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▼第一章 『これまでの! 茶ノ原ヨーコは!? 〈その2〉』

 部活動紹介集会、そう銘打たれたれた集会は斗南高校は第一体育館で行われた。

 斗南高校は敷地内に大小二つの体育館があり、うち一つは高体連で観客も呼ばれて使われる程バカでかいサイズがある。

 そこは高校が舞台のハリウッド映画やドラマで見るような、折り畳み式観客席が、中央のコートの面積にプラスして壁際に完備されるレべルの広さがあり、体育館最奥のステージとその前方空間を除く三方に用意された客席に座った我々新入生は、その観客席から、ステージおよびその前の空間で行われる斗南高校の各部が披露する部活動紹介プレゼンを見て、自分の入る部活を決める判断基準とする。

 それが部活動紹介集会だ。

 しかしそれは各部活の新入生勧誘のほんの序盤戦に過ぎない。

 だが、各部活のこの集会にかける意気込みは、部活動なるものに一切関わってこなかった私でも肌で感じられた。

 それもそうだ、部活勧誘も第一印象が大事だもの。



 私が小学生だった喘息時代の初期に、日本含む全世界を席巻した伝染病が収束して以降、日本中の多くの中学、高校において、理不尽に奪われた青春をリカバリーするかのごとく部活動という部活動が自然と盛んになり、中でもここ斗南高校は、県内でも特に部活動が盛んな高校とされていた。

 それは私がこの高校を選んだ理由の一つでもある。



 私は部活動に青春をかける気満々で集会に臨んだが、何部に入るかについてはノープランであった。

 だって、中学三年を半強制帰宅部で過ごした私には、内容に関わらず部活動に対するイロハが皆目分からなかったのだ。

 だからとりあえす私は、各部活動が持ち時間15分を使い、次々と行われる新入部員勧誘プレゼンを見て判断基準とするしかなかった。

 そして私は、割と早い段階で怖気づいた。

 だってどの部活のプレゼンも、めちゃくちゃ気合が入っていたからさぁ‥‥‥。



 心細いことに、〈杉本の三羽ガラス〉と一時期呼ばれたりもして、共に斗南高校へ入学した私の幼なじみ、根島トオル《透》と本間フミエ《芙美恵》は、本日の部活動紹介集会を待たず、それぞれ映画研究部と文芸部への入部を私に表明していた。

 まだ本決まりというわけでは無いそうだけど、その表明を聞いた瞬間、私は顔には出さずに内心焦っていた。

 自分が入る部活に一緒に入れ! などとはもちろん言えないけれど、その可能性がほぼ消えてしまったようなものなのだから……。

 それに、映研に入ると言うトオルを映画好きにしたのは、冬場にウチで遊ぶことになった時に、トオルを映画漬けにした自分に責任の一旦があったし、同じ様にラノベ原作アニメ漬けにした上に、元から(良く言えば)文学少女気質のフミエが文芸部を選ぶのは自然だ。

 私はちょっとだけ、自分の家の映画アニメのサブスクが充実していることを恨めしく思った。





 私の心細さを他所に、始まった集会の前半は運動部のプレゼンからだった。

 これでも私は運動部に入ることも視野に入れていた。

 中学卒業までロクに運動できなかった分だけ体動かしたかったし、今までやったことが無いスポーツでも、挑戦してみたら存外に才能があって、大活躍するかもしれないんじゃないかって、思ってたりなんかしちゃったんだもん……。

 だが、たたでさえ気合の入ってる我が校の運動部の、さらに気合の入った新入部員勧誘プレゼンを見て、私は自分の考えの甘さを思い知らされた。

 体育館で活動するバスケやバレーやバトミントン部などはまだしも、屋外を主戦場としている陸上部やソフトボール部、サッカー部やテニス部まで、体育館のステージを見事に使い、3年生の指示に従って2年生が一糸乱れぬ動きで、半ば無理矢理各スポーツの実演を見せ、ステージ上ではプロジェクターを使って動画による活動内容を説明し、各部がプレゼンをこなしていった。

 プレゼンする各部員の熱気によって、体育館内の室温が上がるのをリアルに感じた。

 その空気、まさに体育会系。

 私は自分がその空間に混ざった時の自分を想像してみた‥‥‥がまったくうまくいかなかった。

 今さらだが、私は体育会系ならではの厳格な上下関係というものをロクに経験せずにここまで来てしまったことに気づいた。

 ひ~ひ~言いながら先輩に顎で使われる(完全なる偏見)自分をイメージできなかったのだ。

 それを抜きにしても、これから運動部に入ろうという新入生は、大半が中学時代からの経験者だろう。

 自分なんぞが経験者である新入生に混じっても、イチから教えるリソースを無駄に割かせてご迷惑をおかけするだけだ‥‥‥そんな気がしてしまうのだった。



 私はそれでも部活動で青春したいという気持ちをなんとか維持したまま、後半戦に回された文化系部活のプレゼンに臨んだ。



 しかし、そちらでも私の懸念は消えはしなかった。

 ある意味、運動系部活よりも入部するハードルが高い気すらした。

 向き不向きが激しかったと言えるかもしれない。

 一部の文化部は、会場である体育館がホームグラウンドであることを活かし、運動部に負けないプレゼンをやってのけた。

 だがフィジカル関係無く、譜面も読めない私に合掌部や吹奏楽部や警音部は無理っぽかったし、応援団やチアリーディング部に入る自分も想像できなかった。

 巨大な筆と紙をもちいて行われ巨大習字部も、ダンス部も、若草物語の一部を披露した演劇部も、短編刑事映画を上映した映画部も、プレゼンそれ自体は大変素晴らしかったが、ピンと来たか? と言われれば、それすらもよく分からなかった。

