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第五十六話:運命は闇に包まれて




「か、はッ……一体何が……」



 全身が熱い。

 噴き出す血に濡れているせいだ。


 見ればいくつかの箇所が瓦礫で抉られていた。



「く……ここまでの重傷を負ったのは久々になるな……」



 本当に刹那の出来事だった。


 夜の歓楽街にて仲間たちと談笑していたところ、長谷川さんの「逃げろ」という叫びが。


 瞬間、全てが一瞬で終わった。



「そうだ……『血色の嵐』が吹き荒び、周囲一帯ごと薙ぎ払われて……!」



 上体を起こして周りを見る。



「ああ、これは」



 なんて酷い有り様だ。

 情動の薄い俺ですらそう呟いてしまう惨状が、目の前に広がっていた。



「た、たすけ……っ」

「げほッ、ガハッ!?」

「おっかぁあぁぁああッ!」



 夜の京都は壊滅していた。


 絢爛な建物はものみな等しく潰れ、拉げ。

 そして先ほどまで笑顔だった町民たちは、血と涙の中で悶え苦しんでいた。



「そうだっ、俺の仲間は……!?」



 可愛らしい友人の真緒と、俺が何より愛する『九尾』。


 彼女たちと共に食事を楽しんでいたところだったんだ。



「おいっ、真緒!? 九尾っ!?」



 慣れぬ大声で必死で叫ぶ。

 答えは、ない。



「くそっ」



 首を振って周囲を見渡し、当たりの瓦礫をあてどなくどかす。

 だが見つからない。


 俺より体重の軽い彼女たちのことだ。

 先ほどの謎の嵐で、もっと遠くに飛ばされてしまったのかもしれない。



「二人とも……!」



 大切な者たちを求めて駆け出さんとする。

 あぁ待っていろ。

 この四条シオン、ちっぽけな命に代えてもお前たちを救い出してやるからな――と。


 そんな誓いを胸に、足を前に出したところで、



『なんだ小僧。探し人か?』



 そいつは、俺の前に現れた。


 西洋外套(ローブ)を纏った長髪の美丈夫だ。

 その右手には血色の槍が握られており、その左手には、



「真緒ッ!?」


「うぅ……ッ」



 意識を失った俺の親友、真緒が持ち上げられていた。



「真、緒」



 酷い状態だ。

 運悪く俺よりも瓦礫の散弾を浴びてしまったのか、白いチャイナドレスは無数の穴と噴き出す血潮で見るも無残な有り様になっていた。



『なんだ貴様、この麗しい少女の知己か』


「離せ」


『あぁ申し遅れた。我が名はヴラド・ツェペシュ。妖魔というやつだ。貴様ら日本人は知らんだろうが、北欧ではそれなりに名の知れた』


「俺の真緒を、離せ」



 ふざけた野郎を睨みつける。


 あぁ殺したい。

 今すぐにコイツを斬殺したい。

 なのに、俺の腰に刀がない。



「くそ……」



 先ほどの嵐に巻き込まれたせいだ。

 瓦礫を掠めたか鞘を括ったベルトが千切れ、俺の双刀はどこかに消え失せてしまっていた。



『ほう、いい殺意をする。だが飛びかかってこない現状を見るに、何らかの事情があるらしい』



 クククッ、と。

 ヴラドという男は嘲り笑うと、真緒の身体を酒杯のごとく掲げた。



『ならばそこで大人しく見ていろ。貴様の大切な者の血が、今から我に吸い尽くされる様をな!』



 口を大きく開くヴラド。

 覗く犬歯はまるで刃物のように尖り、月光の下で妖しく艶めいていた。



「ッ、やめろ……!」


『やめぬよ?』


「やめろッ、貴様ぁーーーッ!」


『ふははははは!』



 哄笑と共に、真緒の首筋が勢いよく噛まれた――!



「うぎッ!?」



 目を閉じながらも真緒が呻く。

 そんな彼女の苦痛すら楽しむように、ヴラドが目を細めながら、ついに喉を鳴らし始めた――その瞬間。



「クソメスの血なんざッ、飲むと腹ァ下すぞゴラァアアーーーッ!」



 闇を切り裂く影が舞う。

 一瞬にしてヴラドの片腕が千切れ飛び、真緒の姿が掻き消えた。



『何ッ……!?』


「ヘッ。メス野郎が捕まりやがって」



 現れたのは蘆屋(あしや)だった。

 その足先と指は巫装(ぶそう)に黒く覆われている。


 なるほど、それによって一瞬の脚力を強化し、手刀で敵の腕を切り裂いて見せたか。



「やるな、蘆屋。本当にありがとう」


「っ、うるせーよ! それよりも、おらよ」



 無造作に何かに投げる蘆屋。

 それはどこかに消え失せていた俺の双刃だった。



「これは……」


「飛んできたんだよ。オレ様の顔面目掛けてな。ったく、オメェも凶悪なら剣も凶悪ってか?」


「俺も剣も優しいが?」


「嘘を吐け」



 それとコイツも、と真緒をポイと渡してくる蘆屋。

 そのぞんざいな扱いにどうかと思いつつ、俺は親友を受け止めて優しく寝かした。

 見る限り身体に異常はないようだ。



『やってくれたな。その技術、相当な戦士だと見受けよう』



 片腕を失いながらも、妖魔・ヴラドに焦った様子は一切なかった。



「へ。腕なくしといて何をすかしてやがる?」


『ああ。こんなものは傷の内にも入らんよ』



 瞬間、千切れた断面から腕が勢いよく生えた。



「なっ」



 蘆屋と共に瞠目する。


 再生速度が尋常じゃない。

 いくら人ならざる妖魔とはいえ、四肢欠損を瞬きの間に終えただと?



『改めて名乗ろう。我が名はヴラド……欧州全土を恐怖で染めた、串刺し狂いの戦王である。集めた恐怖が妖魔の力になるならば、『最強』に近しい存在と言えようぞ?』



 奴の身体から妖気が溢れる。

 凄まじい圧だ。周囲一帯を包んだそれは、死屍累々の京都民たちを悶絶させて死なせていった。



「チッ……おいシオン」


「あぁ、わかってるさ蘆屋」



 間違いない。

 かつて戦ったエリザベートなど足元にも及ばない、コイツこそ今までで最大の敵だ。



『さぁ来るがいい戦士たちよ。死しても渇いた我が戦欲を』



 血色の槍を構えるヴラド。

 俺も刀の柄にかけ、蘆屋と共に敵を睨む。



『どうかッ、お前たちの血で満たさせてくれぇーーーッ!』


「「ぬかせッ!」」



 得物を手にして同時に駆け出す。


 漆黒の帳堕ちる夜の下、俺たちの暗闘が幕を開けた――!




・一部完結! ここまでありがとうございました!!!



ご感想にご評価、最後にお待ちしていますーーー!!!!


また

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新連載

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転生したら 暗 黒 破 壊 龍 ジ ェ ノ サ イ ド ・ ド ラ ゴ ン だった件 ~ほどほどに暮らしたいので、気ままに冒険者やってます~


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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


の二つを開始しましたので、次はそちらで会いましょう!!!

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― 新着の感想 ―
完結してないじゃん!!が正直なところ。他も読みます。
[良い点] 話の展開が後味の悪いところに行かない点。 また、予想も付かない展開をするため、先が気になる点。 作者の世間の恨みや怒りが反映されていない点。 笑いを催させる「ズレ」がこちらを疲れさせず、な…
[良い点] “「俺の真緒を、離せ」” 気絶して反応が見れないのが残念だw
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