば良い、と彼女は伯爵家の財と自身の元々の才覚、前世の知識をフル活用し、齢15の頃から事業家として活動し始め、数々の事業を軌道に乗せていった。穀物業や運送業だけでなく、それまでロッケン王国になかった美容品等も開発をし、レストン伯爵領の年間収入の何倍にもなる金額を稼いだ。そうして稼いだ金を、全て競馬に注ぎ込んだのだ。
そんなカミーユの熱に感化され、馬をめぐる歯車は次々に動き始める。カミーユから援助された資金で、牧場は馬を増やし、競馬場は施設等の環境が整い、騎手が牧夫との兼業から一つの職業として成り立つようになり、新聞社が競馬を紙面で大きく取り上げられ、協賛したレースも開催されるようになった。
そうしてロッケン王国の競馬の知名度はドンドン上がっていき、遂には国交の途絶えていた競馬大国のジュレイム皇国と再度国交を結ぶまでになったのだ。
そうして大きくなった競馬界に、5年前、一頭のスターが現れる。
ハーパーソンの子のマーヴェリックである。彼は、嵐の日に生まれ、デビューしてから3連勝で大舞台のダービーへ駒を進めた。そのダービーは今でも語られるほどの熱戦であった。しかし、マーヴェリックはそのダービーをほんの少しの差で掴むことが出来なかった。そこから2戦、彼はそれを引きずるような負けを重ねた。だが、生まれた時と同じような嵐の日のレースで、彼は勝利の美酒を味わう。すると、それまでの雪辱を果たすかのように、彼は他の大舞台で次々と栄冠をつかみ取ったのだ。中にはダービーで負けた馬との熱戦もあり、その挫折と栄光に満ちた馬生に、人々は熱狂した。それは、マーヴェリックの馬主であったカミーユも例外ではなかった。その時、彼女はかつての宣言通りに馬主になり、ハーパーソンの子を全て所有していた。惚れた馬の子どもが、素晴らしい活躍をし、自分をその舞台に立たせてくれる。その一連の出来事は、カミーユの競馬熱をさらに盛り上がらせた。
☆
そんなカミーユの活躍を見て、伯爵夫妻は養子をとることにした。カミーユはこれまでの実績から、第3王子妃への打診があったのだ。そうでなくても爵位を授与して独立をさせ、自由にやらせたほうが良い、と彼らは考えた。そうしてやって来たのが、アランであった。彼はレストン伯爵家の傍流の子であったが、後継ぎではなかったので、ちょうどよいと伯爵家に来ることとなった。彼は経緯が経緯だけに、カミーユの競馬への熱狂ぶりに呆れるところもあったが、彼女の実績は尊敬に値するものであったため、良きビジネスパートナーとして事業を手伝い、跡取りとしての勉強にも励んだ。
その延長線上で王立学院であるロッケン学院にも、カミーユと共に通うこととなる。しかし、カミーユとアランの授業日程は大きく異なった。それは当然のことで、勉学が目的のアランと、形式的にとりあえず入ったカミーユでは、その目的からして違ったのだから。カミーユは既に事業を動かしている都合上多忙の身、そのため授業には殆ど出ず、出ても授業を途中で抜け出すことが多かった。それは、アランの働き掛けもあり、単位を課題を提出すれば確保できる形に交渉してから加速し、最終的には出席点が必要な授業の点呼が終われば、すぐ教室から出るまでとなった。
そうした行動は、事情をしっている者からすれば納得のいくものであったが、学院にいるほとんどの生徒からは奇行や素行不良に見えた。そこに、学院で野放し状態の第3王子ユリスの女グセの悪さも相まって、カミーユの行動は彼に気に入られたい女生徒から、第3王子に近づくための口実として利用された。その内の一人がジュディ男爵令嬢である。
彼女は、カミーユに虐められたと泣きながらユリスに近づき、見事、彼のお気に入りの座をゲットしたのだ。が、ここまで上手くいったのは、ユリスが馬に露ほども関心を示さなかったことと、活躍するカミーユへの嫉妬心が大きかった。ユリスはカミーユを貶めることさえ出来れば何でもよかったのだ。そして、冒頭にあった断罪劇を起こす。
この間、アランは何をしていたかというと、ユリスに命じられてカミーユの監視を行っていた。義姉の悪行を断罪の日に暴露するための証拠集めの一環であった。が、彼はカミーユが男爵令嬢にちょっかいをかけるほど暇ではないと知っていたため、逆にユリスとジュディの監視をしていた。ついでに、彼らに便乗して色々やらかしている人たちもメモしていた。それらはユリスにも、ジュディや取り巻きにも悟られず行われることとなる。出来る男でないと伯爵家跡取りは務まらないのだ。
そして、アランはカミーユが断罪されているはずの大広間で、その成果を発揮した。ユリスとジュディの味方のフリをしながら、逆に彼らを断罪したのである。
