第五十四話:新選組と蘆屋の最後
「――あっ、シオンと九尾さんやっときたー!」
京都支部を出た後のこと。色街で俺たちを出迎えてくれたのは、和装に着替えた真緒だった。
とてもよく似合っている。普段の白いチャイナ服から純白の着物に変わり、なんというか清楚さがアップした感じだ。
「花のように美しいな、真緒」
「ふぇっ!? は、花のようにって……!」
なぜか恥ずかしがっている様子だ。本当のことなのだから、誇ればいいのに。
「ぼ、僕のことはともかく、シオンもよく似合ってるよ。浅葱色の着物の上に、お父さんの黒い羽織を纏ったんだね? なんだか一気に『侍』って感じ。カッコいいよ!」
「そうか? それは嬉しいな」
親友と共にお互いを褒め合う。こうして素敵な友と出会えたのも、九尾があの日“生き足掻け”と俺に言ってくれたからだな。感謝してもし足りない。
「って、あれ? なんか九尾さん、ぐったりしてない……?」
と、そこで。真緒は俺の肩に乗っている九尾に目を向けた。
「大丈夫? なんだか息が上がってるようだし、風邪でも引いた?」
「いや問題ない。実はついさっきまで子」
『ぎゃああああああああああ言うなぁああああああああああーーーーーーーーッ!!!』
俺の言葉を遮る九尾。俺の頬をべしべし叩きながら『誰にも言うなッ! 絶対言うなッ!』と叫んできた。
九尾がそう言うなら従おう。
「というわけで真緒、別に彼女とは何もしてないぞ」
「彼女……? 九尾さんって、雄だから『彼』なんじゃ?」
「いや、もしかしたら母になってるかもだから――」
『黙れアホーーーーーーーーーーーーー!!!!』
頭突きをかまして俺を黙らせる九尾。
彼女はキョトンとする真緒を前に、まるで自分に言い聞かせるように『何もなかった……何もなかったのだぁ……!』と涙目で呟くのだった。
「本当にどうしたの九尾さん!? イヤなことでもあった!?」
「いやむしろ最後は悦んで――」
『だから黙れよぉおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!』
◆ ◇ ◆
「――うぉおおおおッ、ここが池田屋か……! 燃えるぜッ!」
「あ、蘆屋だ」
真緒と一緒に京都を散策していると(※九尾はふて寝した)、旅籠の前で何やら騒いでる蘆屋を発見した。挨拶しよ。
「よ」
「ってうぉおお!? トンチキ侍!?」
……その呼び名どうにかならないだろうか? あと8時間。
「それで蘆屋、お前なんでこんなところで騒いでるんだ? 旅籠なんて見て何が楽しい」
「アァッ!? オメェこの池田屋を知らねェーのかよッ!? あの『新選組』が大立ち回りしたとこなんだぞぉ!?」
新選組……? あぁ、なんか京都で有名な取り締まり組織だったか。
俺の親父も、犯罪者としてそいつらに斬られたって話だった。まぁ村長の嘘だったが。
「へへっ、オレ様は新選組が大好きでよォ。最後は敗北しちまったが、命果てるまで戦い抜いたってトコには燃えちまうよなァ。まぁ感性乏しそうなテメェにはこの良さがわからねーだろうがよっ!」
「ああその通りだな。ちなみにお前も8時間後に果てるぞ」
「ってどういう意味だよッッ!?」
ギャーギャーうるさい蘆屋を放置して移動する。九尾の機嫌を直すために美味しいおやつとか可愛い小物とか育児用品を探さなきゃだからな。
ちなみに立ち去る俺の背後では、真緒と蘆屋が「キミいい加減に素直にならないとやばいよ?」「う、うっせえ!」と何やら話していた。なんのこっちゃ?
「チッ――おいシオン! オレ様が特別に新選組の良さを教えてやっから、ちょっと付き合えゴラァ!」
「えっ……」
蘆屋……!
「――すまん。まったく興味ないからパスだ」
「ってテメェ死ねやゴラァアアアアアアアアッッッ!」
うーん死ねと言われてしまった。あと8時間後に絶対殺すね。




