表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/21

▼第五章 『タッティーをご存知か!?〈その3〉』



 よく考えてみれば、タッティーが〈殺陣部〉に入るつもりだと私は勝手に思い込んで焦っていたが、昨日の午後に見た木刀を振るう人影が本当にタッティーだったという絶対的な確証は無く、私のささやかな意気込みは完全なる空回りの可能性が大いにあった。

 だが、タッティーはやってきた。

 ……やって来たといっても本日の〈殺陣部〉活動場所たる第二体育館の更衣室にだが、それでも彼女が女子更衣室に入ってきた瞬間、私は彼女が〈殺陣部〉に入ることを再度確信した。

 だって背中に木刀袋を背負っていたからだ。

 ツッキー先輩と着替えながら今朝について謝罪していた私は、タッティーが現れた瞬間、『ハゥァッ』とあからさまに息を飲んでしまうという、された側ならちょっと傷つきそうな大変失礼なリアクションをしてしまった。

 だがタッティーはタッティーで、うつむきながら入室して更衣室のドアを締めて室内を振り返った瞬間、更衣室にたまたま二人きりだった私とツッキー先輩を見て、『あぁっ!』と短く声をあげ、自分で締めたドアに背中からぶつかってしまった。


◆以下の問いに答えよ。

 早朝の校門付近で、待ち伏せのうえ突然手紙を渡した1年女子と渡された2年女子が、密室空間にて着替え途中の恰好で、例によってツッキー先輩が私の前で膝をつき、下半身ひっついて腰にタオルを巻いてる最中に、第三者が更衣室に入ってしまった場合、どのようなリアクションが考えられるか?

 

「うわぁああチャンバラさん!? 先輩!? ゴ……ゴゴゴメンナサイ オジャマシマシタ~!」


 私とツッキー先輩は、あらぬ勘違いをしたと思しきタッティーを大慌てで呼び止め、誤解を解くのに苦労した。







 話してみればタッティーは、当たり前だが普通の人間だった。

 艶々サラサラの髪、細く長い手足、白くきめ細かい肌、ぱっちりしたお目目と長いまつ毛を有しちゃいるが、異国の人でも異星人でも異世界人でもない。

 言葉も通じれば、私がツッキー先輩のラブレターを渡したと勘違いするくらいには恋バナが好きな普通の女の子であった。

 ついでに言えば、タッティーは私と同じ細さでありながら身長は私より5センチ以上高いモデル体形であったが、ムチウチ具合ではツバサ副部長はもちろん、ツッキー先輩の方に軍配が上がる。

 ビジュアルへの後天的な洗練具合はさすが都会から来たタッティーが上だが、ツッキー先輩も磨けばタッティーと同等に輝きますから~! と、私は勝手にツッキー先輩に心の中で声援を送っていた。

 


 ビジュアル方面とは別に、間近で見るタッティーは、やはりTV画面の向こうで見た溌剌とした印象と違い、ややもの静かであったが、礼儀正しく、やや遠慮がちであった。

 それが彼女の素なのか、子役時代に色々経験した結果なのかは分からない。

 それから彼女はめっちゃ標準語だった。


(※本文章は情報伝達の関係上、標準語吹き替え版でお送りしておりますが、私達は実際はのっつ地方訛りで会話しております)


 ただ意外なことに、タッティーは私のことを事前に知っていた。

 だから更衣室に入るなら私のことを“チャンバラ”と呼んだわけだが……。

 確かに一日だけ体験入部を共にしたが、彼女がその他大勢の中から私ごときの名を覚えているとは思わなかった。

 私だってタッティー以外の体験入部を共にした一年の顔と名前は覚えてないのだから。

 しかし、彼女は私の名を覚えていた。

 なんでも、部活動紹介集会時の殺陣の発表時に、真っ先にスタンディングオベーションした時に顔を覚えられ、その後の体験入部に私が参加し際に、私が殺陣〈マリオ〉に挑戦していたところを、他の部活の体験入部中だったタッティーが目撃していたのだそうな。

