第五十三話:深まる愛情
「――てわけで九尾。もしかしたら俺、人間と妖魔の合いの子かもだ」
『えぇ……』
麻呂麻呂さんから親父の話を聞いた後のこと。屋敷内の衣装室に通された俺は、スーツから和服に着替えていた。
『おいシオンよ。我が懐で寝てる間に、なんかとんでもない話になってないか?』
生八つ橋(※九尾用に買っておいた)をモグモグしながら、半目で俺を見上げてくる九尾。うーんとんでもない可愛さだ。チュウしちゃお。
「チュウーーーーーーー」
『ぎゃあああああああやめろクソボケェエエエエーーーーーーーーッ!?』
摘まみ上げて唇を近づけたら、ちっちゃい手足で全力抵抗してきた。今日も恥ずかしがり屋さんだってばよ。
『ふぅ……ともかく、貴様の父親については完全に謎だな。どういうわけか妖魔の女と逃げて、途中で大怪我をして、そして赤子の貴様とクソ村についたときには美男子になっていた? 意味わからん』
溜め息を吐く九尾。吐いた息を吸ったら『うげぇッ!?』とか叫ばれた。喜んでるのか?
『ったく……で、貴様の容姿はその時の父親似。ひいては妖魔の女似だったと。ふーーむ……妖魔の女が鳴命なる男のフリをしていたのか……いや、そうだとしても貴様の存在がわけわからんな。妖魔には、子を作る機能がないのだから』
「ほう、妖魔って子が出来ないのか? ――でも九尾、先日お股から血が出たって泣いてたような」
『ってそれはこの身体がおかしいせいだぁぁあああーーーーーーーーーーーッッッ!!!』
おっと九尾さんがキレてしまった。ちっちゃい手でのポコポコ攻撃を甘んじて受け入れるぜ。それでお前の気が晴れるならいい。
『うぐぐぅ……妖魔平賀のやつめ、何が生体人形だ……! 妖魔で、しかも雄の我に、なんて機能がついた身体を与えてくれたのかぁ……!』
グズグズと半泣きで愚痴る九尾が可愛い。
その可愛さのせいで色々と話は逸れてしまったが、でもわかったことはあった。
「何らかの技術があれば、妖魔でも子が産めるということか」
『ぐすっ……まぁそうだな……。それに真相はわからんが、もしも貴様の出生に妖魔が関わっているというなら、“我と貴様の状態”も納得が行く』
九尾は涙を拭うと、赤い瞳で俺を見てきた。
『今の我と貴様は命を共有した状態。普通はそんなの、ありえないのだ。しかし貴様が純正の人間でなく、何らかの形で妖魔の血を引いているなら――』
「妖魔を取り込めたことも、不思議じゃないってことか」
続けた言葉に九尾は頷く。
――なるほど。『八咫烏』の者たちからは、やたら俺の状態がありえないとか言われてたが、そういう仕掛けがあったからかもなのか。
もしもそうなら、父と母に感謝だな。おかげで大好きな九尾と一つになって生きれている。
『というわけで、ん』
「ん?」
何やら九尾がちっちゃい腕を広げてきた。何のつもりだ?
『貴様――自分が出生がおかしいと知って、実は動揺しているだろう?』
「なに……?」
……意味が分からない。俺が動揺したことなんて、幼女にしか見えない長谷川さんが三十六歳妻子持ちオッサンだと知った時くらいだ。
別に普段と変わりないのに、九尾ってば何を……。
『気付いてないのか? 貴様、さっきから我への求愛が激しすぎるぞ』
「っ、それは……」
『本部から追い出された時も、我も吸って安心しようとしていたよな? ……つまり、いま貴様は不安に思っているということではないか。違うのか?』
それは…………それは……そう、かもしれない。
四六時中一緒にいる九尾が違和感を感じているのだ。ならば俺は自覚のない内に、動揺していたのか。
『父の顔が自分の知るものと違うと知って、自分が人じゃないかもしれないと知って――それで動じぬ者など、いるわけがない。だから、ほれ』
九尾は胸を反らし、迎えるように腕を伸ばしてきた。
『今だけは特別に許してやる。頬ずりするなり吸うなり舐めるなり、好きにするがよい』
「九尾……!」
そう、か。こいつは……俺を慰めようとしてくれているのか……。
嬉しさで胸が詰まってしまう。これほどの喜びを感じたのは初めてだ。
俺は堪らず九尾を抱き寄せ、顔の前へと近づけた。
『あッ、言っとくが接吻はなしだからな!? 我はあくまで雄であってだな!』
「わかった」
じゃあ。
「子供作るか……!」
『えっ』
というわけで――俺はさっそく九尾のワンピースドレスをずり下ろした。
白く長い髪に負けないくらい、白磁の綺麗な肌が露わになる。
『って待て待て待て待て!? どうしてそうなるぅぅぅううっ!?』
「大丈夫だ。さっき言ったように、子供を作る機能はあるようだから……!」
『ンな心配はしとらんわ! むしろデキたら問題だろうがぁーーー!?』
問題ないさ。なにせ人間と父と妖魔の母の子かもしれない俺が、こうして元気に生きてるんだからな!
そんなわけで、まずは愛の接吻をかますのだった。チュゥウウウウウウウウウウーーーーーーーーー!
『おぎゃあああああああああああやめろォオオオオオオーーーーーーーーッ!』
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