 どんな部活を選んだとしても、この高校の部活に、部活動初体験の私なんぞが入部して、はたしてやっていけるのか? 目標である『青春する!』を達成できるのか? と思わずにはいられなかったのだ。

 運動部だろうが文化部だろうが、どの部活動も、部活すら初めてな私がいきなり入部しても、互いに不幸な結果しか呼ばないのではないか? そんな気がし始めていた。


 そんな中、私は聞きなれない『タテブ』とかいう名前の部活動のプレゼンを目にすることとなる。





 その瞬間、私は思わず『ガン・ブレイドだ~っ!!』と声に出してしまいそうになった。

 突然体育館に大音響で流れてきたそれは、私が兄の紹介で見て、プチハマりした昔々の深夜TVアニメのOP曲であった。


 〈痛快娯楽復讐劇〉と謳ったそのアニメは、妻を殺された男が、巨大な剣を振るいながら復讐相手を探す旅の途中で、悪党どもをバッタバッタと斬り倒す物語であり、そのOPは珍しくアニソン歌手によるタイアップ曲ではなく、尺八や和太鼓を多用したハイテンポの勇壮極まりない和風インストゥルメンタルであった。

 その和風でノリノリなメロディが大音響で流れだすのと同時に、体育館最奥のステージ上下(かみしも:左右)両袖から、三人ずつ、計六人の着物&袴姿の男女が現れると、曲のリズムと展開に合わせ、一糸乱れぬ動きで腰に差した木刀を抜いたかと思うと、ダンス部に匹敵する統制された動きで次々と技を繰り出した。

 気合の叫び声と共に、縦や斜め、真横に仮想敵を切り裂く木刀の鋭い動きに、会場の新入生が息を飲むのを感じた。

 呆気にとられる間もなく、曲の進行に合わせてステージから6人が流れるように降り、客席前空間で左右に別れると、ステージに新たなポニテ頭の女子が現れ、左右に別れた男女6人の前で一瞬立ち止まった。

 そして曲が最高に盛り上がるタイミングで、そのポニテ頭の女性部員がただならぬ瞬発力で6人の間にダッシュすると、目まぐるしい勢いで、時にスローモーションとなって、バッタバッタと自分の前に立ちふさがる6人を斬り倒していった。

 

 ――何だこれは! 私ゃこんなのはじめて見るぞ! ――


 それがいわゆるチャンバラ部、すなわち『殺陣』の部活であると、私はそのころになってようやく漢字変換に成功した。


 もちろん映像作品内いおけるチャンバラを画面を通して見たことは多々ある。

 だが生で見るチャンバラは、映像作品とは別種の迫力があることと私は初めて知った。

 それにしても‥‥‥、6人を瞬く間に斬り殺すポニテ女子部員の圧倒的強さたるや鬼神のごときであった。

 常識的に考えれば、6人相手に1人が勝てるわけがない。

 だが、ポニテ女子は巧みに移動を繰り返し、常に1対1で相手をぶった切るか、恐ろしいことに相手の一人の腕をひっつかんで分回し、敵の一人を盾にすることで数の劣勢を覆している。

 盾代わりにされた哀れな男子部員は、仲間にめった刺しにされたあげく、ポニテ女子にポイ捨てされた上に、そのポニテ女子に留めの一刀で斬り伏せられたところで、『ガン・ブレイド』のテーマはピタリと終わった。

 ポニテ女子は最後の一刀を斬り終えた状態のまま、時が止まったかのように静止した。

 止まったことで、私はそのポニテ女子がめっちゃ奇麗であることにようやく気づいた。

 そして彼女の構えた刀の先っちょが、ステージ真正面側の観客席にいる私の顔に突きつけているかのように思えて、私は一瞬、頭が真っ白けになった。




 それが〈殺陣部〉‥‥‥すなわちチャンバラを部活動にしようという部との出会いであった。

 私は人生でもトップクラスの感動と度肝を抜かれた。

 まさか世の中にそんな部活があるとは……。

 だが、度肝を抜かれたとはいえ、即殺陣部に入ろうなどとは夢にも思わなかった。

 だって、見るのも考えるのも初めて過ぎたんだもん。

 しかし、〈殺陣部〉のプレゼンはそれで終わりではなかった。



                                         つづく

(※本作は作者の実際に体験した殺陣に関する知見を元に執筆されておりますが、世の殺陣の全てに適用されるとは限らない可能性があることをご了承ください)


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