 まさかまさかである。

 その私の〈マリオ〉を見たこともあって、彼女は前々から興味のあった〈殺陣部〉の体験入部に参加し、今に至ったのだという。


 そういった経緯から、彼女は私を以前から認識し、なんなら軽く注目していたのだという。

 自分も殺陣ができるかもしれない……というサンプルとして。


 当然ながら、私は滅茶苦茶リアクションに困ったが、つい昨日まで勝手にライバル視していたタッティーに、私は実にサクッ手のひらを返し親近感を覚えたのだった。

 私は誤解を解く過程で、なぜに私の腰にツッキー先輩が巻き付き何をしていたかを話した流れで、タッティーにもお腹にタオルを巻くことを薦めた。

 私は今度こそ自分で持って来たタオルを腰に巻いてもらったので、ツッキー先輩が私用に確保していたバスタオルを、タッティーに使って貰ったのだ。

 私自身が何かしたわけでは無いが、タッティーはたいそう感激し、私はエヘンと鼻の下を人差し指でこすった。

 そして三人仲よく更衣室から体育館へと向かった。

 何もかもが初めてな高校一年同士、お互いに心細い感を埋める為に仲よくしておくに越したことは無い、と二人とも思ったのかもしれない。






 ……かくして私は、タッティーと共に一年生新入部員として〈殺陣部〉に正式入部した。

 本日の活動場所の体育館には、同じく正式入部した他の一年生部員を合わせ計5人の一年生の男女が集まっていた。

 それを迎えてた貫胴部長以下の先輩部員の方々は若干複雑そうな顔をしていた。

 タッティーが体育館に現れ、〈殺陣部〉への正式入部が決まった時は、あからさまなガッツポーズを伴った歓喜の姿勢を見せていたが、部活開始時刻になっても新入部員が計5人しか来なかったことに、多少ガッカリしたのかもしれない。

 確かにタッティーが入部したら、彼女のネームバリューで彼女にお近づきを試みる新入部員が増えても良いような気がしたが、現実はそうではなかったのだ。

 この他の部活と繰り広げた新入部員争奪戦の結果に、ツバサ副部長以下の先輩部員方は、ややどよ~んとした顔をしていたが、何故か貫胴部長だけは朗らかであった。

 その清々し気な表情が、新入部員の人数と関係しているのかは分からなかったが……。



 私と共に〈殺陣部〉に正式入部した一年は、タッティーの他に、ボーイッシュな女子と、私よりちっこい男子と、筋肉だるまみたいなバカでかい男子だった。


 タッティー除く三人の一年生が、体験入部で会ったことのある人物かはよく思い出せなかった。

 多分一緒に体験入部した気がするのだが、正直確証はない。

 あの時は正直それどころではなかったからだ。


 私はその三人の名前を覚える間もなく、タッティー含め、私達五人の一年はやや緊張した面持ちで、〈殺陣部〉正式活動の第一日目を開始した。



 ……とはいっても、最初の活動は体験入部と同じく入念なストレッチとウォームアップであった。

 私は体験入部の時よりもついて行けるようになってはいたが、ウォームアップが終わった時点で割とヘトヘトになっていた。

 それから貫胴部長の進行で、改めて部活動の開始の挨拶が行われるのだが……今回はその殺陣の挨拶の仕方をまず教わることとなった。


「なにしろ序盤は教えることが多くてね、何をするにも覚えてもらわないと進められないことがあり過ぎるんだ」


 貫胴部長はそう言いながら私達全員に木刀を携帯させると、私達含む部員全員を整列させ、殺陣式の挨拶の説明をはじめた。

 他の先輩方は私達が見やすいように私達の左右正面に立ち、私達のお手本となった。


「まず正座するわけなんだけど、正座をするのと同時に刀を右手に持ち替え、自分の右側に刀をこう置きます」


 そう説明しながら、部長は左腰に差した木刀を抜きながら、私達の正面でスッと体育館の(例によってステージ上)床に、やや膝を開いた状態で正座で座った。


「この時、刀は切っ先を真後ろ柄頭を正面、刃を内側に向け、柄頭は正座した膝小僧より前に出ないように、膝小僧から拳一個分横方向に離れた位置にこう置き、両手は両太ももの上に置きます。

 なぜ自分の右側に柄頭を前に向けて、刃を自分に向けているのかというと、これから挨拶する真正面にいる相手に対し、自分に攻撃の意思が無い事を示す為なわけ。

 もしも刀を正座した自分の左側に置いたら……」


 語りながら貫胴部長は一度自分の右側に置いた木刀を、左側に刃を外に向けた状態で置いた……と思った瞬間、左手で握っていた木刀の柄を右手で掴み、片膝立ちになると同時に抜刀し、目の前をの空間を真一文字に切り裂いた。


「もしも目の前の人間が、いつでもこんな攻撃をできる状態で座られたら、お互にが気が気じゃなくて挨拶どころじゃないだろう?