「私、カミーユ様からっ!学院に相応しくないって怒られてっ……」
「あぁ、ジュディ可哀想に……。アラン!早くあの女の悪行を皆に知らしめろ!」
「ミロス男爵令嬢が、カミーユから暴言を受けたとユリス殿下に相談をされた日でございますが、この時期、カミーユは長期出張に出ており、そもそも学院にいません」
「…………は?」
「……もっ!もっと前に言われましたっ!相談するよりもずっと前に言われたんです!」
「義姉が出張に出かけたのは、相談された日の1ヵ月ほど前なのですが、その時に言われたと仮定しても、何故1ヵ月経ってから殿下に相談されたのか分かりかねます。」
ジュディは味方だとおもっていた人物から、一枚一枚嘘の皮を剥かれる感覚の恐ろしさから、ユリスに抱きつき、泣く。
「それはッ!怖くってぇ……」
「アラン貴様ッ!ジュディを泣かせるなど!」
そんな彼女の姿に、ユリスは呆けた顔をアランへの怒りに滲ませるが、彼の追撃はこれだけでは止まらなかった。
「殿下、お言葉ですが、カミーユが学院に通う必要がなくなってからですよ、ミロス男爵令嬢が殿下に近づいたのは。それに、この時期のカミーユが訪れるのは職員室だけです。義姉は自分で課題を提出しなければならなかったので」
「とっ、取り巻きの方にカミーユ様が指示したかもしれないじゃないですか……!」
「残念ですが、取り巻きといった線も通じません。カミーユは学院に取り巻きといえるほどの友人はいません、……悲しいことながら。ただ、将来のビジネスパートナーの方はいらっしゃるかもしれません。が、まだ互いに挨拶も出来ていない関係ですので、取り巻きには該当しませんね」
そうアランが言い切った後、ユリスとジュディを周囲の冷たい目線が襲う。ここまでの騒ぎを起こしてしまえば、いくら王族といえど好意的にみられることは無い。今までのチヤホヤした空気から、この落差はユリスにとって非常に屈辱であった。彼は傍らにいた男爵令嬢を突き放すと、怒りに顔を歪ませながら大広間を出て行った。もうジュディのことなどどうでもよく、自分の活躍の場を台無しにしたカミーユへ、何か一言、言ってやらねば気が済まなかったのだ。
一人残されたジュディは、取り返しのつかないことをやらかしてしまった言い訳をしようと、口を開こうとした。
だが、その前にユリスの姉であるリリアン王女が、口を開く。
「……皆様、私共が用意した余興はいかがだったでしょうか。どちらの役者も共に、よく、出来た劇だったでしょう?」
彼女は五月蠅いユリスがいなくなり、料理しやすいジュディだけになるのを待っていた。不出来な弟の始末に無駄な時間を割くのも、修道院行きの小娘の戯言に耳を貸すのも嫌だったのだ。
騒動を余興とし、第3王子と男爵令嬢、どちらも役者がやったこととする。そうすることで、建前だけでも王室の名誉に傷がつかないようにしたのだ。そして、言外の圧力に大広間が静まる。自分の将来を賭けた一連の出来事が余興と済まされ、茫然自失とするジュディを警備の者に退場させ、リリアンは最後の後始末をしに、アランを連れてロッケン競馬場へ向かった。
その後、間合いを見計らったように、騒動が終わってから来た王太子のレーンが再開の音頭をとり、ロッケン学院の記念式典は何事もなかったかのように、また始まった。その後、ジュディの話をする者やカミーユを訝しむ者は一切現れることが無かった。
☆
スターステークスを勝ったビルヴェイグを見送り、次のレースの観戦に向かおうとしていたカミーユに、高圧的な声がかかる。第3王子のユリスであった。二人は、遠巻きに見つめる観衆を尻目に、また押し問答を繰り返す。
「おい!貴様、何故今日のパーティーに来なかったんだ!おかげで俺が恥をかいたんだぞ!」
「お言葉ですが、殿下。私、パーティーに出席だけはしています。」
「なっ!だが、あの場にいなかったではないか!」
「どの場かは分かりかねますが、競馬以上に優先されることなどありませんわ!」
「んなっ!」
カミーユのあまりにも競馬愛のつまったその言葉に、ユリスは絶句する。もっと詳しく言うのであれば、カミーユのあまりの言い分と開き直り具合に絶句していた。だが、カミーユにとって競馬以上に優先されることは無く、学院の記念式典程度であれば顔出しだけをして済ませるのは当然の事であった。ちなみに、今日の記念式典はユリスの婚約者として共に入場しなければならないはずであったが、ユリスは断罪で、カミーユは競馬で頭がいっぱいだったため、特に問題になることは無かった。
カミーユにとって、ユリスは最初から眼中になかったのだ。
憤慨するユリスに、声をかける人物がいた。
