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▼第二章 『初めてのトキメキ♪ 初めての人斬り♪〈その1〉』



「ふむふむ……〈殺陣〉、舞台や映画やドラマにおいて、俳優によって披露される、その肉体や武器を用いて行われる格闘場面での一連の動作のこと‥‥‥だってさ」

「‥‥まぁ……だいたい知ってたことだな~」


 検索したスマホ画面から気だるげに顔を上げたフーミィ(本間フミエ《芙美恵》)に、トール(根島トオル《透》)がそう答え、昼食を終えていた私はテーブルに上体を伏せながら「う~む」と生返事を返した。


 部活動紹介集会があった翌週の月曜の昼休み……。

 私は元〈杉本の三羽ガラス〉にして、共に斗南高校へ入学し、別々のクラスとなった幼なじみ、根島トオル《透》と本間フミエ《芙美恵》と共に、学食に併設されたテラス席で昼食をとりつつ、放課後からはじまる体験入部期間に備えた作戦会議をしていた。

 といっても、会議が必要だったのは私だけだったけれど‥‥‥。

 フーミィもトール(根島トオル《透》)も、当初の予定通り文芸部と映画部に入部する意向は変えてない。


「や~っぱそこ選ぶと思ってたわ、あの時そういう顔してたし!

 面白そうじゃん……〈殺陣部〉~、何が問題なのさ?」

「だって‥‥‥」

「不安? 心細い? ビビった?」


 トールの問いに答えあぐねていると、フーミィが食後のスナックをつまみながら勝手に代弁した。

 実際その通りだったので、私はそれ以上何も言えなかった。

 私は二人に、高校生活の青春をかける部活動の最有力候補に〈殺陣部〉を選んだことを伝えたが、それは先日の集会時の私の反応でとっくにお見通しだったようだ。

 だが、だからウンそうしよう! となるほど、私は決断力と行動力を鍛え上げられていなかった。


 土日の間に、斗南高校〈殺陣部〉と“殺陣”について、フーミィがスマホで検索するまでも無く、ネットで出来る範囲で自分で調べておいた。

 といっても、斗南高校〈殺陣部〉で分かったことは、今から5年前に同好会として発足して、部員増加に伴って二年前に部に昇格したことくらいだった。

 殺陣について調べると、こちらは情報がわんさかありすぎて逆によく分からなかった。

 どこから手をつけたら良いのやら‥‥‥となったのである。


 “殺陣”それは、主に日本刀を使った舞台や映像作品等のエンターテイメントにおける人同士の戦闘シーンを、安全を確保した上で再現したもの‥‥‥‥‥‥と私は理解した。


 そして、とりあえず今の世間では殺陣を習っている人が結構いて、動画投稿しているご時世であることが分かったくらいだ。

 そんな殺陣を、〈殺陣部〉のプレゼンを見るまで、自分がやるかもしれないなどと、今までまったく考えたこともなかった。

 考えたことも無かったが、チャンバラ自体が今まで特に嫌いという印象も無かった。

 むしろ数々の映画を見てきた私は、そこいらの女子高生よりも、アクションだのチャンバラの映像を見たことがある方だろう。

 だが、過去数年間運動もスポーツもロクにしてこなかった私にそんなアクティブな行いができるのだろうか?

 自分が部活動紹介集会で見たよう、木刀を持ってに華麗にチャンバラする姿を想像してみたが、どうも上手くいかなかった。

 自分がやる姿を想像できた部活動はそもそも無いのだが‥‥‥。


 私はようやく伏せていた顔を上げると、ギョッとした。

 いや入学以来もう何十回となとギョッとしてるのだが、高校デビューを決めたフーミィとトールの姿にまだ慣れてないのだ。

 フーミィは髪を左右で三つ編みお下げにして、黒ぶち伊達メガネで文学少女感を出している。

 いや、中学以前はそんなキャラ強めじゃなくて、どっちかというと陽キャっぽいビジュアルだっただろうに!

 一方トールは金髪に染めた髪をオールバックツンツンヘアにして、カチューシャで留めていた。

 中学までかけていたメガネはコンタクトレンズに代えたそうだ。

 以前は見事なメガネ陰キャだったビジュアルが、絵に描いたような陽キャを通り越してチャラ男となっている。

 ここ数年で急激に校風も緩くなったとはいえ、ようやるわ‥‥‥としか言えなかった。

 私は入学式でイメチェンした二人を初めて見て、当然何事だよ? と訊きたかったが、未だに訊けてはいない。

 気にはなるが、訊いたところでどうしようもないと思ったのだ。

 二人とも、私の知らないところでそれぞれの葛藤やら悩みを経て、そのイメチェンを選んだのだから‥‥‥思惑通りに物事が運ぶことを祈るしかない。

 ついでに、自分もなにか心機一転イメチェンに挑戦すれば良かった~! とチャンスを逃したことを少し後悔した。


「ヨウはさぁ、初めての部活で不安なんだろうけどさ‥‥‥みんな同じだよ~? 高校での初めての部活にゃ変わりないんだから……。

 わたしだってトールだって不安だし怖いって」

「……」

「‥‥‥〈殺陣部〉がバリバリの体育会系だったら嫌だな」

「ウゥ……」


 フーミィが慰めるように、かつ退路を塞ぐようなことを言う一方で、トールが弁当をかっこみながら、私が最も恐れていることをボソリと告げた。


「ま、ともかくフーミィの言う通り、どの部活に入ろうが、青春やりたいってんなら勇気を出して初めて見るしかないんだよな‥‥‥何でもそうだけどさ」


 箸を置きながら見た目の陽キャさとは正反対のトーンで、自分に言い聞かせるようにトールが言った。


「ダメだったなら他の部活選べば良いだけだしな」


 トールはそう付け加えた。

 実はこの時、私は二人に『〈殺陣部〉の体験入部につきあってぇ~』と頼むつもりで、その言葉は喉元まで出かけていた。

 今日の放課後より、新一年生の各部活への体験入部期間がはじまるのだ。

 しかし、二人に付き添いを頼めば、それは二人が入部するつもりの部活への体験入部の機会を奪うことになる。

 そして、私は自分が喘息時代に運動できなかったことを口実に、高校生活で部活に打ち込むことに過度にビビっている節があるが、入部への不安と恐怖を抱いているのはフーミィもトールも変わらないのだ。

 何かを初める前の不安と恐怖について、自分だけが特別味わっているなどという考えは間違っている・・・・・・というか個人的事情をを口実にした甘えだ。

 私は辛うじてその結論に至ることができた。

 私は気合を入れるべく、両の頬を両手でパチンと叩こうとして、ペチペチと化粧水塗ってるかのごとくショボく叩きながら立ち上がった。


「分かった! あんがと! 私行ってみるよ〈殺陣部〉の体験入部!」


 私は二人に宣言した。




 ‥‥‥そしてその日の放課後、私は校舎の片隅にある〈殺陣部〉の部室を訪問し、もぬけのからの物置と化した狭い部室にしばじ茫然とした。

 てっきり部活動紹介集会のプレゼンで見たポニテやユルふわ黄色ワンピ先輩が待ち受けてると思っていたのだ。

 だが‥‥‥“殺陣”を行う〈殺陣部〉が部室にいるわきゃなかった。

 そう思い至るのにタップリと数分を要した私は、大慌てで部室の戸に描かれていた張り紙から、〈殺陣部〉が活動しているという体育館へダッシュで向かったのだった。

 


                                           つづく

(※本作は作者の実際に体験した殺陣に関する知見を元に執筆されておりますが、世の殺陣の全てに適用されるとは限らない可能性があることをご了承ください)



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