 逆に自分の右側に木刀を置いた場合、大抵の人は抜刀し辛くなり、攻撃の意思が無いことを示せるわけ

 だから殺陣での挨拶・‥‥ちゅうか武士の挨拶では、正座時は刀は自分の右側に刃を内側にして置く分け」


 部長はいきなり斬りかかれビクリとした真正面の私達をよそに、刀を右側において再び正座に戻った。

 私達は「ではやってみよう」という部長の言葉に従い、おずおずと腰を落として正座し、持っていた木刀を自分の右側に置いた。


「ここまでが正座状態のルール。

 こっから頭を下げて挨拶するわけなんだけど、これもただ頭を下げるわけじゃないんだな。

 まぜ左手、右手の順番で手を膝の前に置き、床の上で親指と人差し指同志をくっつけて三角形を作ります。

 で、その三角形に鼻を突っ込むように頭を下げてお辞儀して、挨拶します。

 頭を上げたら、三角形は右手、左手の順で膝の上に戻します」


 私達は「は……はぁ」とういう雰囲気で正座状態で頭を下げ『よろしくお願いいたします』と言ってからまた頭を上げる部長を見守

った。


「なんでまた指で三角形を作るのか? というと……Hey!ツッキー!」

「ふぁ!? ハイ!」


 ごく自然に部長の隣にいたツッキー先輩が、急に呼ばれてビクッとしたのを待たずに、部長は彼女の方に正座状態で向き直ると、今おこなった指で三角形を作り、頭を下げた。


「し……失礼! ってやぁあああ!」


 同じく正座状態だったツッキー先輩は、そう叫ぶと部長が頭を下げた瞬間を狙って、飛び掛かるようにして部長の後頭部を上から手で床に押し付けた。


「……フゴォォ……このように、自分に攻撃の意思が無くとも挨拶した相手に攻撃の意思が無いとは限らず、万が一頭を下げた瞬間を狙って、このように頭を床にブチ当てられる可能性に備え、このように指で三角形を作り、それで鼻と顔面を防御してるってわけ!

 ……あ、もう良いよツッキー! もう良いよアリアト~!」


 ツッキー先輩がどこか名残惜し気に貫胴部長の後頭部をワシワシやっていた手を放すと、貫胴部長はフウとばかりに顔を上げた。


「で、なぜ正座状態から手を床に着き三角形を作る時に、左手右手で手を出し、右手左手の順番で手を戻すのかと言うと……ツッキー!?」

「ハイ! テヤ!!」


 またも呼ばれたツッキー先輩であったが、今回は予測していたのか、再び自分に向き直って両手をついて頭を下げようとした部長に、先に握っていた木刀を大上段から振り下ろした。

 一瞬騒然となる私達、だがツッキー先輩の木刀が貫胴部長の脳天に足する前に、部長は右手で掴んだ木刀を水平にして頭上に構え、ツッキー先輩の木刀を受け止めていた。


「このように、万が一挨拶の相手から攻撃された際に、右手が刀から離れる時間を一瞬でも短くする為に、三角形を作る時は左手右手の順番で手を出し、右手左手の順番で戻すわけ」


 ツッキー先輩の刀を受け止めながら、貫胴部長はにこやかにそう言った。

 そして「ではやっと、皆で部活動開始の挨拶ができるな! じゃ挨拶してみようか!」と告げた。

 


 私はただの挨拶と思っていたところで、恐ろしく沢山の決まり事とその理由を一挙に説明され、とても一回の説明では覚えきれなかったのだが……。


「じゃいくぞ? まず……」


 貫胴部長が一挙手一投足ごとに言葉で解説しながら進めてくれたので、なんとか人生初の殺陣式の部活動開始の挨拶をやり遂げた。


『よろしくお願いいたします!』


 体育館に〈殺陣部〉部員の声が響き渡る。

 私の殺陣人生は、いま本当に始まったのかもしれなかった。












                           つづく



(※本作は作者の実際に体験した殺陣に関する知見を元に執筆されておりますが、世の殺陣の全てに適用されるとは限らない可能性があることをご了承ください)


 ご意見ご感想、アイディアご指摘その他諸々お待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