「いい加減にしなさい、ユリス」
「姉上ッ……!これは私たちの問題です、貴方に口を挟まないでいただきたい」
「……公の場であんな騒ぎを起こして、口を挟むなは無理があります」
そう言った後、大きくため息をついたリリアンは、渋るユリスを王室の馬車に連れて押し込む。リリアンの傍らには一通の書状を持ったアランがいた。
一人、置き去りにされたカミーユは、そんな騒動がなかったかのように、周囲の観衆と共に競馬観戦へと戻っていく。競馬を愛している彼女はこういった時でも非常にマイペースであった。
そんな彼女に呆れた目線を返しながらも、アランは今回の騒動で、カミーユが手を煩わせることが無いよう後始末に向かった。出来る義弟は義姉を思って行動することが出来なければならないのだ。
場所は変わり、競馬場正門脇に停められた王族専用の魔動馬車の中では、リリアンとユリスが二人きりで向かい合っていた。しかし、その中は非常に険悪な空気が漂っていた。もし、その馬車が動力魔法ではなく、本物の馬によって動かされていたのであれば、牽引している馬たちが怯えるほどの冷気が辺りに立ち込める。その中ではアランが事前に人払いをさせていなければ、野次馬がワラワラと嗅ぎ付けるような事態が起こっていた。
リリアンはさっさと用事を終わらせようと、アランから渡された書状を開く。ロッケン王国の象徴である鷲の印が押されたそれは、王からの通告書であった。
「ロッケン王国第3王太子、ユリス・ロッケンに言い渡します。貴殿を王籍から廃し、爵位を授与する運びとなりました。今後はミッドマイヤー公爵として、責務を果たすように」
「なっ……!何の権利があってそのような暴挙を!」
「はぁ……暴挙も何も、先日の定例会議に顔を出さなかったのは貴方でしょう。男爵令嬢にうつつを抜かし、サボったのはバレていますよ」
「ハッ!その程度のことでこのような書状を?父上も遂に頭が狂ったか!」
「何を勘違いしているかは知りませんが、これだけでこの処分になったわけでは無いに決まっているでしょう」
ユリスの開き直り具合に、リリアンは呆れながら今回の処分に至った顛末を話す。
断罪劇や男爵令嬢にうつつを抜かしたのは序の口でしかなく、他にもカジノでこさえた借金や日頃の素行不良、他の貴族と結託した横領まで、王家は全て把握していたのだ。本来であれば即刻廃籍となるのだが、王は実子ということもあり、最後に救済措置を設けた。それは、先日の王族のみを集めた定例会議で本人の口からこれまでの悪事を全て言わせ、反省し心を入れ替えるのであれば情状酌量の余地あり、と情けをかける予定であった。
しかし、ユリスはその最後の機会をふいにした。それだけでなく、カミーユを断罪するという国益を損なう話までが国王の耳に入ったのだ。それを聞いた国王は非常に怒り、ちゃぶ台返しのごとく議会室の机をひっくり返した。そして、その後始末に追われたリリアンとレーンは、心の中でユリスに死ぬほど舌打ちをした。ちなみに、汚職に関わった貴族の情報は全てアランの手によって既に貴族裁判所に引き渡されている。出来る男は仕事も早い。
自分のしたことが全て父にバレていることを知ったユリスは、顔面蒼白になる。そして、リリアンに縋りついた。なぜなら、ミッドマイヤー公爵という爵位は罪を犯した王族に与えられるもので、その実態は王城にある別邸で幽閉されるだけの、名ばかり公爵であったからだ。そんなところに押し込められてしまえば、今までのような生活は出来なくなる。それは、ユリスにとって一番避けたいことであった。
「あ、姉上っ!も、申し訳ありません!心より反省しております。ですので、どうか……、どうか父に謁見を……!」
が、彼の後始末で苦労したリリアンに泣き落としは通用しなかった。リリアンは泣きつくユリスを振り払い魔動馬車を降りる。そして、そのままユリスを乗せた魔動馬車はミッドマイヤー公爵邸へと向かった。
それを見送ってリリアンは一言、スッキリとした顔でこう言った。
「あー、一件落着♡」
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ここまで読んでくださってありがとうございます。批評がありましたら是非お願いします。
初投稿なので、何か反応があったらめちゃくちゃ嬉しいです。
6/23に一部訂正しました。
なまこさんからのコメントでいただいた魔動馬車という単語も使っています。
なまこさんありがとうございます。
余談:宝塚記念、イクイノックス強すぎて笑いました。
イクイノックスに逆らった予想しかしていなかったので、レース終わった後ひっくり返りました。笑ってください(笑)